5月22日、ドイツ・バイエル社(以下バイエル)は、神経栄養因子チロシンキナーゼ受容体(NTRK)遺伝子融合というゲノム変化がある局所進行性または転移性の成人および小児固形がん患者に特化した治療薬として開発された、経口トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)阻害薬であるラロトレクチニブ硫酸塩(以下ラロトレクチニブ)について、日本国内で製造販売承認を申請したと発表した。
TRK融合を有するがんは、NTRK遺伝子が別の無関係の遺伝子と融合し、通常と異なるTRKたんぱく質が生じることで発症する。TRK融合たんぱく質は恒常的に活性化フォームを取るか、過剰発現し、細胞内の増殖シグナルの伝達を活性化することにより、がんの広がりと増殖を促進する「発がん性ドライバー」として作用する。TRK融合を有するがんはまれであり、小児、成人にかかわらず、あらゆるがん腫で異なる頻度で発生する。
ラロトレクチニブは、局所進行性、転移性もしくは外科的切除により深刻な機能不全を招く可能性があり、他に適切な治療の選択肢がないNTRK遺伝子融合を有する成人および小児の固形がん患者に対して、既にヨーロッパで承認されている。
今回の申請は、成人患者が対象の第1相試験、成人および青年期の患者が対象の第2相試験(NEVIGATE試験)、および小児が対象となった第1/2相試験(SCOUT試験)の結果に基づくもの。これらの臨床試験を通じて、肺がん、甲状腺がん、悪性黒色腫、消化管間質腫瘍(GIST)、大腸がん、軟部肉腫、胆管がん、唾液腺がん、乳児型線維肉腫など、多岐にわたる固形がんで評価された。
同社の医療用医薬品部門のオンコロジー開発責任者のスコット・フィールズ氏は「今回の申請により、私たちは、TRK融合を有する成人および小児がん患者さんの治療に特化して開発され、がん腫や年齢によらず治療成績を大幅に改善する可能性を持つ、選択性の高い治療薬を日本の患者さんや医師に提供できる日に一歩近づきました。がんの治療は、これまで主に体内における発生部位ごとに行われてきましたが、ラロトレクチニブはがんの発生部位にかかわらず、TRK融合を有するがん患者さんのみを対象として開発されました。ラロトレクチニブには、TRK融合を有するがんに特化しておらず、また、TRK融合を有する患者さんにおける有効性および安全性が未実証である高額な治療法の代わりとなる可能性があることから、ラロトレクチニブによる治療は、これらのまれながんとの闘いにおける重要な進歩の一つといえます」と述べている。
なお、ラロトレクチニブの臨床試験は現在も進行中であり、最新の追加情報については今後の学術集会で発表される予定である。
ラロトレクチニブについて NTRK遺伝子融合を有するがんに特化した治療薬として開発された経口TRK阻害薬。ラロトレクチニブは中枢神経系の腫瘍を含むTRK融合を有する成人および小児の固形がん患者において、3年以上にわたり良好な安全性プロファイルと高い奏効割合と持続的な有効性を示した。同剤は、TRK阻害薬の中でも最大規模のデータと最長のフォローアップ期間のデータを有している。すでに米国、ブラジル、カナダ、および欧州連合(EU)などでは商品名「Vitrakvi」で承認を取得しており、その他の国の規制当局に対しても製造販売承認を申請中もしくは申請予定である。
参照元:バイエル薬品株式会社 プレスリリース