チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療中の慢性期慢性骨髄性白血病患者におけるチロシンキナーゼ阻害薬の治療を中止することで24ヶ月分子遺伝学的無再発生存率(MRFS)50%を示す医学誌『The Lancet Oncology』より


  • [公開日]2018.05.23
  • [最終更新日]2018.05.23
この記事の3つのポイント
・本試験はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)治療中の慢性期慢性骨髄性白血病患者に対してチロシンキナーゼ阻害薬による治療を中止する臨床的意義を検証した大規模試験である
・本試験の結果、チロシンキナーゼ阻害薬治療中の慢性期慢性骨髄性白血病患者に対してチロシンキナーゼ阻害薬の治療を中止することで6ヶ月分子遺伝学的無再発生存率(MRFS)61%、24ヶ月分子遺伝学的無再発生存率(MRFS rate)50%を示した
・慢性期慢性骨髄性白血病患者に対してチロシンキナーゼ阻害薬の治療を中止することで31%の患者でチロシンキナーゼ阻害薬離脱症候群の発症が確認された

2018年5月4日、医学誌『The Lancet Oncology』にてチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療を受け、深い分子遺伝学的寛解(DMR)を達成している慢性期慢性骨髄性白血病患者に対してチロシンキナーゼ阻害薬による治療を中止した時の有効性を検証した第III相試験(NCT01596114)の結果がUniklinik Mannheim・Susanne Saussele氏らにより公表された。

本試験は、チロシンキナーゼ阻害薬による治療を少なくとも3年間、深い分子遺伝学的寛解(DMR)を少なくとも1年間達成している慢性期慢性骨髄性白血病患者(N=758人)に対して治療中のチロシンキナーゼ阻害薬の投与を中止し、主要評価項目として分子遺伝学的無再発生存期間(MRFS)、副次評価項目として6ヶ月分子遺伝学的効果(MMR)に影響を与える因子などを検証した国際多施設共同非無作為化の第III相試験である。

本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢中央値は52歳(41-60歳)。性別は男性52%(N=396人)、女性48%(N=362人)。チロシンキナーゼ阻害薬による治療期間中央値7.5年(5.0-9.9年)。チロシンキナーゼ阻害薬投与中止前の深い分子遺伝学的寛解(DMR)期間中央値4.7年(2.9-6.9年)。

Sokalスコアは低値群44%(N=259/584人)、中間値群34%(N=197/584人)、高値群22%(N=128/584人)。EUROスコアは低値群44%(N=239/547人)、中間値群47%(N=256/547人)、高値群10%(N=52/547人)。EUTOSスコアは低値群91%(N=536/588人)、高値群9%(N=52/588人)。

チロシンキナーゼ阻害薬投与前の前治療歴はヒドロキシカルバミド36%(N=273人)、ヒドロキシカルバミド+インターフェロンα9%(N=66人)、インターフェロンα3%(N=22人)、その他3%(N=20人)、不明2%(N=15人)。

一次治療としてのチロシンキナーゼ阻害薬の種類はイマチニブ(商品名グリベック;以下グリベック)94%(N=710人)、ニロチニブ(商品名タシグナ;以下タシグナ)4%(N=33人)、ダサチニブ(商品名スプリセル;以下スプリセル)2%(N=14人)、不明1%未満(N=1人)。二次治療としてのチロシンキナーゼ阻害薬の種類はグリベック6%(N=7/116人)、タシグナ41%(47/116人)、スプリセル53%(62/116人)。

以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である6ヶ月分子遺伝学的無再発生存率(MRFS rate)は61%(95%信頼区間:57%-64%)、24ヶ月分子遺伝学的無再発生存率(MRFS rate)は50%(95%信頼区間:46%-54%)を示した。

なお、チロシンキナーゼ阻害薬の治療中止後に遺伝学的効果(MMR)を失った患者49%(N=371/755人)の経過は下記の通りである。1%(N=4人)の患者は慢性骨髄性白血病とは関係のない心筋梗塞、心不全、肺がん、腎がんによる死亡、2%(N=13人)の患者はチロシンキナーゼ阻害薬の再投与、1%(N=6人)の患者は慢性骨髄性白血病による死亡などであった。

副次評価項目である一次治療としてグリベックによる治療を受けている患者(N=405人)における6ヶ月分子遺伝学的効果(MMR)に影響を与える因子としては治療期間が長期間である患者、遺伝学的効果(MMR)の維持期間が長期である患者、そして前治療としてインターフェロンによる治療歴のある患者であった。

一方の安全性としては、31%(N=233/758人)の患者でチロシンキナーゼ阻害薬離脱症候群の発症が確認された。なお、チロシンキナーゼ阻害薬離脱症候群の種類としては大半が筋骨格系障害、関節痛であり、グレード1または2の治療関連有害事象(TRAE)を発症した患者30%(N=224人)、グレード3の治療関連有害事象(TRAE)を発症した患者1%(N=9人)であった。

以上の試験の結果より、Susanne Saussele氏は以下のように結論を述べている。”深い分子遺伝学的寛解(DMR)を達成した慢性期慢性骨髄性白血病患者さんの分子遺伝学的無再発生存率(MRFS rate)は良好です。このような患者さんに対してはチロシンキナーゼ阻害薬の治療中止により治療関連有害事象(TRAE)を減らしたり、QOLを向上させますので治療中止を考慮してもよいでしょう。”

Discontinuation of tyrosine kinase inhibitor therapy in chronic myeloid leukaemia (EURO-SKI): a prespecified interim analysis of a prospective, multicentre, non-randomised, trial(The Lancet Oncology, DOI: https://doi.org/10.1016/S1470-2045(18)30192-X)

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