2レジメン以上の治療歴のある局所進行性転移性非小細胞肺がんに対するデュルバルマブ、PD-L1発現率25%以上のEGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性患者に対して特に高い奏効率を示す


  • [公開日]2018.03.15
  • [最終更新日]2018.03.15

2018年3月12日、医学誌『The Lancet Oncology』にて少なくとも2レジメン以上の治療歴のある局所進行性または転移性非小細胞肺がん患者に対する抗PD-L1抗体薬であるデュルバルマブ(商品名IMFINZI)単剤療法有効性を検証した第II相のATLANTIC試験(NCT02087423)の結果がFondazione IRCCS Istituto Nazionale dei Tumori・Marina Chiara Garassino氏らにより公表された。

ATLANTIC試験とは、プラチナ製剤ベースの化学療法を含む(※EGFR遺伝子変異陽性患者の場合EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、ALK融合遺伝子陽性患者の場合ALK阻害剤を含む)少なくとも2レジメン以上の治療歴のある局所進行性または転移性非小細胞肺がん患者(N=444人)に対して2週間に1回の投与間隔でデュルバルマブ10mg/kgを最大で12ヶ月間投与し、主要評価項目として部分奏効(PR)または完全奏効(CR)に至った患者の割合として定義された腫瘍細胞におけるPD-L1発現率別の客観的奏効率ORR)、RECIST1.1.に基づいた独立中央評価判定により奏効率(RR)、有害事象(AE)発症率、副次評価項目として投与6ヶ月以内に部分奏効(PR)以上に至ったまたは病勢安定SD)を6ヶ月以上継続している患者の割合として定義された病勢コントロール率DCR)、奏効到達期間(TTR)、奏効持続期間(DOR)、全生存期間OS)、無増悪生存期間PFS)、などを検証した日本を含む国際多施設共同オープンラベルの第II相試験である。

なお、本試験に登録された患者はEGFR遺伝子、ALK融合遺伝子別に3つのコーホートに分類されており、その患者群は下記の通りである。EGFR遺伝子変異陽性ALK融合遺伝子陽性の患者群(N=111人,コーホートA)、EGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性の患者群(N=265人,コーホートB)、EGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性患者群(N=68人,コーホートC)。そして、コーホートAはPD-L1発現率25%未満の群、25%以上の群の2群に分類、コーホートBはPD-L1発現率25%未満の群、25%以上の群の2群に分類、コーホートCはPD-L1発現率90%以上の群の1群に分類している。

本試験に登録した患者背景は下記の通りである。年齢中央値はコーホートA群61.0歳(51.0-67.0歳)、コーホートB群62.0歳(55.0-68.0歳)、コーホートC群61.0歳(55.0-67.0歳)。性別はコーホートA群の男性比率37%(N=41人)、コーホートB群の男性比率61%(N=162人)、コーホートC群の男性比率62%(N=42人)。人種はコーホートA群のアジア人比率59%(N=66人)、コーホートB群のアジア人比率19%(N=51人)、コーホートC群のアジア人比率35%(N=24人)。Performance StatusはコーホートA群のスコア0比率は41%(N=45人)、コーホートB群のスコア0比率は32%(N=86人)、コーホートC群のスコア0比率は28%(N=19人)。喫煙歴なしの患者比率はコーホートA群59%(N=65人)、コーホートB群15%(N=39人)、コーホートC群13%(N=9人)。

肺がんの組織型はコーホートA群で扁平上皮がん1%(N=1人)、非扁平上皮がん99%(N=110人)、コーホートB群で扁平上皮がん21%(N=55人)、非扁平上皮がん79%(N=210人)、コーホートC群で扁平上皮がん29%(N=20人)、非扁平上皮がん71%(N=48人)。がんの進行具合の分類はコーホートA群で転移性がん92%(N=102人)、局所進行性がん8%(N=9人)、コーホートB群で転移性がん92%(N=245人)、局所進行性がん8%(N=20人)、コーホートC群で転移性がん90%(N=61人)、局所進行性がん10%(N=7人)。中枢神経系CNS)転移有りの患者割合はコーホートA群23%(N=25人)、コーホートB群14%(N=38人)、コーホートC群13%(N=9人)。前治療のレジメン数はコーホートA群で2レジメン29%(N=32人)、3レジメン30%(N=33人)、4レジメン以上41%(N=46人)、コーホートB群で2レジメン40%(N=106人)、3レジメン26%(N=70人)、4レジメン以上34%(N=89人)、コーホートC群で2レジメン60%(N=41人)、3レジメン26%(N=18人)、4レジメン以上13%(N=9人)。

