・IL-6受容体阻害薬アクテムラ単剤療法の有効性・安全性を検証
・肺の炎症を抑制する効果がある可能性が示唆されたが、
他のがんへの臨床的応用が可能かどうかは大規模な臨床試験による検証が必要
2020年4月2日、医学誌『Annals of Oncology』にてSARS(重症急性呼吸器症候群)を発症した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性転移性腎細胞がん患者に対するIL-6受容体阻害薬であるトシリズマブ(商品名アクテムラ;以下アクテムラ)単剤療法の有効性、安全性を検証した症例報告の結果がGustave RoussyのJean-Marie Michot氏らにより公表された。なお、IL-6受容体阻害薬アクテムラは主に関節リウマチの治療薬として使用される薬剤である。
本試験が開始された背景として、SARS(重症急性呼吸器症候群)を発症する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者ではサイトカイン放出症候群が報告されている。アクテムラは腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群に対する効果効能を有しているため、本患者に対して有効である可能性が考えられる。以上の背景より、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した転移性腎細胞がん患者に対するアクテムラの有用性が本試験にて検証された。
本試験に参加した患者は、発熱、骨転移の主訴により外来を受診した42歳の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性の肉腫様腎細胞がん患者である。入院後、咳、発熱の症状が続くためロピナビル・リトナビル合剤(商品名カレトラ合剤)を5日間投与するも、8日目にして突然の呼吸困難、酸素飽和低下のために酸素補給が必要となる。
以上の患者に対してアクテムラ8mg/kg単剤療法を計2回投与したところ、体温は正常化、酸素補給による必要量が徐々に減少し、治療中止に至った。また、肺浸潤の部分的な退縮も確認できており、C反応性蛋白(CRP)が225mg/Lから33mg/Lに減少しており、この値がサイトカイン放出症候群の代理マーカーとして機能する可能性が示唆された。
以上の症例報告の結果よりean-Marie Michot氏らは以下のように結論を述べている。”新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した転移性腎細胞がん患者に対するIL-6受容体阻害薬アクテムラは肺の炎症を抑制する効果がある可能性が今回の症例報告により示唆されました。しかしながら、患者背景には大きな偏りがあるため、他のがん集団への臨床的応用が可能かどうかを検証するために大規模な臨床試験が必要でしょう。”
CASE STUDY RAISES POSSIBILITY OF TOCILIZUMAB FOR COVID-19 TREATMENT IN CANCER PATIENTS(OncologyPRO Date:07 Apr 2020)