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がん治療の進歩-薬物療法-ASCOが注目するがん研究の最新動向と今後の課題(5)

[公開日] 2020.05.15[最終更新日] 2020.05.15

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発表した15th Clinical Cancer Advances 2020では、がん治療の進歩として、手術、放射線治療、薬物療法などでそれぞれ画期的な治療法として注目された研究成果を取り上げ、概要を説明している。薬物療法については、現在は免疫チェックポイント阻害薬に代表される薬物免疫療法が登場して最初の10年間の只中にあり、確実な進化を続けている。2018年11月から2019年10月の期間で米国食品医薬品局(FDA)が承認した治療法は、適応追加を含め43種類。この間に承認された薬物療法を中心としてがん種別に紹介する。

乳がん

HER2陽性乳がんの術後薬物療法(アジュバント)として、抗HER2抗体とチューブリン重合阻害薬の抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブエムタンシン(商品名カドサイラ)が承認された。その根拠となった第3相試験(KATHERINE、NCT01772472)では、対照アジュバントとしてトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)と比較した結果、カドサイラが術後残存する浸潤病変の再発や死亡のリスクを50%低下させることが示された。

転移性のトリプルネガティブ乳がんの一次化学療法ナブパクリタキセル(商品名アブラキサン)の併用薬として、PD-L1標的抗体アテゾリズマブ(商品名テセントリク)が承認された。第3相試験(IMpassion130、NCT02425891)では、アブラキサン単剤との比較で、病勢進行が有意に抑制され無増悪生存期間(PFS)が延長し、特に免疫細胞のPD-L1発現陽性の患者集団でその効果は顕著で、PD-L1陰性患者集団では群間差がなかったことが確認された。

腎細胞がん

一次治療としてPD-1標的抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)と血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)チロシンキナーゼ阻害薬アキシチニブ(商品名インライタ)の併用療法が承認された。標準薬のマルチキナーゼ阻害薬スニチニブ(商品名スーテント)の単剤治療よりも標的能の高い薬剤と免疫活性化を狙った併用療法で、第3相試験(KEYNOTE-426、NCT02853331)では、転移性腎細胞がん(RCC)患者を対象とするスーテント単剤群との比較で、治療1年半後の生存率が上昇し(各82.3%、72.1%)、無増悪生存期間が延長した(各15.1カ月、11.1カ月)。

一次治療としてはもう1つ、PD-L1標的抗体アベルマブ(商品名バベンチオ)とインライタの併用療法も承認された。第3相試験(JAVELIN Renal101、NCT02684006)では、初めて薬物療法を受ける進行RCC患者を対象とするスーテント単剤群との比較で、PFS中央値が2倍近くに延長し(各13.8カ月、7.2カ月)、グレード3以上の全有害事象は群間差がなかった。

進展型小細胞肺がん

これまでプラチナ系薬とエトポシド(商品名エステット)の併用療法が定着し、以来大きな進展はなかった進展型小細胞肺がん(SCLC)は、2019年、この併用療法に免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(テセントリク)を追加する治療法が承認された。第3相試験(IMpower133、NCT02763579)で、初めて薬物療法を受ける計403例を対象とするカルボプラチン+エトポシド併用群との比較で、この併用療法にテセントリクを追加した群は全生存期間(OS)中央値が延長し(各12.3カ月、10.3カ月)、PFS中央値も延長した(各5.2カ月、4.3カ月)。テセントリクを加えても有害事象が特に悪化することはなかった。

非ホジキンリンパ腫

非ホジキンリンパ腫(NHL)の中でも低悪性度B細胞性の主要なタイプである濾胞性リンパ腫、および辺縁帯リンパ腫に対し、2019年、化学療法を含まない併用療法が初めて承認された。抗CD20抗体リツキシマブ(商品名リツキサン)、レナリドミド(商品名レブラミド)の併用療法で、第3相試験(AUGMENT、NCT01938001)では、前治療が効かなかった患者計358例を対象とするリツキサン単剤群との比較で、レブラミドを併用した群ではPFSが有意に延長した(各39.4カ月、14.1カ月)。

卵巣がん

プラチナ系化学療法で効果が認められた後に進行したステージIIIまたはステージIVのBRCA1/2遺伝子変異陽性の卵巣がんは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬のオラパリブ(商品名リムパーザ)の登場で大きく変わった。その承認の根拠となった第3相試験(SOLO1、NCT01844986)では、計391例を対象とするプラセボ群との比較で、リムパーザ群では病勢進行、または死亡の割合が70%低下し、その効果は3年にわたり持続した。

尿路上皮がん

プラチナ系化学療法が標準治療とされるも十分な治療成績に到達していない尿路上皮がんに、分子標的薬が登場した。線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR2/3)阻害薬のエルダフィチニブ(商品名Balversa)で、プラチナ系薬を含む化学療法の実施中、または実施後に病勢進行し、FGFR2/3遺伝子変異陽性の局所進行、または転移性尿路上皮がんの適応で迅速承認された。第2相試験(JNJ-42756493、NCT02365597)では99例にエルダフィチニブを1日1回連日経口投与した結果、全奏効率は40%、前治療で免疫療法を受けた患者集団(22例)に限ると奏効率は59%に達した。

肝細胞がん

全世界で増加傾向にある肝細胞がん(HCC)は、初の分子標的薬ソラフェニブ(商品名ネクサバール)が承認されて以来、新薬開発が停滞しているように思われていたが、2018年から2019年にかけて3剤が承認された。いずれもネクサバール治療後の進行HCCの適応で、PD-1標的抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が迅速承認された他、マルチキナーゼ阻害薬カボザンチニブ(商品名カボメティクス)、および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR2)標的抗体ラムシルマブ(商品名サイラムザ)が承認された。

キイトルーダ迅速承認の根拠となった試験成績は第2相試験(KEYNOTE-224、NCT02702414)で、ネクサバール治療後に進行した患者104例にキイトルーダを投与したところ、奏効率17%(完全寛解[CR]1例、部分寛解[PR]17例)、病勢安定(SD)44%(44例)が認められた。

カボメティクス承認の根拠となった試験成績は第3相試験(CELESTIAL、NCT01908426)で、ネクサバール治療後に進行した患者計707例を対象としてプラセボ群と比較したところ、OS中央値(各10.2カ月、8カ月)、PFS中央値(各5.2カ月、1.9カ月)ともにカボメティクス群が延長した。

サイラムザ承認の根拠となった試験成績は第3相試験(REACH-2、NCT02435433)で、ネクサバール治療後でもαフェトプロテイン(AFP)が上昇している進行患者にサイラムザ、またはプラセボを投与したところ、OS中央値(各8.5カ月、7.3カ月)、PFS中央値(各2.8カ月、1.6カ月)ともにサイラムザ群が延長した。

参照元:
Clinical Cancer Advances 2020 Advances in Cancer Treatment
ニュース がん一般

医療ライター 川又 総江

国内製薬企業研究所研究員、大学医学部研究室助手を経てフリーのメディカルライターに転身。医薬・バイオ関連出版社等の文献翻訳、医療記事作成を執筆すること20年。

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