EGFR遺伝子陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)と診断され、アファチニブ(商品名ジオトリフ)の一次治療でEGFR T790M変異を獲得して耐性化、その後、二次治療としてオシメルチニブ(商品名タグリッソ)を10カ月以上服用した患者集団の通算治療継続期間は、27.6カ月(中央値)であった。
オーストリア、米国、カナダ、スロベニア、日本、シンガポールなど10カ国で行われた実臨床の後向き観察研究(GioTag, NCT03370770)で、スロベニアLjubliana大学のTanja Cufer氏らの研究グループが、2018年10月19日のFuture Oncology誌オンライン版で報告した。多くの患者で臨床的有益性が持続し、2年以上にわたり化学療法を回避できたという点を踏まえ、現実的で有益な治療戦略である可能性を示した。
一次治療でジオトリフし、T790M変異獲得後にタグリッソを使用した方の観察研究
日本では、ジオトリフは2014年5月から、タグリッソは2016年5月から、いずれもEGFR遺伝子変異陽性手術不能、または再発の非小細胞肺がん(NSCLC)の適応で販売されている。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の中で、ジオトリフは第2世代、タグリッソは第1、第2世代でEGFR T790M変異を獲得して耐性化したNSCLCに効果が期待できる第3世代とされる。
第1世代のゲフィチニブ(商品名イレッサ)やエルロチニブ(商品名タルセバ)、第2世代のジオトリフのいずれを一次治療に選択するにしても、約50%から70%の患者はEGFRエクソン20のT790M変異獲得による耐性化が生じているのが実情である。T790M変異を標的とし得るタグリッソを一次治療に選択して耐性化した場合は、二次治療には化学療法の選択肢しか残されていない。こうした現状から、Cufer氏らは、タグリッソを二次治療まで温存するとして、第1、第2世代を含むEGFR分子標的薬の治療期間を最大限に延ばすことにより、毒性の強い化学療法の必要性を先送りできると考えている。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の逐次投与による有益性については、データの蓄積がまだ少ないため、参加施設の協力を得て診療記録を基にデータを収集して解析した。
研究グループは、2017年12月28日から2018年5月31日、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を初めて服用するEGFRエクソン19欠失変異(Del19)、またはL858R点突然変異(L858R)の非小細胞肺がん(NSCLC)患者で、ジオトリフの一次治療でEGFR T790Mの変異を獲得し、その後タグリッソの二次治療を10カ月以上継続した患者の経過をまとめた。主要評価項目は、ジオトリフ開始からタグリッソの治療中止までの治療継続期間とした。
解析対象は204例で、全解析対象の通算治療継続期間中央値は27.6カ月であった。ジオトリフの治療継続期間中央値は11.9カ月、タグリッソは14.3カ月で、2年生存率は79%、2.5年生存率は69%であった。
層別解析で治療継続期間中央値に有意差が認められたのは次のとおりであった。
通算治療継続期間中央値
・Del19(150例)30.3カ月 vs L858R(53例)19.1カ月(p<0.001)
・脳転移あり(21例)19.4カ月 vs 脳転移なし(183例)28.4カ月(p=0.037)
・全身状態(ECOG PS)スコア0/1(153例)31.3カ月 vs 同スコア2以上(31例)22.2カ月(p<0.001)
ジオトリフの治療継続期間中央値
・非アジア人患者集団(138例)11.2カ月 vs アジア人患者集団(50例)14.0カ月(p=0.001)
・Del19(150例)12.6カ月 vs L858R(53例)10.0カ月(p=0.010)
・全身状態(ECOG PS)スコア0/1(153例)12.0カ月 vs 同スコア2以上(31例)10.4カ月(p=0.020)
タグリッソの治療継続期間中央値
・Del19(150例)15.0カ月 vs L858R(53例)8.3カ月(p=0.003)
・全身状態(ECOG PS)スコア0/1(153例)15.9カ月 vs 同スコア2以上(31例)9.4カ月(p<0.001)
以上、Cufer氏らは、ジオトリフ治療後、T790M変異耐性獲得後にタグリッソを使用することについて、特にDel19陽性の場合には有益な戦略となりうることを示唆し、当然、今後は前向き試験を実施する必要はあるとした上で、今回の結果について議論を提起している。