・米国の初診乳がん患者を「RS検査の有無」などで分類
・高リスク集団では、全医療コストと化学療法コストの低減につながった
遠隔転移のないエストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者は、アジュバント(術後)化学療法を実施するか否かを決める根拠を得るため、乳がん遺伝子検査が推奨されている。再発可能性が低いことを確認すれば、不要な化学療法を回避してホルモン療法などで対処でき、化学療法のコスト低減、さらには全体の医療費抑制につながる。このことは、経済モデルを含む研究結果などですでに複数報告されているが、米国Duke大学Dukeがん研究所のShelby D. Reed氏らは、米国の65歳超のがん患者の典型的な実臨床データを対象として初めて分析し、2019年3月11日のJournal of the National Comprehensive Cancer Network(JNCCN)誌オンライン版で発表した。今のところ、「再発スコア(RS)を提示する遺伝子検査(RS検査)の実施が化学療法コストを下げる」というのが、現場の常識として差し支えないとの見方を示した。
Oncotype DX21-遺伝子検査の再発スコアの有無とリスク分類でコストを比較
「Oncotype(オンコタイプ)DX21-遺伝子再発スコア(RS)」といった乳がんRS検査は、アジュバント(術後)化学療法を実施するか否かを決定するための根拠を数値で提供している。RS検査が化学療法のコスト低減に貢献すると結論している報告についてReed氏らは、経済モデルは研究者の思い込みが入り込む余地があり、バイアスによって影響されている可能性があること、治療方針の決定に患者個人の好みや優先順位が影響し、RS検査結果やガイドライン、医師の推奨に必ずしも従うとは限らないという実態を含めて検証する必要であることを示した。そこで、米国の初診乳がん患者の代表的な集団を「RS検査を受けた」「受けなかった」並びに「化学療法を受けた」「受けなかった」に分類、さらに、それぞれでリスク分類し、診断前後1年間の全医療コストと化学療法コストなどを抽出し、様々な角度から比較分析した。
その結果、本分析から導かれた結論は、高リスク集団でRS検査を受けることは、全医療コストと化学療法コストの低減につながり、これは、高リスク集団で化学療法を受けなかった患者の割合が少なかったことと一致する。また、中リスクの集団では、RS検査を受けたことが化学療法コストにほとんど影響せず、全医療コストが増加する。低リスク集団ではRS検査を受けたことで、全医療コストと化学療法コストがともに増加する。これらの患者集団では、がん以外にかかる医療コストが増加するため、がんとの関連を問わず医療資源の利用割合が高くなる傾向が根底にあると考えられた。
本分析研究は、米国高齢者医療保険メディケア受益者3万人超のデータを用いた後向き研究である。分析の概要と主な結果を以下に示す。
分析対象は、2005年から2011年に乳がんと診断された66歳から75歳の高齢者医療保険メディケアの被保険者で、ER陽性、遠隔転移なし、局所浸潤の乳がん患者計30058人。これは、米国立がん研究所(NCI)とメディケア&メディケイドサービスセンターが共同で構築しているデータベースから抽出したSEER-Medicareのデータセットである。なお、SEERのデータには全米のがん患者の約28%が含まれる。また、66歳から75歳に限定したのは、RS検査はこの年齢層において臨床的に検証され、最初に推奨されているからである。
約3万人中、RS検査を受けたのは17.5%、化学療法を受けたのは21.6%
・全分析対象30058人中、RS検査を受けたのは5260人(17.5%)、受けなかったのは24798人(82.5%)で、リスク分類は、およそ半数(48.4%)が中リスク、26.7%が低リスク、24.9%が高リスクであった。
・RS検査を受けたグループ5260人では、平均70歳未満の患者が大半を占め、65歳から70歳が59.6%、71歳から75歳が40.4%であった。リスク別では中リスクが大半を占めて69.5%、低リスクは17.2%、高リスクは13.3%であった。
・RS検査を受けなかったグループ24798人でも、中リスクが最も多く43.9%を占め、低リスクは28.7%、高リスクは27.4%であった。
・全分析対象30058人中、化学療法を受けたのは21.6%(6505人)であった。RS検査を受けたグループ5260人中で化学療法を受けたのは16.9%(887人)、RS検査を受けなかったグループ24798人中で化学療法を受けたのは22.7%(5618人)であった。
各分類別のコスト比較
・全医療コスト、化学療法コスト、非がん関連コストは、いずれもリスクが高いほど有意に高かった。
・RS検査を受けたグループの方が受けなかったグループよりも、全医療コストは有意に高く、化学療法コストは有意に低かった。
・化学療法を受けた患者集団は受けなかった患者集団よりも、全医療コスト、化学療法コストともに有意に高かった。
・高リスク集団では、RS検査を受けたグループの方が受けなかったグループよりも、全医療コストが12%、化学療法コストが57%、いずれも有意に低下した。
・中リスク集団では、RS検査を受けたグループの方が受けなかったグループよりも、全医療コストが18%有意に増加し、化学療法コストは有意差がなかった。
・低リスク集団では、RS検査を受けたグループの方が受けなかったグループよりも、全医療コストが37%有意に増加し、化学療法コストは156%有意に増加した。
・非がん関連コストは、RS検査を受けたグループの方が受けなかったグループよりも、中リスク集団では21%、低リスク集団では51%、いずれも有意に増加していた。高リスク集団ではRS検査を受けたか否かによる差はなかった。
以上の傾向は、66歳から75歳のメディケア被保険者の全てのがん患者64996人を対象とした感度分析、年齢や人種、典型的な臨床のリスク分類、国勢調査情報などに基づく生活状況といった様々な因子を含めた補正分析でも同様で、30058人を対象とした本分析結果の裏付けが得られた。