がん診断の進歩~ASCOが注目するがん研究の最新動向と今後の課題(4)Clinical Cancer Advances 2020(第15版)より


  • [公開日]2020.05.14
  • [最終更新日]2020.05.12

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発表した15th Clinical Cancer Advances 2020では、がんの分子診断として遺伝子検査技術の進歩を取り上げている。侵襲的な採取が必要な腫瘍組織生検のみならず、採取が簡便な血液や尿なども検体にできるバイオマーカー遺伝子の検査は、早期発見や予後予測、治療効果予測に重要な情報を与えてくれ、がんゲノム医療の重要な役割を果たしている。遺伝子バイオマーカーを特定し、その存在の有無や量を調べることで、がん診断の精密さが格段に向上したのみならず、バイオマーカーを根拠とした合理的な治療法の選択も可能になった。同レポートでは、診断精度の向上が見込める精巣胚細胞腫瘍のマイクロRNA371(M371)、ならびに治療正確性を高める可能性がある膵臓がんの乳がん遺伝子BRCAを紹介している。

精巣胚細胞腫瘍の高精度診断が期待されるバイオマーカーM371

精巣胚細胞腫瘍の分子診断は、過去数十年にわたり、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、α-フェトプロテイン(AFP)といった蛋白質を指標に行われてきたが、これらの診断精度は極めて不十分といわざるを得ない。2019年に発表された研究成果で、遺伝子バイオマーカーとしてマイクロRNA371(M371)の血清中濃度を測定する診断アプローチが紹介された。M371は病期ステージの判定と治療効果予測に活用できるという。別の研究では、病期ステージと腫瘍サイズ、治療効果予測におけるM371検査で、感度90%、特異度94%を示した。研究成果が蓄積されるにつれ、M371の診断ツール、治療管理ツールとしての有用性が強固なものになると期待されている。

転移性すい臓がんに初めて適用し得るバイオマーカーに基づく治療アプローチ

DNA損傷修復に関与する乳がん遺伝子BRCAの検査は、乳がんや卵巣がんの家族的ハイリスクの検出として普及している。また、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害作用を有する経口分子標的薬オラパリブ(商品名リムパーザ)で治療すべき患者の選抜に際して、BRCA遺伝子変異が重要な根拠となり得る。今回のASCOレポートでは、治療困難とされている膵臓がんとBRCA、リムパーザで組み立てられた研究成果が紹介された。

すなわち、米国や欧州などで米国立がん研究所(NCI)の一部資金提供を受けて行われた第3相無作為化二重盲検試験(POLO、NCI02184195)で、一次化学療法で病勢進行が停止し、生殖細胞系列BRCA遺伝子の変異が確認された転移性膵臓がんの維持療法としてリムパーザの効果が見いだされた。154例をリムパーザ300mg群、またはプラセボ群に割り付け、1日2回連日経口投与した。その結果、主要評価項目である無増悪生存期間PFS中央値は、リムパーザ群(7.4カ月)がプラセボ群(3.8カ月)より有意に延長し、維持療法開始の2年後、病勢進行が認められなかった患者の割合はリムパーザ群(22.1%)の方がプラセボ群(9.6%)より高かった。

参照元:
Clinical Cancer Advances 2020 Advances in Molecular Diagnostics

×

リサーチのお願い


この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン