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納得のいく治療を選ぶために~シェアード・ディシジョンメイキング~

[公開日] 2019.08.16[最終更新日] 2019.08.16

目次

2019年7月18~20日にかけて京都で行われた第17回日本臨床腫瘍学会学術集会で、患者・家族、一般の方々に向けたプログラム「Patient Advocate Program」。医療者だけでなく、多くのがん患者さんが登壇し、活発な議論が3日間にわたって交わされました。その中から、7月18日に行われたセミナー「納得のいく治療を選ぶために~シェアード・ディシジョンメイキング~」(講師:日本医科大学武蔵小杉病院 腫瘍内科 勝俣 範之教授、セッション共催 株式会社バリアン メディカル システムズ)の模様をご紹介します。

本来の意味とは異なる使われ方をされているインフォームド・コンセント

日々、臨床医として多くの患者さんの診察に加えて、セカンドオピニオンなども精力的に行っている勝俣氏。 「“インフォームド・コンセント”という言葉が日本の医療現場で使われるようになって結構な年数がたちましたが、本来の意味とは異なる使われ方をしているように思います。インフォームドコンセントのコンセントは“合意する”という意味。なので、“医師が患者にインフォームドコンセントする”というのは間違っていて、“患者からインフォームドコンセントをいただいた”というのが正しい考え方だと思います」 そのうえで勝俣氏は日本の医療現場で行われている誤ったインフォームド・コンセント例として以下の3つを挙げた。 ・脅かして医療を進めようとする「脅迫型」 「あなたには手術をお勧めする。手術しなければ命の保証ができない。手術を拒否するなら、今後一切この病院で治療を受けないということで同意書にサインをしてくれ」 ・「松竹梅型」もしくは「自己責任押し付け型」 「治療の選択肢として3つあります。抗がん剤Aは効果20%、抗がん剤Bは効果30%、そして緩和ケア。どれにしますか?あなたが次の診察までに決めてきてください」 ・「見離し型」 「あなたへの標準治療は終了しました。これ以上の治療はありません。今後はホスピスをお勧めする。旅行でもすればよいと思う」

シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)が実現する「共有型」インフォームド・コンセント

「理想的なインフォームド・コンセントは、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)に基づいた“共有型”」と勝俣氏。「SDMを直訳すると“意思決定の共有”、言い換えると“一緒に考えていきましょう”ということですね。SDMを行うためには、良好なコミュニケーションが必要です。患者さんの個々の状況、どういうところが不安なのか、疑問なのか、しっかり聞き出して、個々にあったことを提案していく、それが納得につながると思います」と語り、がん治療において、どのような治療を選択するか、については、メリット・デメリットなど個々の患者さんと医療者が一緒に考えていくべき、とした。

実際に医療を受けるのは1人ひとりの患者さん

「エビデンス・ベースド・メディスン(科学に基づいた医療)があります。ただ、エビデンスだけで医療ができるかというと、そうではありません。実際に医療を受けるのは1人ひとりの患者さんです。エビデンスが目の前の患者さんに当てはまらない場合もあります。教科書では、EBMの3要素として、科学的データのほかに、医療者の専門性、患者さんの希望・価値観を挙げています」と勝俣氏は語り、がん医療におけるこの3要素について解説した。 早期がんの場合、医療の目標は再発を減らすことですが、科学的データが揃っているうえ、医療者の専門性もほぼ同一、患者さんの希望も治癒を目指す患者さんが多いので、3要素が比較的安定しているが、進行・再発がんでは、治癒を医療の目標として置くのはなかなか難しいものがある、と勝俣氏。 進行・再発がんではエビデンスよりも医療者の専門性、医療者と患者さんがいかに上手く話し合っていくのか、が大事と語りました。 「進行・再発がんには“延命効果”というエビデンスがありますが、それは全ての患者さんで“より良い効果”といえるでしょうか。“より良い”かどうかは患者さん個人個人の価値観により異なる部分が大きいと思います。 QOL(生活の質)の研究は難しいです。なぜなら、患者さん個人個人で大きく違うからです。同じ抗がん剤の副作用でも、ある患者さんはすごくつらくて治療を止めたいと思うかもしれませんし、ある患者さんは大丈夫という。個人個人のとらえ方が異なるので、QOLすなわち“より良く生きたか”については、なかなか決まった答えはありません。“延命効果”だけで“この治療をやるべき”という考えになってはいけません。科学的データは非常に限定されたものである、ということを知るべきです。 だから、進行・再発がんの場合は、EBMの3要素のうち、患者さんの希望・価値観が大きく影響しますし、環境や情報などによっても大きく変化します。その変化を医療者が適切なコミュニケーションで読み取れるか、がより適切な治療提案につながるのではないかな、と思っています」(勝俣氏)