上記背景を有する患者に対してデュルバルマブ単剤療法を投与した結果、主要評価項目である客観的奏効率(ORR)は下記の通りである。コーホートA(N=111人)群では、PD-L1発現率25%未満の患者群3.6%(N=1人,95%信頼区間:0.1%-18.3%)、PD-L1発現率25%以上の患者群12.2%(N=9人,95%信頼区間:5.7%-21.8%)。コーホートB(N=265人)群では、PD-L1発現率25%未満の患者群7.5%(N=7人,95%信頼区間:3.1%-14.9%)、PD-L1発現率25%以上の患者群16.4%(N=24人,95%信頼区間:10.8%-23.5%)。コーホートC(N=68人)群では、PD-L1発現率90%以上の患者群30.9%(N=21人,95%信頼区間:20.2%-43.3%)。以上の結果より、EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子のステータスに関係なくPD-L1発現率の高い患者において良好な客観的奏効率(ORR)を示した。

副次評価項目である6ヶ月病勢コントロール率(DCR)は下記の通りである。コーホートA群では、PD-L1発現率25%未満の患者群7.1%(N=2人,95%信頼区間:0.9%-23.5%)、PD-L1発現率25%以上の患者群20.3%(N=15人,95%信頼区間:11.8%-31.2%)。コーホートB群では、PD-L1発現率25%未満の患者群20.4%(N=19人,95%信頼区間:12.8%-30.1%)、PD-L1発現率25%以上の患者群28.8%(N=42人,95%信頼区間:21.6%-36.8%)。コーホートC群では、PD-L1発現率90%以上の患者群38.2%(N=26人,95%信頼区間:26.7%-50.8%)。

奏効到達期間(TTR)は下記の通りである。コーホートA群では、PD-L1発現率25%未満の患者群1.8ヶ月(95%信頼区間:1.8-1.8ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群1.8ヶ月(95%信頼区間:1.8-1.8ヶ月)。コーホートB群では、PD-L1発現率25%未満の患者群2.1ヶ月(95%信頼区間:1.8-3.7ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群1.9ヶ月(95%信頼区間:1.8-3.7ヶ月)。コーホートC群では、PD-L1発現率90%以上の患者群1.9ヶ月(95%信頼区間:1.8-3.5ヶ月)。

奏効持続期間(DOR)は下記の通りである。コーホートA群では、PD-L1発現率25%未満の患者群7.9ヶ月(95%信頼区間:7.9-7.9ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群7.4ヶ月(95%信頼区間:5.6-9.2ヶ月)。コーホートB群では、PD-L1発現率25%未満の患者群未到達(95%信頼区間:7.2ヶ月-未到達)、PD-L1発現率25%以上の患者群12.3ヶ月(95%信頼区間:7.5ヶ月-未到達)。コーホートC群では、PD-L1発現率90%以上の患者群未到達(95%信頼区間:未到達)。

以上の結果より、奏効到達期間(TTR)、奏効持続期間(DOR)の結果はPD-L1発現率に関係ないことが証明された。

無増悪生存期間(PFS)は下記の通りである。コーホートA群では、PD-L1発現率25%未満の患者群1.9ヶ月(95%信頼区間:1.8-1.9ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群1.9ヶ月(95%信頼区間:1.8-3.6ヶ月)。コーホートB群では、PD-L1発現率25%未満の患者群1.9ヶ月(95%信頼区間:1.8-1.9ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群3.3ヶ月(95%信頼区間:1.9-3.7ヶ月)。コーホートC群では、PD-L1発現率90%以上の患者群2.4ヶ月(95%信頼区間:1.8-5.5ヶ月)。以上の結果より、コーホートB、コーホートC群ではPD-L1発現率の高い患者で良好な無増悪生存期間(PFS)を示した。なお、コーホートA群ではPD-L1発現率に関係ない結果を示した。

