抗EGFR抗体薬ベクティビックスの効果予測因子としてHER3発現率が関係している日本肺癌学会と世界肺癌学会議の間に行われた日米医療討論


  • [公開日]2017.11.21
  • [最終更新日]2017.11.21

2017年10月26日、医学誌『JAMA Oncology』にてRAS野生型進行性大腸がん患者に対する抗EGFR抗体薬パニツムマブ(商品名ベクティビックス)の効果予測因子としてHER3発現率の高さが関係している可能性が、第III相のPICCOLO試験(NCT00389870)のレトロスペクティブバイオマーカー解析の結果より示唆された。なおHER3とは、上皮成長因子受容体(EGFR)、ヒト上皮成長因子受容体(HER)2と同様にHERファミリーに属し、細胞のがん化、増殖、薬剤耐性などに関与しているタンパク質である。

PICCOLO試験とは、フッ化ピリミジン系代謝拮抗剤投与後に増悪したKRAS野生型進行性大腸がん患者に対して、イリノテカン単剤療法を投与する郡、またはイリノテカン+ベクティビックス併用療法を投与する郡に無作為に振り分け、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)を比較検証した第III相の試験である。なお、今回のレトロスペクティブバイオマーカー解析ではHER3を予後予測因子として検証している。

本試験の結果、予後予測因子としてのHER3は、HER3発現率の高い患者(N=308人)の全生存期間(OS)は有意に悪化するも(P=0.04)、無増悪生存期間(PFS)は有意に悪化しないこと(P=0.25)が証明された。なお本試験におけるHER3発現率の高いとは、HER3発現率66パーセンタイルを上回るレベルとして決定されている。

また、ベクティビックスの効果予測因子としてのHER3は、HER3発現率の高いRAS野生型進行性大腸がん患者に対するイリノテカン+ベクティビックス併用療法は主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)を有意に延長(ハザード比:0.71,95%信頼区間:0.61-0.82,P< .001)することが証明された。一方、イリノテカン単剤療法の無増悪生存期間(PFS)は有意に延長(ハザード比:0.96,95%信頼区間:0.82-1.13,P=0.65)しないことが証明された。そして、バイオマーカーであるHER3と抗EGFR抗体であるベクティビックスとの間には統計学的有意な相互作用が確認された(P=0.001)。

なお、無増悪生存期間(PFS)中央値としてはイリノテカン+ベクティビックス併用療法郡8.2ヶ月、イリノテカン単剤療法郡4.4ヶ月、イリノテカン+ベクティビックス併用療法郡で病勢進行または死亡のリスク(PFS)が67%(ハザード比0.33,95%信頼区間:0.19-0.58,p<.001)減少することが証明された。

一方、HER3発現率の低いRAS野生型進行性大腸がん患者における無増悪生存期間(PFS)中央値はイリノテカン+ベクティビックス併用療法郡3.3ヶ月、イリノテカン単剤療法郡4.3ヶ月であった(ハザード比0.96,95%信頼区間:0.67-1.38,p=0.84)。そして、バイオマーカーであるHER3と抗EGFR抗体であるベクティビックスとの間には統計学的有意な相互作用が確認された(P=0.002)。

以上のレトロスペクティブ解析の結果を受けて、治験医師は以下のような結論を述べている。”RAS野生型進行性大腸がん患者に対するベクティビックスの治療効果は、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)においてバイオマーカーであるHER3の発現率の高さと統計学的に意味のある関係性が確認されました。本試験は抗EGFR抗体の作用機序に対する知見、臨床における有益性の高い知見を提供することでしょう。

Association of Tumor HER3 Messenger RNA Expression With Panitumumab Efficacy in Advanced Colorectal CancerAssociation of Tumor HER3 Messenger RNA Expression With Panitumumab Efficacy in Advanced Colorectal Cancer(JAMA Oncol. Published online October 26, 2017. doi:10.1001/jamaoncol.2017.3168)

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