「正しい情報」を知る、ということ~治療選択のヒント

治療選択で大事なのは、主治医が「ファースト・オピニオン」であることをちゃんと認識すること、と勝俣氏。 「セカンド・オピニオンも大事ですが、一番、ご自身の病状を知っているのは主治医です。治療の目標、代替療法も含めた治療の選択肢など、ファースト・オピニオンをしっかり聞いてください。患者さんができる工夫としては“時間を作ってくれないか、と依頼する”“質問を紙に書いて、事前に渡す”“もらえる資料・結果はなるべくコピーしてもらう”ことが大事」とアドバイスした。 また、正しい情報を知ることの重要性も伝えた。勝俣氏は「信頼できる医療情報を掲載しているサイトは10%足らず」という過去の調査結果を紹介し、インターネット情報には誇大広告・虚偽広告が多くあり、注意が必要と語った。 「標準治療は最善の治療です。そのほかに研究的な治療としては治験や先進医療があります。自由診療は、エビデンスも国の審査も無いです。自由診療の“自由”は“医者が自由に行っている”という“自由”です。海外ではがんの自由診療が厳しく規制されていますが、日本はそれほどでもありません。例えばビタミンC。既に20年以上前に効果が無いことが科学的に明らかになっています。「保険がきかない」「体験談がある」のは怪しいと考えてよいでしょう」(勝俣氏)

QOLを大事にすることは、お薬と同じくらい治療効果がある

がんの3大治療として手術、抗がん剤、放射線治療があるが、「4番目の治療として緩和治療があることを知っておいてほしい」と勝俣氏。しかし、まだまだ国内では、緩和ケアに関して、「終末期」「最後にやるもの」という大きな誤解がある、と語ります。 「緩和ケアは3大治療をしながら、患者さんのQOLを高める“ベースの治療”というのが世界的な常識になりつつあります。緩和ケアに延命効果があった、という研究結果も出ています。ところが、日本ではなかなかこの早期緩和ケアが進んでいません。日本では、8割の患者さんが亡くなる90日以内まで抗がん剤治療をしていたことが分かっています。これが何を意味するかというと、がん患者さんの8割が病院で亡くなっていること。最後まで抗がん剤治療を行った結果と言えます。最後まで抗がん剤治療を行うことが本当に幸せなのでしょうか。終末期に抗がん剤治療を行うことについて、科学的に良いデータが無いばかりか、副作用に悩むことになります。患者さんの“何かやってほしい”という声に医師も上手く伝えられずに抗がん剤を続けてしまう、これが多いのではないかと思います」(勝俣氏) 「早期の緩和ケアはよりよくがんとの共存を目指すということがテーマです。そのためには、話し合いを何回も何回も続けることが大事。患者さんの個々の状況を聞きながら、ともに決めていく。それこそがシェアード・ディシジョン・メイキングです」と勝俣氏。 「進行・再発がんの治療は、患者さんのQOLの話を抜きにしては語れません。治癒ではなく、より良い共存を。そして、その“より良い”は医師が決めることではなく、患者さんが決めること。そのためには患者さんが大切にしていることを聞く。これが大事なことなので、是非、医師と話してほしい。こういうQOLのことって、患者さんはどうしても後回しにしてしまう。治療を優先してしまう。家族との時間や趣味、やりたいことをしっかりと伝えていく。“世界一周旅行に行きたい”“孫の運動会に出たい”でもなんでもいいです。がんになると、とかく自分の大事なことや夢を置き去りにして、治療に専念してしまいがちですが、QOLを大事にすることは、お薬と同じくらい治療効果がある、と考えてもいいでしょう」と医師とのコミュニケーションを活発にすることの重要性を強調して講演を締めました。
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田中智貴

医師向けWEBメディア、一般向け医療WEBメディアの編集長を歴任。2019年より「オンコロ」編集部に参画。

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