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がん免疫療法に肥満はプラスかマイナスか

[公開日] 2019.03.26[最終更新日] 2019.03.26

目次

この記事の3つのポイント ・がん種を問わず肥満はがんの促進要因とみなされている
・一方、BMI 30kg/m2超の患者の方が、がん免疫療法の効果がすぐれていた
・疑義はあるが、抗ウイルス反応やワクチン応答に適用される可能性も

健康な日常生活を送る上で、肥満は悪玉である。それだけでなく、病気に罹りやすくなる、治療が効きにくいなど様々な面で、肥満が良い影響をもたらすことはないと考えられている。それがほぼ常識とされている昨今、PD-1/PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法は、肥満傾向の患者の方が有益性を得やすいとの報告が出てきた。米国カリフォルニア大学デービス校のWilliam J. Murphy氏らは、2019年3月18日のJAMAオンライン版で、そうした報告に対する視点を紹介し、今後の課題を提案している。

肥満がネガティブファクター(マイナス)である理由

肥満は、言ってみれば低グレードの慢性炎症が続いている状態で、炎症性サイトカインが一部仲介する全身性の自然免疫活性化状態である。一方で、肥満は獲得免疫反応を抑制するため、感染症に罹りやすく、ワクチンの効果が少ないなど、慢性炎症状態がおよぼす不利益も指摘されている。加齢も、肥満とは関係なく同様のプロセスを辿るため、そこに肥満が加われば、免疫環境はより悪い方向に向かう。なお、肥満+加齢のこうした背景は、炎症(Inflammation)と加齢(Aging)を合わせて、「Inflammaging(インフラメージング)」と呼ばれている。

またがん領域の研究でも、肥満はがんを誘発し、発症後はがんの進行を促進すると考えられているため、がん種を問わず肥満はがんの促進要因であり、治療薬の毒性を増し、オフターゲット作用を働くなど、予後を悪くするネガティブファクターとみなされている。

BMI30超で免疫チェックポイント阻害薬による生存ベネフィットが改善

その上で、カリフォルニア大学のMonjazeb AM氏らは、ニボルマブ(商品名オプジーボ)に代表されるプログラム細胞死受容体または同リガンド(PD-1/PD-L1)を標的とする免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん免疫療法による効果を、250例を対象として、体格指数(BMI)で層別して解析した。

その結果、肥満状態を示すBMI 30kg/m2超の患者集団の方が、BMI正常範囲の患者集団よりも有意にすぐれることを発見。有効性の指標とした無増悪生存期間(PFS)中央値は、肥満集団(8カ月)の方が正常集団(4.7カ月)より有意に延長し、全生存期間(OS)中央値も同様に有意差が認められた(各17.4カ月、12カ月)。したがって、肥満状態の患者はがんの進行が促進され、免疫が抑制されているにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬による抗腫瘍免疫反応が増強されたことが示された(Nature Medicine, Published: 12 November 2018)。

別の報告でも同様の生存ベネフィットが得られた。米国テキサスMDアンダーソンがんセンターのDavies MA氏らは、免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた悪性黒色腫患者170例を対象として、BMIによる層別解析を行ったところ、BMI 30kg/m2超の肥満集団はBMI 30kg/m2未満の集団と比べ、増悪または死亡のリスクが25%低下し、全死因死亡のリスクが36%低下した(The Lancet Oncology, Published: February 12, 2018)。

肥満がポジティブファクター(プラス)であるならば

Murphy氏らは、高いBMIで肥満状態にあるがん患者におけるPD-1/PD-L1標的の免疫チェックポイント阻害薬の治療は、免疫抑制状態で腫瘍代謝が亢進している状態でも、腫瘍を攻撃するT細胞反応を誘導している可能性があるという上記の逆説的な検証報告を踏まえ、疑問点は多々あるものの、肥満が、ネガティブファクターからポジティブファクターへと認識の転換が起こるかも知れないとしている。しかもその概念は、がんだけでなく、抗ウイルス反応やワクチン応答にも適用される可能性がある。とにかく、古い概念や常識を見直すために、健康と病気における肥満という動的状態の再評価が必要としている。

肥満という生理学的多面性を解明するのは簡単なことではない。上記報告の検証結果は、肥満そのものに対する疑問を抽出し、理解を深めるのみならず、免疫学そのものの原理、本質をさらに追及するきっかけとなりそうである。

The Surprisingly Positive Association Between Obesity and Cancer Immunotherapy Efficacy(JAMA. Published online March 18, 2019. doi:10.1001/jama.2019.0463)

ニュース オプジーボ

医療ライター 川又 総江

国内製薬企業研究所研究員、大学医学部研究室助手を経てフリーのメディカルライターに転身。医薬・バイオ関連出版社等の文献翻訳、医療記事作成を執筆すること20年。

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