全生存期間(OS)は下記の通りである。コーホートA群では、PD-L1発現率25%未満の患者群9.9ヶ月(95%信頼区間:4.2-13.0ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群13.3ヶ月(95%信頼区間:8.1-NC)。コーホートB群では、PD-L1発現率25%未満の患者群9.3ヶ月(95%信頼区間:5.9-10.8ヶ月)、PD-L1発現率25%以上の患者群10.9ヶ月(95%信頼区間:8.6-13.6ヶ月)。コーホートC群では、PD-L1発現率90%以上の患者群未到達(95%信頼区間:5.9ヶ月-NC)。以上結果より、コーホートB、コーホートC群ではPD-L1発現率の高い患者で良好な無増悪生存期間(PFS)を示した。なお、コーホートA群ではPD-L1発現率に関係ない結果を示した。以上の結果より、EGFR遺伝子、ALK融合遺伝子のステータスに関係なくPD-L1発現率の高い患者において良好な全生存期間(OS)を示した。

一方の安全性として58%(N=256/444人)の患者で治療関連有害事象(TRAE)が確認され、最も一般的に発症した治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。疲労11%(N=50人)、甲状腺機能低下症8%(N=36人)、喘息7%(N=31人)、吐き気6%(N=28人)、掻痒6%(N=28人)、下痢6%(N=27人)、発熱6%(N=26人)、甲状腺機能亢進症5%(N=24人)、食欲減退5%(N=24人)。

また、グレード3もしくは4の治療関連有害事象(TRAE)は9%(N=40/444人)の患者で確認され、コーホート別の内訳は下記の通りである。コーホートA群5%(N=6人)、コーホートB群8%(N=22人)、コーホートC群18%(N=12人)、そして1人以上の患者で発症したグレード3もしくは4の治療関連有害事象(TRAE)は下記の通りである。肺炎1%(N=4人)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ上昇1%(N=4人)、下痢1%(N=3人)注射部位反応1%(N=3人)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)上昇1%未満(N=2人)、アミノ基転移酵素上昇1%未満(N=2人)、嘔吐1%未満(N=2人)、疲労1%未満(N=2人)。

重篤な治療関連有害事象(STRAE)は6%(N=27/444人)の患者で確認され、コーホート別の内訳は下記の通りである。コーホートA群5%(N=5人)、コーホートB群5%(N=14人)、コーホートC群12%(N=8人)。そして投与継続中止に至った治療関連有害事象(TRAE)は2%(N=10人)の患者で確認され、その内訳は肺炎(N=3人)、肝酵素上昇(N=2人)、貧血(N=1人)、低酸素血症(N=1人)、腎炎(N=1人)、注射部位反応(N=1人)、下痢 (N=1人)である。

なお、抗PD-L1抗体薬など免疫療法特有の有害事象としてグレード4または5の免疫関連有害事象(irAE)を発症した患者は存在しなかった。グレード3の免疫関連有害事象(irAE)としては、コーホートA群で肺炎1%(N=1人)、コーホートB群で副腎不全1%未満(N=1人)、皮膚炎1%未満(N=1人)、肺炎1%(N=2人)、肝障害1%未満(N=1人)、コーホートC群で下痢1%(N=1人)、下垂体炎1%(N=1人)、皮膚障害1%(N=1人)、肝障害3%(N=2人)である。

以上のATLANTIC試験の結果よりMarina Chiara Garassino氏らは以下のように結論を述べている。”複数の治療歴のある局所進行性または転移性非小細胞肺がん患者さんに対してデュルバルマブ単剤療法は他の抗PD-1/PD-L1抗体薬と同様の有効性を示しました。そして、EGFR遺伝子変異陽性ALK融合遺伝子陽性の患者、EGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性の患者のどちらの患者でも奏効を示しましたが、特にEGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性の患者で特に高い奏効を示しました。以上の結果より、PD-L1発現率25以上のEGFR遺伝子変異陰性ALK融合遺伝子陰性局所進行性または転移性非小細胞肺がん患者さんに対する2レジメン以上の治療としてデュルバルマブ単剤療法は推奨され、EGFR遺伝子変異陽性ALK融合遺伝子陽性局所進行性または転移性非小細胞肺がん患者さんに対してはさらなる追跡調査が必要でしょう。”

Durvalumab as third-line or later treatment for advanced non-small-cell lung cancer (ATLANTIC): an open-label, single-arm, phase 2 study(The Lancet Oncology, DOI: https://doi.org/10.1016/S1470-2045(18)30144-X)

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