日本で最も進んでいるだろう’’がん領域’’におけるIoT活用臨床研究~副作用と日常活動量の関係を可視化~第12回ITヘルスケア学会学術大会


  • [公開日]2018.06.23
  • [最終更新日]2018.06.23

6月2日から6月3日に開催された第12回ITヘルスケア学会学術大会にて、術後補助化学療法中の乳がん患者の有害事象と活動量をウェアラブルデバイスとアプリを使用して収集した研究(UMIN000024873UMIN000023615)の結果が埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科の上田重人医師から発表があった。

スマフォアプリとウェアラブルを活用した、一歩進む臨床研究

近年、薬物療法の進歩により、がん発病も長期に生存するがんサバイバーが増えている。それゆえ、長い治療機関に副作用を少なくして、いかに質の高い日常生活をおくれるか、仕事を続けるかなどを評価することが求められている。

しかしながら、薬物療法のバリエーションが増えることにより、発現する副作用の種類が多くなる一方、患者個々によりその多様性や程度も異なる。

このような背景もあり、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ;QOL、以下QOL)研究が注目されており、QOLや患者主観的有害事象データ収集方法はePRO(電子患者日誌)を活用する研究が活発化している。

その中で、埼玉医科大学国際医療センターの上田医師、高橋医師(支持医療科)、藤堂氏(がん専門薬剤師)が共同で行った研究は、タブレット端末アプリを活用したePROとウェアラブル端末祖として活動量を収集した探索研究であり、それから一歩進んだものと言える。

乳がん周術期化学療法の有害事象と活動量の相関性を探索する研究

本研究は、乳がん周術期化学療法の適応となる患者を対象に活動量計(OMRON Active style Pro HJA-750C)と、独自に開発した有害事象アプリ(フリックカルテ®Ver2)を活用した臨床研究である。有害事象と活動量の相関性を探索し、最終的に薬物療法による副作用発言を早期に予測対策を立てることで、よりよい医療を提供することを最終目的としている。

参加した患者23名は、周術期化学療法前1週間前より活動量計を装着し、ベースラインデータを取得し、開始後の身体的活動量の変化を測定した。一方、化学療法前にフリックカルテにて独自に設定した13項目の症状*を記録し、開始後も患者が気付いた症状を毎日記録した。これらのデータは活動量計とアプリにそれぞれ記録されるため、3週ごとの来院時にデータを回収した。

*13症状:疲労感、吐き気、気分低下、息切れ、口内炎、味覚障害、便秘、下痢、痛み、しびれ、むくみ、発疹、脱毛

23名のうち、12名はTC療法(ドセタキセル75mg/m2+シクロフォスファミド600mg/m2、3週毎4回)を受け、11名はEC療法(エピルビシン90mg/m2+シクロフォスファミド600mg/m2、3週毎4回)を受けた。

観察期間の平均値は96日間(50-118)であり、4名はタブレット端末の継続使用が困難となり、紙媒体の患者日誌に切り替えた。使用患者の中央値は57歳であった。

様々な症状の蓄積により疲労感が起こる結果、日常活動量が下がる

症状と日常活動量の経時的な変化を可視化

以下は、本研究に参加された代表的な1例(67歳、ルミナールB乳がん、T2N1M0、EC療法4サイクル)であり、1日毎の時系列による活動量(折れ線)と1項目4段階とした場合の症状の累計ポイント(棒グラフ)とをまとめたものとなる。

上田医師によると、「副作用の総ポイントは治療を繰り返す毎に軽減されることがわかるが、活動量はそれほど変わらなかった」とのこと。

治療法によって在宅時の副作用状況や活動量が異なる

実診療下では外来時の副作用状況しかわからないけれども、今回の研究ではフリックカルテにより日々の副作用状況がわかる。

フリックカルテに入力されたデータを解析すると、EC療法ではTC療法よりも吐き気の度合いが強かった(P=0.0001)。一方、TC療法ではEC療法よりもしびれ(P=0.0001)、むくみ(P=0.009)、息切れ(P=0.007)、疲労感(P=0.001)、味覚障害(P=0.02)の度合いが強かった。

一方、実診療では日常活動量を数量化していないが、今回の研究はそれを明るみにしているのも特徴である。

結果、ベースラインにおける1日歩数平均と平均カロリー消費は、EC療法で4314歩、1778カロリー、TC療法で4592歩、1760カロリーだったところ、治療介入後では、EC療法は4178歩、1261カロリーであったのに対して、TC療法は3561歩、633カロリーとなり、EC療法よりもTC療法の方が日常活動量を低下する傾向がみられた(P=0.2)。

カロリーロスの原因は?

本研究では、カロリーロスの原因を調査している。

治療後一週間ごとのカロリーロスと同期間の症状の累積度合いの関係についてピアソン関数を用いて解析すると、下図のように13項目すべての症状の累積度数はカロリーロスに相関があることが分かった。要するに、計測した13項目の各項目の症状のキツさを総和が大きくなると日常活動量が減少するということである。

一方、個別の症状ごとに計測すると、以下の表のようになり、むくみ、痛み、疲労感の症状が強くなるとカロリー消費が低くなるということが分かった一方、意外にも味覚障害や脱毛については症状が強くなるとカロリー消費が高くなった。

上述通り、EC療法とTC療法では特徴的な副作用がことなることがわかったため、薬剤ごとの相関を解析してみると、疲労感はどちらの薬剤にも関わらずカロリーロスの原因になることがわかった。

その疲労感のおこる原因を調べた結果、吐き気、便秘、痛み、しびれ、息切れ、味覚障害、むくみが起因することがわかった。

まとめると下図のようになり、上田医師によると、「薬剤療法により様々な副作用が生じており、最終的に疲労感を感じることにより、日常活動量が落ちるであろうことがわかってきたとのこと」とのこと。

以上のように、日本において、がん領域のIoTを活用した研究は進んでいないことが問題点ではあるが、その中で、上田氏らの研究はウェアラブル端末とアプリを組み合わせて、客観的な活動量と主観的な自覚症状の相関性を示す一方、がん領域のIoT研究が有効であることを示した一歩秀でた研究である。

しかしながら、これらのデータはクラウド上で遠隔モニタリングできる仕組みにはなっていないかったため、「がんサポーティブケアチームを形成し、フリックカルテとスマートフォン等に内蔵される加速度センサーを利用した生体活動のリアルタイムモニタリングシステムの導入準備を進めており、今後は初期症状に即座に対応するシステム(proactive symtopm monitoring)の構築を目指す」とのこと。

文:可知 健太(オンコロ責任者)

資料提供:上田重人医師(埼玉医科大学国際医療センター)

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