DNA修復経路を標的とするポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬は、相同組換え修復(HRR)機構が正常に働かないタイプの卵巣がんに対する画期的な治療選択肢として存在感を増してきた。PARP阻害薬の品目も複数登場し、治療実績や臨床試験が重ねられていく中で生まれる新たな疑問や解決すべき問題、現状の研究開発動向が明らかになってきた。2018年5月14日付のASCO Daily Newsにて、PARP阻害薬間の交差耐性など解明を要する課題、耐性メカニズムを踏まえた治療戦略、別のメカニズムの薬剤との併用療法の開発状況などについて、米国Dana-Farberがん研究所のUrsula A. Matulonis氏らが語った。

品目増えつつあるPARP阻害薬、交差耐性は不明

現在までに米国食品医薬品局(FDA)による承認を取得した PARP阻害薬は、オラパリブ(商品名リムパーザ)、ルカパリブ(海外商品名Rubraca[ルブラカ])、およびニラパリブ(商品名ZEJULA)の3製品であり、臨床開発段階にあるPARP阻害薬はベリパリブ、タラゾパリブである。既承認のPARP阻害薬3剤は、生殖細胞系、または体細胞系のBRCA1/2遺伝子変異陽性の卵巣がん、あるいはプラチナ系化学療法で効果がみられた後に再発した卵巣がんに対する治療選択肢として高い有用性が検証されている。これらを直接比較した臨床試験データは報告されていないが、これまでに報告されたデータに基づくと、有効性は概ね同程度と考えられている。交差耐性については、すなわち、1つのPARP阻害薬に対して耐性の場合、別のPARP阻害薬に対しても自動的に耐性化するか否かという疑問に対しては、今のところ答えはない。

卵巣がん以外のHRR欠損がんへのPARP阻害薬の適応も開発中

PARP阻害薬が効果を発揮するのは、DNA損傷時の相同組換え修復(HRR)で重要な役割を果たすBRCA1、またはBRCA2の遺伝子変異が陽性の細胞である。BRCA1/2変異に伴う機能不全でHRR欠損に至るがんは卵巣がんだけではなく、頻度は高くはないが、悪性黒色腫やトリプルネガティブ乳がん前立腺がん、膵臓がんなども報告されていることから、これらもPARP阻害薬の対象となる可能性もある。オラパリブは既に、生殖細胞系BRCA遺伝子変異陽性HER2陰性転移性乳がんの化学療法に続く二次治療の適応でFDA承認を取得しており、前立腺がんの単剤治療としてはFDAの画期的治療薬の指定を受けて開発されている。

PRAP阻害薬の耐性メカニズムの究明が課題

PARP阻害薬は、俯瞰的に見れば、HRR欠損卵巣がんに高い治療効果をもたらしているが、患者の大多数はPARP阻害薬への耐性化を示すか、または最初から効かない。つまり、投与されることで耐性を獲得するか、または最初から耐性であったということで、耐性克服には耐性のメカニズムを特定することが必須である。

HRR欠損腫瘍におけるPARP阻害薬耐性メカニズムは、現在までのところ、HRR欠損状態をキャンセルし得る二次的で遺伝的な、あるいはエピジェネティックな(DNA塩基配列の変化を伴わない後成的な)イベントが起こり、HRR機構を回復していることが挙げられている。HRR機構を回復させてPARP阻害薬耐性化を付与する遺伝子も報告されている。また、HRR機構が回復しなくてもPARP阻害薬耐性化が進むことも分かっており、それに関与する遺伝子も報告されている。

PARP阻害薬を含む併用療法の試み

相同組換え修復(HRR)機構に異常がない(非HRR欠損)がんの治療にPARP阻害薬が寄与する役割は? PARP阻害薬耐性を克服する併用パートナーは? PARP阻害薬はDNA修復阻害作用を介して効果を発揮する化学療法薬の活性を増強するか? あるいは、PARP阻害薬は免疫チェックポイント阻害薬が活性を発揮する免疫環境作りに貢献するか?といった様々な疑問や目的を根拠として、PARP阻害薬を組み入れた併用療法の臨床試験が多数実施されている。

