肺がん診療におけるゲノム医療の新たな展開遺伝子パネル検査の正しい理解を


  • [公開日]2019.07.05
  • [最終更新日]2019.07.05
この記事の3つのポイント
コンパニオン診断遺伝子パネル検査は別物、目的も異なる
ゲノム医療個別化医療)の目的は遺伝子検査をすることでなく、検査の結果を踏まえ有効性の高い治療が可能になることである
・コンパニオン診断に次世代シークエンサーを使用することにより、必要な組織量が1/4程度となり、診断時間の短縮にもつながる

6月10日、ノバルティスファーマ株式会社とサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の共催にて、「肺がん診療におけるゲノム医療~新たな展開へ~」と題するセミナーを開催。東京大学大学院医学系研究科 次世代病理情報連携学講座 特任教授である佐々木 毅先生と、国立がん研修センター東病院 呼吸器内科長の後藤 功一 先生が講演した。

30以上のがんゲノム医療拠点病院が設立予定

佐々木先生は、これからのがんゲノム医療の提供体制に関して言及。新たにがんゲノム医療拠点病院が設立されることにより、地域格差をなくす体制が整備されていくと述べた。今後の整備予定ならびにその主な規定は以下の通り。

  • 現行のがんゲノム医療中核医療病院11ヶ所に加えて、がんゲノム医療拠点病院30数ヶ所が、2019年9月に指定される予定
  • がんゲノム医療中核医療病院または拠点病院に連携する、がんゲノム医療連携病院を認定
  • 中核拠点病院、拠点病院、連携病院の違いは、臨床検査室、病理検査室などの検査室が第三者認定(ISO15189)を受けているか、また常勤の病理医師数などの規定が異なる

コンパニオン診断とがん遺伝子パネル検査の違いとは

佐々木先生は、コンパニオン診断とがん遺伝子パネル検査(プロファイリング検査)の違いを説明。コンパニオン診断は施設に限らず実施が可能であり、診断結果が承認薬による治療に直結している。一方で遺伝子パネル検査は実施できる施設が限られる上に、新たな治療法(治療薬)が見つかる確率は低いとした。

表1

非小細胞肺がんでは次世代シーケンサーが保険適応に

佐々木先生は、先日保険収載された次世代シーケンサーについても解説。従来の検査方法では、1回の検査で1つの遺伝子変異を確認するという形であったが、オンコマインをはじめとする次世代シーケンサーの登場によって、1度に複数の遺伝子変異が確認できるようになった。

オンコマインでは、4つのドライバー遺伝子変異(EGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異)の検出が可能だ。限られた腫瘍組織(検体)から4つの遺伝子変異を同時に検査できるため、必要となる検体の量が少なくて済む。そのため、従来の遺伝子検査では検体が不足した場合などで必要であった、再度組織を取る「再生検」の可能性が低減するため、結果患者さんの負担軽減につながると考えられる。

ゲノム医療(個別化医療)の「本質」とは

続いて後藤先生は、ゲノム医療(個別化医療)に関する内容を中心に講演した。

進行肺がんの薬物治療には、「従来の抗がん剤」「遺伝子解析に基づいて対象を選択する、分子標的治療薬」「免疫チェックポイント阻害薬」等の選択肢があるが、選択の際には遺伝子検査を行う必要がある。これが「遺伝子解析による治療の個別化」だ。たとえば、非小細胞肺がんの患者さんでは、遺伝子変化の有無を確認し、EGFR遺伝子変異があればEGFR阻害薬を使用、ROS1融合遺伝子が確認されればROS1阻害薬を使用する、というものだ。

昨今話題の「ゲノム医療」とは、「個別化医療」や「Precision Medicine」と同義語であるが、遺伝子解析(検査)に基づき、有効な治療薬を患者さんへ届けることが最も重要な点だ。つまり、真の目的は遺伝子検査をすることでなく、検査の結果を踏まえ有効性の高い治療が可能になることである。

これまで高額な費用負担が必要であった遺伝子パネル検査が保険適応となったことで、2019年は「ゲノム医療元年」とも言われる。一方、後藤先生は個人的な見解ではあるとした上で、「遺伝子検査ができても、有効な治療薬が届かなければ、医療とは言えない」とコメントした。

コンパニオン検査とプロファイリング検査、その違いは?

続いて、コンパニオン検査とプロファイリング検査の違いについて、後藤先生も解説。コンパニオン検査は治療薬と「1対1」の関係にあり、陽性であれば、承認された有効な治療薬が投与可能になる。一方、プロファイリング検査は、標準治療が完了後、更なる治療の可能性を求めて行うものであるため、治療選択は臨床試験など未承認薬を検討することになる。

2019年5月に保険収載となったプロファイリング検査だが、自己負担額は3割負担で16万円強。高額療養費制度を用いても8~10万円ほどの費用負担が発生するため、決して安くはない。一方で、その治療選択肢は、臨床試験などの未承認薬となるため、治療までたどり着ける患者さんの割合は、高く見積もっても10%程度と言われている。そのため、ゲノム医療の主体はコンパニオン検査と言える。

この点についても後藤先生は、個人的な見解だと前置きした上で、「研究としては興味深いが、薬は限られた人にしか届かない中で、国民皆保険で導入してやるべきなのか?治療(薬)が届かなければ全生存期間(OS)も変わらないので、この部分に関しては立ち止まり、検討していく必要がある」と述べた。

もし肺がんの治療を受けることになったら~患者さんへのメッセージ~

最後に、後藤先生は患者さんへ向け、以下のメッセージを述べて講演を結んだ。

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もし肺がんの治療を受けることになったら

  • 肺がんについて勉強する
  • 症状をしっかり把握する
  • 病状に合う標準的治療を尋ねる
  • 医師の説明を聞きながら、納得のいく治療を選択する(治療方針の決定に参加する)
  • 遺伝子変化の有無を確認する

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