Beyond Borders-今こそ、境界線を越えるとき第16回日本臨床腫瘍学会学術集会


  • [公開日]2018.08.15
  • [最終更新日]2019.02.15

7月19日から7月21日、第16回日本臨床腫瘍学会学術集会(会長 九州大学 胸部疾患研究施設教授 中西 洋一氏)が開催され、7,000名を超える医師、メディカルスタッフ、そして患者関係者等が参加し、兵庫県神戸市にて開催された。

日本臨床腫瘍学会が主導する新たな試み

テーマは「Beyond Borders -Nation, Organ, Profession-」。国を越えて、臓器を越えて、職種を越えて、がんに関わる全ての人にとって有意義な学術集会を目指した。

そのテーマにふさわしく、医師対象のセッションやシンポジウムにとどまらず、メディカルスタッフプログラム、そしてペイシェント・アドボケート・プログラムが開催されたが、これだけでは、いまやどの学術集会でもみられるありきたりなラインナップとなる。

しかしながら、ひときわ新しく、そしておそらく境界線を越えるために有効であろう試みが行われた。

それは、ペイシェント・アドボケート・プログラムに参加した患者やその家族がほとんどの学術集会のプログラムに自由に参加できるだけではなく、製薬企業等が設置する展示ブース会場にも自由に出入り可能となったことだ。

実は、このことは海外では当たり前に行われていることであるが、日本では医薬品医療機器等法(通称、薬機法)にて一般人への処方薬の広告が禁止されているため、製薬企業等が展示ブースへの立ち入りも自主規制していたことに起因する。

しかし、今年3月に厚生労働省より出された事務連絡(※)により、「学会における展示ブース等は、本来的に医学薬学関係者である学会会員を対象に設置されるものであることに鑑み、原則として、一般人を対象とする広告活動とは解さない」とされた。
※2018年3月26日に厚生労働省事務連絡「学会展示ブース等における医薬関係者向け広告資材の一般参加者への配布について(Q&A)」

この事務連絡への対応は学会ごとに対応が異なるが、おそらく、がん関連学会においてこういった試みは初めてである。

さらに、展示ブースとして患者会として8団体が出展したこと、ペイシェント・アドボケート・プログラムのサテライト会場にはファイザー株式会社が休憩ブースを設置したことも新しい取り組みといえる。

Cancer Beyond Borders ~あらゆる“がん”の境界線を越えて、患者のために、社会のために~

その中、学術集会初日に「Cancer Beyond Borders 境界線に異常あり⁉ ~あらゆる“がん”の境界線を越えて、患者のために、社会のために~」が開催され、医師であり縦隔腫瘍体験者の清水秀文氏、看護師であり乳がん体験者の上原弘美氏、再生不良貧血・急性骨髄性白血病体験者であり薬剤師の佐野元彦氏、読売新聞記者であり乳がん体験者の本田真由美氏、肺がん体験者の長谷川一男氏が登壇した。

清水氏は「がん患者と医師の知識や認識差を埋めるためには正しい情報を伝えるWebサイトが必要であり、さらに医師はそれを勧めることが必要」と訴える。日本肺癌学会会員に行われた調査では、自分の説明では情報提供が不十分であると考える医師の割合が1割である一方、情報収集にインターネット調査を勧める医師の割合は3割にとどまる。患者が迷わないための関連学会主導の施策が期待される。

上原氏は「患者になって、医療者の残念な対応が目につき、同じようなことをしていたと自己嫌悪に陥った」と語る。治療の説明を優先し、患者の心情に寄り添えていなかったと考え、その想いからサバイバーナースの会であるピアナースを立ち上げた。

佐野氏は「医師だから、看護師だから、薬剤師だからではなく、医療者として患者の気持ちに接する必要」と訴える。患者であるから、患者の家族だからこそわかる、患者のことをおもう気持ちに役職は関係ないということ。がん医療において、薬剤師は患者に接する機会が医師や看護師よりも少ないが、それでもできることがある。

本田氏は「去年は正しかったことが、今年は変わる。記者は勉強していかなければならない」と語る。がん医療の発展は目覚ましい一方、誰に取材するかで内容が180度変わることもまれではない。『誰に取材した記事であるかも気を付けて収集するように』と啓発活動も重要となる。

そして、長谷川氏は「学会前日に参議院本会議で採決された改正健康増進法について、多くの立場の方が同じ目的のために行動した」と語る。紆余曲折した受動喫煙問題。「それは、まだまだ満足のいく結果ではないが、政治家が、医療者が、患者が、各々が同じ目的に向かって、やれることをやった」と力説した。

学術集会会長の中西氏は「やっと何かが動き始めたところである」と述べた上で、「日本臨床腫瘍学会は研究者のための学術団体ではなく、公益社団として患者さんや一般の方に開かれた団体になっていきたい。そして、がん医療は患者中心ではなく、患者と一緒に戦うものとしていきたい」と語った。

清水氏は「この場にいる方と本企画のようなものに興味がない方のボーダーを埋める必要がある」、長谷川氏は「今、自分たちのやれることやる」と語る。確かにBeyond Bordersは道半ばであるが、我々のようなWebメディアも『自分たちのやれること』に最善を尽くしていきたい。

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