がん医療水準の「均てん化」を評価する体制構築に向けた がん診療連携拠点病院などの診療の状況を調査 (2014年)国立研究開発法人国立がん研究センター


  • [公開日]2018.08.02
  • [最終更新日]2019.03.15

国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターは、がん診療連携拠点病院を中心とする全国424施設で2014年にがんと診断された患者56万人について、主要な5がん(胃・大腸・肺・乳腺・肝臓)と臓器横断の支持療法で選定した標準診療・検査9項目の実施率と標準診療を行わなかった理由について調査を行った。

本調査は、科学的根拠に基づいた標準診療に対し、各施設で実際に行われた診療を調査することで、がん医療水準の均てん化の評価体制構築へ向けた検討を行うものである。
また、標準診療は患者の状態によっては控える判断をすることも必要であることから、未実施理由の妥当性についても調査を実施した。

測定は2011年症例を対象とした試験的調査に始まり今回で4度目の実施で、選定した標準診療の対象となる症例を院内がん登録データより抽出し、各施設で行われた診療をDPCもしくはレセプトデータで収集、突合し、標準診療実施率の算出を行った。

今回の2014年症例においては、調査対象とする施設を昨年よりさらに拡大し実施した。

均てん化とは

全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられることを指す。平成19年に施行されたがん対策基本法の目標の一つでもある。

調査結果のポイント

・がん診療連携拠点病院の調査参加率は68%と2013年と比較して横ばい。
・ 都道府県推薦病院の参加が大きく増加(18施設→131施設)し、調査対象症例数は11万名増加。
・ 標準診療の実施率9項目に関しては2013年と比較して大きな変化はない。
・ 未実施理由を加味する*と、9項目中6項目で標準診療実施率は90%以上となった
・ 最も実施率が上昇した指標は臓器横断指標(制吐剤の使用の有無):74.0%(2013) → 76.3% (2014)

*「未実施理由を加味する」ということは、標準的診療が実施されなかった症例の中で、腎機能障害や肝機能障害などにより抗がん剤が使用できなかった等の臨床的判断や、患者側からの希望といった妥当な理由があったものについては、標準診療が実施されたものとしてカウントし、実施率を再計算したという意味。

今後の課題

現在、測定項目の改定・追加も進行中で、中でも、胃がんに関しては、新たなQI12項目、実態指標6項目の策定がなされ、測定結果は、昨年、胃がん治療ガイドラインの付録として出版された。

実態指標と呼ばれる、医療の質を測るものとしては議論の余地がありつつ、専門家の間で興味関心の高い項目も測定に加えることで、標準診療の確立後にその実施を検討するQIだけでなく、標準診療が確立する前の段階での診療実態を表す指標も設定し、標準診療確立のための議論のたたき台の提供も試みている。

現在肺がん、子宮頸がんに関しても検討中である。

重要なこととして、これらの均てん化を評価する指標を通して診療の質の向上を図るためには、まず、このような検証活動に参加していただく事が第一の重要性をもっていること、また、標準診療実施率の結果から施設間格差などに注目するのではなく、未実施の理由を詳細に調査、検討したうえで、適切な治療方針の検討が行われていたかどうかを評価することが重要である。

注意事項: 測定項目の結果を解釈する上で、以下の点に注意が必要

他施設での診療行為がカバーされない
他院で行った診療を追うことができないため、見かけ上の実施率が低く算出される可能性がある。

臨床的判断の過程が不明である
併存症や患者の希望などで標準診療を避けることが望ましい場合があるが、データからそれを判断することが困難である。
この弱点を補うべく、未実施理由の収集を行っている。収集に協力頂いた施設は一部である。

「標準」は常に変化する
医学の進歩とともに、新たなエビデンスに基づきいわゆる「標準」とされるものが変化する可能性がある。
よって、現在QIとされている「標準診療」がその後も標準であるとは限らない。
特に薬の治療は常に進歩しますのでこの点は注意したい。

調査背景

がん医療の均てん化は、がん対策基本法において中心的な施策のひとつであり、がん対策推進基本計画においても各種の取り組みが行われてきた。

第3期がん対策推進基本計画においても、第2期がん対策基本計画の目標であったがん死亡率20%減少の未達成を踏まえ、さらなる取り組みの強化が求められている。

がん医療の均てん化においては、これまでがん診療連携拠点病院の整備が進められてきたが、均てん化を評価する体制は未だ確立されたとは言いがたく、全国における診療の質の継続的評価体制の確立が必要とされている。

調査概要

・都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がん登録部会を通じて参加募集
・対象施設:対象年の院内がん登録・全国集計参加施設

研究参加施設
424施設(がん診療連携拠点病院284施設/都道府県の推薦による院内がん登録実施病院140施設)
標準診療未実施の理由は、研究参加施設の中から協力の得られた69施設からの回答を集計

集計対象症例
2014年にがんと診断され、診断されたがんに対しQIの対象となる診療を行った症例(565,503名)

集計方法
各がん種と支持療法について代表的な標準診療を選定、対象となる症例を院内がん登録データより抽出し、各施設で現実に行われた診療をDPCもしくはレセプトデータで捉え、標準診療の実施状況を調査した。
また、未実施理由については大まかな選択肢を提示し、該当しない場合は未実施となった理由の記述を依頼した。

調査結果概要

結果としては、ほとんどの項目で2013年と2014年の標準診療の実施率に大きな変化はない一方、項目により施設間での差がみられた。

実施率が上昇した例としては、昨年と同様、当初より実施率の低さが課題とされていた臓器横断指標(制吐剤の使用の有無)があげられる。

こちらの項目は、未実施理由を加味しない値で、昨年の時点で、74.0%の実施率であったの対し、本年度は76.3%まで上昇している。

がん診療拠点病院の参加率68%も昨年とほぼ変わらず、全9項目中6項目の実施率は去年とほぼ同一か、多少の上昇がみられた。

実施率が90%以上の肝臓がん、大腸がん、乳がん(2)を除き、2013年から継続的に参加した施設において、わずかではあるが実施率に上昇が見られた。

解析結果に全身状態などの患者要因により実施しなかったものを加味すると、9項目中6項目で適切な診療の実施率として90%以上の結果となった。

一方、乳がんに対する乳房切除術での再発高リスク症例に対する術後放射線療法の実施率は昨年より低く、適切な診療を加味しても66.6%、催吐高リスク化学療法前の予防制吐剤投与の実施率は多少の上昇はあったものの78.4%にとどまった。

標準診療を実施するか否かは、ステージや全身状態だけではなく様々な要素により判断される。

そのため、これらの結果についての解釈には注意を払う必要がある。

参照元:国立がん研究センターがん対策研究センター がん診療評価指標(Quality Indicator)の開発と計測システムの構築(がん登録部会QI調査)

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