キメラ抗原受容体発現T細胞CAR-T)療法は、患者から採取したT細胞に標的能を持つキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子改変技術を施した後、体内に戻す自家T細胞治療で、すでに米国の臨床現場で行われている。米国食品医薬品局(FDA)は、2017年9月にCD19標的CAR-T療法である「キムリア」(tisagenlecleucel)を、同年10月には、やはりCD19標的CAR-T療法である「Yescarta」(axicabtagene ciloleucel)を承認した。2018年7月には、欧州医薬品庁(EMA)もこれら2製品の承認を勧告した。適応症は急性リンパ芽球性白血病(ALL)やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、縦隔原発B細胞リンパ腫(PMBCL)といったB細胞性の血液がんで、希少疾病薬や迅速審査、画期的治療など、米国、欧州それぞれの当局による優遇制度の対象に指定されている。日本では2018年4月、CD19陽性のALL、またはDLBCLの適応でKymriahの承認申請が行われた。

Pennsylvania大学のCarl H. June氏らは、New England Journal of Medicine誌(2018年379巻64ページ)で、キメラ抗原受容体(CAR)の創製とT細胞の遺伝子改変技術、合成免疫の原理や概要、CAR-T療法の有効性安全性などを説明した。

CAR-Tの構造と作用機序

キメラ抗原受容体(CAR)とは、免疫エフェクター細胞(主にT細胞)に遺伝子改変技術を施して明確な特異性を植えつけた合成受容体で、CARを発現させたT細胞は、特異性や機能、代謝の性質が再構築され、抗原特異的な適応免疫能が増強される。

CARは、T細胞膜の内側の細胞内ドメイン、外側の細胞外ドメイン、これらをつなぐスペーサーと膜貫通ドメインによって構成されている。細胞内ドメインはCD28、または4-1BBという共刺激ドメインにCD3ζ鎖が結合しており、共刺激ドメインはCAR-Tの細胞増殖を増強し、もともと存在する内因性のT細胞の抗アポトーシス機能を保護する役割を果たす。CD3ζ鎖はシグナルの活性化とCAR-Tの増幅を主導する。細胞外ドメインである単鎖可変フラグメントscFvは、ターゲッティングエレメントとともに腫瘍抗原と結合する。

CARを発現したT細胞は、標的を発現する腫瘍細胞を殺傷するのみならず、抗原に繰り返し曝露されることで機能的T細胞の増殖を効率的に拡大する。さらに、殺傷した腫瘍細胞が破壊される際に遊離する抗原は、ネオアンチゲンとなって抗原提示細胞に提示されるため、内因性のT細胞が刺激され活性化する。CAR-Tはこうした2つのシグナルを伝達しながら、永久的な「生きた薬剤」になる。一度輸注すると患者体内に生着して増殖し、免疫監視を促進する。それぞれのCAR-Tが多くの腫瘍細胞を殺傷するのみならず、腫瘍浸潤リンパ球が腫瘍を攻撃するのをアシストすることにより、腫瘍の再発を抑止することが可能になる。

CD19標的CAR-T療法の有効性と安全性

CAR-T療法の標的としてCD19が最初に選ばれた理由は、B細胞性の白血病やリンパ腫に高頻度に発現しているのみならず、CD20やCD22といった他の標的候補と比べても、その発現の頻度も幅も上回ることである。CD19標的CAR-T療法の奏効率は極めて高く、50%を超えることも珍しくなく、80%から90%超の報告もある。しかも、効果は長い時間持続する。正常組織におけるCD19の発現はB細胞系統に限られるため、主な副作用はオンターゲット作用と腫瘍外作用により誘発されるB細胞形成不全に限定される。これは免疫グロブリン補充療法で対処可能である。

あらゆるがん治療と同様、有害事象を引き起こすという点ではCAR-T療法も例外ではない。がん免疫療法であるPD-1、またはCTLA4標的の免疫チェックポイント阻害薬とは発現する毒性が異なり、CAR-T療法の主な毒性は大腸炎、発疹、内分泌障害などで、ほとんどはCD19、CD20、およびCD22といったB細胞分化抗原に対するオンターゲット作用に起因する。オフターゲット作用で有害事象を引き起こす細胞傷害性化学療法とは対照的に、CAR-T療法のオンターゲット作用による毒性は可逆性のため、標的細胞を除去するか、またはCAR-T療法を終了すれば毒性は緩和、終息する。一方、化学療法の毒性は細胞遺伝子に永久的な異常をもたらすため、臨床転帰に長期的で大きな影響をおよぼす。

CAR-T療法で問題となる毒性は、サイトカイン放出症候群CRS)である。やはりオンターゲット作用に起因するためか、CAR-T療法の効果が得られない患者ではCRSがほとんど認められない。CRSは発熱、低血圧、低酸素症、神経変性などに伴い血清中のサイトカインレベルが著増する状態で、CD19標的CAR-T療法で発症するCRSの重症度は、骨髄芽球数を指標とする腫瘍の負担が大きいほど高くなる。非感染性のインフルエンザ様症候群とともに現れるCRSは、低血圧と低酸素症を伴う致死的な毛細血管漏出に進展する可能性があり、そのリスクは薬物動態と関連するため、CAR-T細胞量のピークレベルを注視する必要がある。また、CRSはT細胞の活性化とIL-6やIFNγを含むサイトカインの異常高値が引き起していることから、FDAは、CAR-T療法に伴うCRSの対処法として抗IL-6抗体医薬であるトシリズマブ(商品名アクテムラ)を承認している。アクテムラに対する反応が鈍い場合にはグルココルチコイドの投与が推奨されている。

CD19標的CAR-T療法では神経毒性にも注意を要する。これまでに運動失調、失語症、脳浮腫などが報告されている。神経毒性はCD19に対する直接作用に起因すると考えられているが、詳細な原因についてはまだ不明である。その神経毒性のほとんどは可逆性で、中枢神経系へのがんの広がりとは関連しないとされているが、神経学的症候群としての病態生理が解明されるまでは、経験的な対処法にならざるを得ないのが実状である。

なおFDAは、出現し得るサイトカイン放出症候群(CRS)と神経毒性のリスクを重要視し、CD19標的CAR-T療法の承認には、これらの有害事象について医師や医療スタッフが知識を身につけ、対処法のトレーニングを必須とするリスク評価・緩和戦略「Risk Evaluation and Mitigation Strategy(REMS)」を構築することを条件として付けた。

CAR-T療法の今後の展望

CAR-T療法が実用化されたことは、がん治療の転換を引き起こす可能性を秘めている。遺伝子改変したT細胞を用いた高精度医療としてのCAR-Tという認識は定着し、血液がんのみならず固形がんにも応用可能である。すでに、神経膠芽腫と膵管腺がんを対象とするCAR-T療法の臨床試験が行われ、完全奏効や完全代謝反応などの治療成績が得られたとの報告がある。

CAR-T療法の課題はコストと細胞製造法である。現状のCAR-Tは患者自身のT細胞を原料とする「自家」CAR-Tであるため、より安価で、汎用性の高いユニバーサルのCAR-T療法を実現するには「他家」のCAR-Tの作製技術を確立する必要がある。他家CAR-Tはゲノム編集技術を組み合わせることもできる。また、T細胞はヒト胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)からも作り出すことができる。こうした幹細胞技術と合成生物学を組み合わせたデザインT細胞を用いた他家T細胞は、抗原特異性や非自己反応性、組織適合性、あるいは機能特性などの観点から多くのメリットが予測されている。

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