この記事の4つのポイント
・腋窩リンパ節転移がないホルモン受容体陽性HER2陰性のステージ1~3乳がん患者において、21遺伝子検査に基づき「中等度」と判断された術後補助化学療法の上乗せ効果がないと結論づけられた。
・「Oncotype DX乳がん再発スコア」の中間スコア(11から25)とされた6711名の臨床研究結果が米国臨床腫瘍学会のプレナリー演題として発表された。
・ただし、サブグループ解析にて、50歳以下の再発リスク中間層のうち46%を占めるスコア16から20、およびスコア21から25のカテゴリーでは、化学内分泌療法群の方が内分泌療法よりも予後が改善した。
・乳がんは他のがん種よりも若い年齢で発生することが多く、閉経前の乳がんの比率が高いため、妊孕性保持など個別の希望を考慮して薬物療法の方針を決定する必要がある。

腋窩リンパ節転移がないホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の18歳から75歳の乳がん(ステージIからIII)で、21遺伝子検査に基づく再発スコアが中間リスクと判定された患者集団では、内分泌(ホルモン)療法単独の臨床転帰が内分泌+化学療法併用と統計学的な非劣性が検証され、化学療法の上乗せ効果はないと結論された。米スタンフォード大学メディカルセンターのGeorge W. Sledge氏らECOG-ACRIN がん研究グループが行った個別化薬物療法を検討する第3相無作為化非盲検試験(TAILORx、NCT00310180
のおよそ9年間におよぶ解析結果で、2018年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)のLBA(Late Breaking Abstract)枠で発表され、同年6月3日、New England Journal of Medicineオンライン版に論文が掲載された。

世界最大規模の治療試験を実施

TAILORx 試験は米国、カナダ、アイルランドなど1200を超える医療機関が参加した世界最大規模の治療試験で、腋窩リンパ節転移陰性のHR陽性、HER2陰性乳がん患者9719例のうち、21遺伝子検査「Oncotype DX乳がん再発スコア」で中間スコア(11から25)の患者6711例(69%)が内分泌+化学療法併用群(化学内分泌療法群)、または内分泌療法単独群(内分泌療法群)に無作為に割り付けられた(各3312例、3399例)。

なお、「Oncotype DX乳がん再発スコア」は、がん細胞の増殖に関連する5遺伝子、エストロゲン関連の4遺伝子、HER2関連の2遺伝子、浸潤関連の2遺伝子など16のがん遺伝子と、5の標準遺伝子を、ホルマリン固定パラフィン包埋組織標本を用いたRT-PCR技術で定量化し、0から100にスコア化したものである(数値が高いほど高リスク)。患者と医師の双方に治療方針決定の根拠となる情報を提供するシステムで、米国臨床腫瘍学会(ASCO)、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)などのガイドラインに採用されている。

内分泌療法に化学療法を追加する有益性は

内分泌療法は、閉経後の患者に対しては主にアロマターゼ阻害薬、閉経前の患者に対してはタモキシフェン単独、またはタモキシフェン→アロマターゼ阻害薬が採用された。化学療法は、ドセタキセル(商品名ドセタキセル)+シクロホスファミド(商品名エンドキサン)併用、またはアントラサイクリン系抗がん剤が用いられた。主要評価項目は、内分泌療法群における侵襲的病変がなく生存した期間(新たな原発がんの発生、または死亡に至らず生存した期間)[iDFS]の化学内分泌療法群に対する非劣性であった。

その結果、追跡期間中央値は90カ月で、iDFSの非劣性が検証された。両群間に有意差はなく(P=0.26)、ハザード比(HR)は1.08であった。9年後におけるiDFSの患者割合は、内分泌療法単独群が83.3%、化学内分泌療法が84.3%であった。

また、他の評価項目でも非劣性が検証され、遠隔転移が認められなかった患者の割合はそれぞれ94.5%、95.0%(HR=1.03)、遠隔転移または局所病変が認められなかった患者の割合はそれぞれ92.2%、92.9%(HR=1.12)、全生存率はそれぞれ93.9%、93.8%(HR=0.97)であった。

再発スコア中間層の全解析対象では、再発スコアをさらに細分化したカテゴリー別(スコア11から15、16から20、21から25、または11から17、18から25)、腫瘍サイズ(2cm以下、2cm超)、あるいは閉経前または閉経後といったサブグループ解析でも内分泌療法単独群と化学内分泌療法群の間に上記評価項目の差はなく、内分泌療法に化学療法を追加することの有益性は見いだされなかった。

年齢差による化学療法のメリット

しかしながら、全解析対象のおよそ30%を占める50歳以下の患者集団(2216例)では化学療法のメリットが認められた。特に、50歳以下の再発リスク中間層のうち46%を占めるスコア16から20、およびスコア21から25のカテゴリーでは、化学内分泌療法群の方が内分泌療法よりも予後が改善した。すなわち、スコア16から20のカテゴリーでは、9年後におけるiDFSの患者割合は内分泌療法群(80.6%)が化学内分泌療法群(89.6%)より有意に低く(P=0.0016)、群間差は9%、新たな原発がんの発生または死亡のリスクが1.9倍に増加した(HR=1.90)。スコア21から25のカテゴリーでも内分泌療法群(79.2%)が化学内分泌療法(85.5%)より有意に低く(P=0.035)、群間差は6.3%、新たな原発がんの発生または死亡のリスクが1.7倍に増加した(HR=1.70)。

過去の研究報告でも、ホルモン受容体(HR)陽性乳がんの化学療法は若年の患者ほどメリットが大きいことが明らかになっている。化学療法薬が卵巣に作用すると卵胞が障害を受け、エストラジオールを抑制して無月経、いわゆる化学的閉経を誘導する。いわば抗エストロゲン環境を作ることで、ホルモンに依存するHR陽性乳がんの進行が抑制されると考えられる。また、卵胞が未成熟であるほど化学療法薬の影響が少ないため、若年の患者ほど化学的閉経を起こしにくいとの報告もある。しかし本試験に関しては、化学的閉経に関するデータはとられていない。

薬物療法の方針を決定するには

閉経前HR陽性乳がんの予後改善の観点からは、化学的閉経が望ましい方向に導くとの見方もできる一方で、化学的閉経は妊孕性(妊娠する機能)の喪失に直結する可能性を否定することはできない。乳がんは他のがん種よりも若い年齢で発生することが多く、閉経前の乳がんの比率が高いため、妊孕性保持など個別の希望を考慮して薬物療法の方針を決定する必要がある。

Tailoring Adjuvant Endocrine Therapy for Premenopausal Breast Cancer(N Engl J Med. 2018 Jun 4)

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