PARP阻害薬と血管新生阻害薬の併用

低酸素環境では相同組換え修復(HRR)機能が抑制されるため、PARP阻害薬に対する細胞の感度が上昇するという報告に基づき、血管新生阻害作用を有するモノクローナル抗体ベバシズマブ(商品名アバスチン)、またはチロシンキナーゼ阻害薬セジラニブを用いた併用療法試験が行われている。腫瘍に酸素を供給する血管が作られるのを阻止する戦略である。PARP阻害薬としてオラパリブ、またはニラパリブを用いた試験で、これらとベバシズマブは毒性の重複がなく、FDA推奨の用量やスケジュールを維持することができた。

オラパリブとセジラニブとの併用療法の第2相試験では、BRCA変異がなく、プラチナ製剤の効果が認められた後に再発した卵巣がん患者集団で、無増悪生存期間がオラパリブ単独療法より有意に延長した。これは、HRR機構に異常がない非HRR欠損の卵巣がんに対する相乗効果と考えられ、VEGFR1/VEGFR2/VEGFR3チロシンキナーゼ阻害薬であるセジラニブによるVEGFR3阻害作用が貢献した可能性がある。というのも、VEGFR3活性を阻害することはBRCA遺伝子発現を抑制し、化学療法耐性を解除する、また、BRCA2遺伝子変異が野生型に転じて化学療法耐性を示す細胞に対し化学療法感受性を高めるといった報告があるからである。この併用療法は第3相試験まで進められている。

PARP阻害薬と他の分子標的薬の併用

PARP以外の分子を標的とする薬剤との併用療法で、現実的な戦略として臨床試験が進められているのは、PARP阻害薬オラパリブとPI3K阻害薬BKM120、またはBYL719の併用療法である。様々な研究から得られた知見に基づき、HRR機構に異常がない非HRR欠損卵巣がんのPARP阻害薬に対する増感効果を期待した試験で、第1相試験が完了している。憂慮すべき安全性の問題は認められていない。

PARP阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用

現在、HRR欠損、ならびに非HRR欠損の双方の卵巣がんに対する併用療法として、既承認の3剤、臨床開発段階にある2剤を含むPARP阻害薬が、PD-1標的抗体(ニボルマブペムブロリズマブ)、PD-L1標的抗体(デュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ)、またはCTLA-4標的抗体(イピリムマブ、トレメリムマブ)との様々な組み合わせで検討されている。

免疫チェックポイント阻害薬は、単剤では卵巣がんに対する大きな効果はあまり期待できない。PARP阻害薬との併用療法に期待する根拠は、例えばHRR欠損状態でPARP阻害薬がDNAの2本鎖を切断して損傷を与えた場合、新たな腫瘍特異抗原(ネオアンチゲン)として認識され得る体細胞変異が生じること、そうした損傷の修復はエラーが生じやすい経路で行われること、PARP阻害薬が自然免疫システムを賦活するといった複数の報告である。PARP阻害薬によるDNAの2本鎖切断に伴う免疫システムの変化は、活性化と抑制のバランスをとりつつ、免疫チェックポイント阻害に対する反応性を鋭敏化する環境を作るという仮説である。

Dana-Farberがん研究所では、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、デュルバルマブ)とPARP阻害薬(オラパリブ、ルカパリブ)、および血管新生阻害薬(ベバシズマブ、セジラニブ)を用いた3剤併用療法の試験もまもなく開始される。

PARP阻害薬と化学療法の併用

プラチナ製剤やトポイソメラーゼ阻害薬などDNAの2本鎖切断を誘導する化学療法と、PARP阻害薬との併用療法は、卵巣がんに限らず非小細胞肺がん、乳がん、胃がんなどを対象に行われてきた。併用投与により、DNAが1本鎖に別れてできる複製フォークの部位で塩基除去修復を妨害し、PARP-DNA複合体を捕捉することで化学療法薬の効力が増強するとの仮説に基づくものであるが、化学療法薬とPARP阻害薬は骨髄抑制という副作用が重複するという安全性の問題が大きかった。用量の減量や投与期間の短縮を余儀なくされたというのが実状である。

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