マクロファージ免疫チェックポイント阻害薬を利用するがん免疫療法の新戦略NNew England Journal of Medicine(NEJM)より


  • [公開日]2018.11.06
  • [最終更新日]2019.04.17
この記事の3つのポイント
・マクロファージサイドに着目した免疫チェックポイント戦略
・CD47がマクロファージの抗腫瘍活性を抑制する免疫チェックポイント分子となる
・非ホジキンリンパ腫患者に対してCD47阻害薬が持続的に奏効

腫瘍細胞に発現するCD47とマクロファージに発現するシグナル制御蛋白質α(SIRPα)による免疫チェックポイントを阻害することで、非ホジキンリンパ腫(NHL)患者に強力かつ持続的な奏効をもたらしたとする中間報告が、2018年11月1日のNew England Journal of Medicine(NEJM)誌(379号1711ページ)に掲載された。米国Stanford大学のRanjana Advani氏を筆頭著者とする論文で、これに対し、イタリアHumanitas大学のAlberto Mantovani氏、ならびに英国Queen Mary大学のDan L. Longo氏が同誌で論説、がん免疫療法の新しい道を拓く成果として評価した。固形がんへの適応可能性も模索する価値があるとした。

抗CD47抗体を非ホジキンリンパ腫(NHL)患者に週1回静注

Advani 氏らは、米Forty Seven社が開発した抗CD47モノクローナル抗体Hu5F9-G4の第1b相試験(NCT02953509)で、再発または難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者15例、濾胞性リンパ腫(FL)患者7例を対象とし、日本でもNHLの適応で承認されている抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ(商品名リツキサン)と併用してHu5F9-G4を投与した。対象患者には、リツキサンの前治療で進行した患者も含まれていた。その結果、完全奏効(CR)36%を含め50%の全奏効率が得られ、有害事象も軽度の貧血など忍容性は良好であった。DLBCL患者集団は追跡評価期間6.2カ月(中央値)で全奏効率40%、CR率33%、FL患者集団では8.1カ月(中央値)でそれぞれ71%、43%に達した。これら奏効例の91%は解析時点でも効果が持続していた。

抗CD47抗体はdon’t eat me シグナルを遮断してマクロファージの貪食ブレーキを解除

Hu5F9-G4は腫瘍細胞に発現するCD47に結合してその機能を阻害する。上記試験で期待されている仮説は、Hu5F9-G4がマクロファージと腫瘍細胞による免疫チェックポイント、つまりブレーキを解除し、マクロファージの活性化による抗腫瘍免疫を働かせるというもの。CD47は「私を食べないで(don’t eat me)」シグナルを発する分子で、様々な細胞に広く発現している。腫瘍細胞のCD47が出すシグナルをマクロファージのシグナル制御蛋白質α(SIRPα)が感知すれば、マクロファージは腫瘍細胞を貪食しないため、Hu5F9-G4はその「食べないで」シグナルを発生させない役割を果たす。なお興味深いことに、CD47は、既に使われているオプジーボなどが介入する免疫チェックポイント分子PD-L1とともに、がん遺伝子であるC-MYCにより増幅されることが2016年に報告された。

抗CD47抗体の副作用は予測可能なオンターゲット作用

抗CD47抗体による副作用は貧血である。これはマクロファージに発現するSIRPαの機能に基づくオンターゲット作用で、SIRPαは特に老化した赤血球など、正常細胞の処分・廃棄を調節しているため、抗CD47抗体の介入でマクロファージが赤血球を必要以上に処分したと考えられる。これは薬力学的効果の帰結であるため、実臨床での貧血の予測は可能で、処置や管理がしやすいことが医療者側にとってメリットになる。

マクロファージとT細胞の双方による抗腫瘍免疫の特性を利用した治療法は可能か

マクロファージが腫瘍に対する抗体依存性殺細胞活性のエフェクターとして機能することは1970年代の後半から知られており、前臨床試験、臨床試験でそのin vivo効果が実証されている。T細胞とは異なる抗腫瘍免疫機能を司るマクロファージを利用し、その免疫チェックポイントを阻害する治療法では、T細胞の免疫チェックポイントを阻害する治療法のように腫瘍の遺伝的不安定性は重要ではなく、新たに出現するネオアンチゲンを認識する必要はない。T細胞とは異なるマクロファージの標的認識と自然免疫のチェックポイントに焦点を当てた治療法は、T細胞による殺腫瘍活性を補完する方向に作用する可能性がある。そういう意味でみると、上記試験で認められた奏効の持続性が、マクロファージ免疫チェックポイント解除に伴い、T細胞依存性の抗腫瘍免疫が活性化したと考えることもできる。当然、今後の検証が必要であるが、自然免疫と獲得免疫の双方の活性化が示唆された。

マクロファージ免疫チェックポイントのバイオマーカーは?

既存の免疫チェックポイント阻害薬でも、より効果が得やすい患者を予測するためにバイオマーカーの研究が進められている。今回発表されたマクロファージ免疫チェックポイント阻害という治療法では、薬力学的な指標である貧血はバイオマーカーとなり得そうもない。腫瘍に浸潤するマクロファージは、様々ながん種において予後不良に関連するとの報告もある。現段階では、マクロファージチェックポイント阻害薬のバイオマーカーとして、マクロファージ浸潤の程度が効果を予測し得るかどうかを評価することが重要と考えられた。

固形がんに対する抗CD47抗体の適応可能性は?

今回の試験薬Hu5F9-G4の標的分子であるCD47は、膵管腺がんがん幹細胞コンパートメントに高発現していることが報告されている。またマウスの固形がんモデルで、CD47を阻害することの有効性が示唆されている。今回発表された上記試験では、B細胞性NHL患者を対象として確認された効果であるが、固形がんでもマクロファージ免疫チェックポイント標的治療の適用性を試みる価値は大いにある。

論説のMantovani氏らはこの試験結果について、マクロファージの免疫チェックポイントという視点は、がんの免疫や免疫療法のルーツを改めて考え、検証する機会を与えているとし、マクロファージを活性化させる免疫療法は「back to the future」の一面があると締めくくった。

Macrophage Checkpoint Blockade in Cancer — Back to the Future(N Engl J Med; November 1, 2018; 379:1777-1779)

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