・低用量アスピリンの肝細胞がんの発生率、肝関連死率、消化管出血率に対する長期的影響を検証
・アスピリン使用群で肝細胞がんの発生リスクを31%減少、肝関連死亡リスクを27%減少した
2020年3月12日、医学誌『The New England Journal of Medicine』にてB型またはC型慢性肝炎患者に対する低用量アスピリン(160mg以下として定義)の肝細胞がんの発生率、肝関連死率、消化管出血率に対する長期的影響を検証した試験の結果がMassachusetts General HospitalのTracey G. Simon氏らにより公表された。
本試験は、2005~15年にスウェーデンの全国規模のデータベースに登録されたB型またはC型慢性肝炎患者の中からアスピリンの使用歴のない成人患者(N=50,275人)を特定し、低用量アスピリンの服用を開始していた患者(14,205人)、低用量アスピリンを服用していない患者(36,070人)に分け、アスピリン使用歴の有無による肝細胞がんの発生率、肝関連死率、消化管出血率を比較検証した試験である。
本試験が実施された背景として、アスピリンがCOX-2酵素の阻害を含む様々なメカニズムで肝疾患、肝細胞がんの病勢進行を抑制する可能性が複数の疫学データより示唆されている。しかしながら、これら疫学データでは患者背景の偏りをはじめ、バイアスがあるサンプル集団を対象にした研究であった。以上の背景より、本試験が開始された。
本試験のフォローアップ期間中央値7.9年時点における結果は下記の通りである。肝細胞がんの発生率はアスピリン使用群4.0%(95%信頼区間:3.6%-4.4%)に対して非アスピリン使用群8.3%(95%信頼区間:8.1%-8.5%)と、両群間の差は-4.3%(95%信頼区間:-5.0%−-3.6,P<0.001)を示し、アスピリン使用群で肝細胞がんの発生リスクを31%(HR:0.69,95%信頼区間:0.62-0.76)減少した。
また、10年肝関連死亡率はアスピリン使用群11.0%(95%信頼区間:10.8%-11.2%)に対して非アスピリン使用群17.9%(95%信頼区間:17.8%-18.0%)、両群間の差は-6.9%(95%信頼区間:-8.1%−-5.7,P<0.001)を示し、アスピリン使用群で肝関連死亡リスクを27%(HR:0.73,95%信頼区間:0.67-0.81)減少した。
一方、10年消化管出血率はアスピリン使用群7.8%に対して非アスピリン使用群6.9%、両群間の差は0.9%(95%信頼区間:-0.6%−2.4,P<0.001)を示すも、両群間で10年消化管出血率の統計学的有意な差は確認されなかった。
以上の試験の結果よりTracey G. Simon氏らは以下のように結論を述べている。”B型またはC型慢性肝炎患者に対する低用量アスピリンは、非アスピリン使用患者に比べて肝細胞がんの発生リスク、肝関連死亡リスクを統計学的有意に減少し、かつ消化管出血のリスクは両群間で統計学的有意な差は確認されませんでした。”
Association of Aspirin with Hepatocellular Carcinoma and Liver-Related Mortality(N Engl J Med. 2020 Mar 12;382(11):1018-1028. doi: 10.1056/NEJMoa1912035.)