日本発の放射性治療薬医師主導治験(第Ⅰ相臨床試験) 悪性脳腫瘍で開始国立研究開発法人国立がん研究センター/国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構


  • [公開日]2018.07.17
  • [最終更新日]2019.03.15

国立研究開発法人国立がん研究センターと国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所(以下、「量研放医研」)は、悪性脳腫瘍に対する新規治療薬として放射性治療薬64Cu-ATSMを共同開発をしてきた。
この度、同薬剤を治療目的に世界で初めて人へ投与するファースト・イン・ヒューマン試験として、標準治療終了後に再発した悪性脳腫瘍(膠芽腫、原発性中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性髄膜腫)の患者さんを対象に医師主導治験(第Ⅰ相臨床試験)*1を国立がん研究センター中央病院で開始した。

新たなる治療薬への期待

放射性治療薬は、放射性同位元素を含む薬剤である。

代表的な治療薬としては、甲状腺がんで使用される放射性ヨード内用療法(ヨウ化ナトリウム)がある。

放射性治療薬は、がん医療における新しい治療薬として期待され、薬剤開発が急速に進み始めているが、現在承認されている放射性治療薬は、すべて外国で製造されたもので、国産の放射性治療薬を用いた治験は、本治験が初めてである。

悪性脳腫瘍は、外科手術、放射線治療化学療法等既存の治療法では十分な効果が得られず再発した場合の治療法は確立していない。
治療効果が十分得られない原因として、腫瘍内部が酸素の乏しい低酸素環境になっていることが知られている。

これに対し量研放医研では、低酸素環境にある腫瘍細胞に高集積し高い治療効果を発揮する64Cu-ATSMを開発し、がん細胞株移植(CDX)モデル*2等を用いた非臨床試験で64Cu-ATSMが低酸素状態にある悪性脳腫瘍の増殖を抑制し、マウスCDXモデルの生存率を改善することを示してきた。

こうした背景から64Cu-ATSMが、現在有効な治療法のない悪性脳腫瘍に対する新たな治療薬となることが期待され、国立がん研究センター中央病院と量研放医研は、64Cu-ATSM治療の医師主導治験の準備をしてきた経緯がある。

なお、本医師主導治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的医療シーズ実用化研究事業等の支援を受け、国立がん研究センター及び量研放医研で行っている。

また、薬剤製造体制の強化はAMED革新的がん医療実用化研究事業等の支援を受け実施した。

放射性治療薬64Cu-ATSMについて

今回開発した放射性治療薬64Cu-ATSM[64Cu-diacetyl-bis (N4-methylthiosemicarbazone)の略]は、低酸素環境下で治療抵抗性を有する腫瘍細胞に高集積し、高い治療効果を発揮する。

放射性核種64Cuは、既存の放射性治療薬(131Iや90Y)で放出されるベータ線の他に、がん細胞DNAを効果的に損傷する特殊な電子(オージェ電子)を放出するため、がん細胞に対し高い殺傷効果が期待できる。

64Cu-ATSM治療はこの新しいメカニズムで、低酸素化した治療抵抗性腫瘍を攻撃する治療法で、既存治療法で十分な効果が得られず再発した悪性脳腫瘍の治療において効果を発揮することが期待される。

悪性脳腫瘍について

頭蓋内に発生する悪性脳腫瘍には、神経膠腫、中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性髄膜腫などがある。

これらの悪性脳腫瘍の治療において、既存の治療法(外科手術、放射線治療、化学療法等)で十分な効果が得られず再発した場合の治療法は確立していない。

これは、悪性腫瘍は活発に増殖するため血管新生が追い付かず、酸素の供給が乏しい低酸素環境になるため、既存治療法の効果が弱まってしまうことが一つの重要な要因になっている。

用語解説

*1 治験、第Ⅰ相臨床試験
治験とは、新薬について国の承認を得ることを目的として行う臨床試験。

臨床試験には、その開発段階に応じ、第Ⅰ相臨床試験(薬の安全性と投与量を調べることを目的とする試験)、第Ⅱ相臨床試験(第I相で決定された投与量を用いて薬の有効性と安全性を確認する試験)、第Ⅲ相臨床試験(第I相、第II相の結果を踏まえ、より多くの患者さんに参加していただく大規模試験)がある。

がんの第Ⅰ相臨床試験では、少数の患者さんで投与量を段階的に増やしていき、薬の安全性と適切な投与量、投与方法を調べる。

*2 CDX (cell-line derived xenograft)モデル
がん細胞株を免疫不全マウスに移植した実験動物モデル。がん領域の創薬研究における薬効評価のモデルとして多く用いられている。

研究費

本第I相臨床試験について
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
・革新的医療シーズ実用化研究事業(平成29年度~平成31年度)
・「日本発放射性薬剤64Cu-ATSM を用いた悪性脳腫瘍に対する革新的治療法の開発研究」
・64Cu-ATSM治験薬製造のための体制強化について
・国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
・革新的がん医療実用化研究事業(平成29年度~平成30年度)
・「日本発放射性薬剤64Cu-ATSMによる悪性脳腫瘍の革新的治療法開発-非臨床毒性試験・次相に向けた薬剤製造体制強化」

参照元:
国立研究開発法人国立がん研究センター・国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 プレスリリース

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