7月19日~21日に開催された第16回日本臨床腫瘍学会学術集会にて、「血漿EGFR T790M遺伝子変異陽性/既治療非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ(商品名タグリッソ)の有効性を検証する第2相臨床試験(WJOG8815L/LPS試験)」の結果が、近畿大学医学部附属病院の高濱 隆幸医師より発表され、本試験結果により、リキッドバイオプシーによるT790M遺伝子変異陽性とされた患者へのオシメルチニブ(商品名タグリッソ)の有効性が示唆された。
タグリッソとT790M遺伝子変異検査
非小細胞肺がん患者のおよそ40%は、ドライバーがん遺伝子であるEGFR遺伝子に変異が認められる。これらの患者にはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるゲフィチニブ(商品名イレッサ)、エルロチニブ(商品名タルセバ)、アファチニブ(商品名ジオトリフ)が奏効することが知られているが、これらの薬剤に対していずれ耐性が生じることが問題となる。
耐性に至る経路は複数あるが、そのうち50%〜60%はEGFR T790M遺伝子変異という二次変異が起因する。このT790M遺伝子変異を有する非小細胞肺がんに奏効するのが第三世代チロシンキナーゼ阻害薬タグリッソであり、2016年5月に「上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌(NSCLC)」の効果・効能にて発売された。
しかしながら、当時、タグリッソが使用できる患者はT790M遺伝子検査にて「陽性」と判定された患者に限定され、検査を実施するためには腫瘍組織の採取が必要となるが、腫瘍組織が採取できない患者は検査ができないという課題があった。2016年12月より、血漿循環中のDNAを評価するリキッドバイオプシー検査キット「コバスEGFR 変異検出キット v2.0(コバス)」が承認され、実診療でも血液検査にてT790M遺伝子変異を判定できるようになったものの、リキッドバイオプシーによるT790M遺伝子変異検査にて陽性判定された患者のタグリッソ有効性は未知であるという疑問が残った。一方、現在、保険診療下でのリキッドバイオプシーは1人につき1回までという制約であるという保険診療上の課題がある。
そこで、西日本がん研究機構(WJOG)は、リキッドバイオプシーにてT790M遺伝子変異陽性とされた非小細胞肺がん患者に対するタグリッソの有効性を検証する臨床試験を実施した。
リキッドバイオプシー検査でもタグリッソは有効であることを示唆
本臨床試験は、コバスを利用したリキッドバイオプシー検査にてT790M遺伝子変異陽性とされた患者の奏効率を主要評価項目としている。
結果、イレッサ、タルセバ、ジオトリフに耐性が生じた非小細胞肺がん患者276名がコバスおよびデジタルPCRの二つの手法のリキッドバイオプシー検査を受け、74名がT790M遺伝子変異陽性が認められた。そのうち21名は参加条件に合致しなかったため最終的に53名が臨床試験に参加しタグリッソを使用した。
49名がコバスによりT790M遺伝子変異陽性とされ(うち5名はデジタルPCRでは陰性)、3名がコバスではT790M遺伝子変異陰性とされたがデジタルPCRにて陽性とされた。
臨床試験参加者のタグリッソの奏効率は以下のとおりである。
*高濱医師の発表スライドより再現 主要評価項目であるコバスによるT790M遺伝子変異陽性の奏効率は55.1%となり、本臨床試験の仮説奏効率である55%を上回ったことから、有効性が示唆された。なお、腫瘍組織が提供可能な患者が14名おり、T790M遺伝子変異が腫瘍組織にて陽性かつリキッドバイオプシーにて陽性の患者5名の奏効率は100%であり、腫瘍組織にて陰性かつリキッドバイオプシーにて陽性の患者9名の奏効率は55.6%(5/9名)であった。
安全性については、タグリッソの一般的な有害事象と変わるものではなかった。
これらの結果により、高濱医師は「コバスを利用するリキッドT790M遺伝子変異陽性患者におけるオシメルチニブの有効性が確認できたと」と述べ、ディスカッサントを務めた新潟県立がんセンター新潟病院の三浦 理医師は「実診療下では、まず、リキッドバイオプシーにてT790M遺伝子変異を確認し、陰性であった場合に腫瘍組織にて確認するスキームが期待される」と述べた。
(JSMO2018;SPS-4血漿;EGFRT790M遺伝子変異陽性/既治療非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ(商品名タグリッソ)の有効性を検証する第2相臨床試験(WJOG8815L/LPS試験))