日本人EGFR陽性肺がん初回治療における新規EGFRチロシンキナーゼ阻害薬ダコミチニブの実力ますます広がる初回治療EGFR-TKI治療選択 WCLC2017


  • [公開日]2017.11.07
  • [最終更新日]2018.05.08

EGFR変異陽性進行非小細胞肺がんの一次治療としては、ゲフィチニブ(商品名イレッサ)、エルロチニブ(商品名タルセバ)およびアファチニブ(商品名ジオトリフ)と3剤が承認されているが、これらの比較検討した臨床試験は多くなく、非劣性は立証しているものの優越性を立証している臨床試験はない。

そんな中、今年はダコミチニブオシメルチニブ(商品名タグリッソ)という2つの薬剤の第3相試験の優越性を示すデータが発表された。

1つは、未治療EGFR遺伝子変異肺がん患者の556名が参加したタグリッソとイレッサの比較第3相試験(FLAURA、NCT02296125)の結果。今年9月に開催された欧州臨床腫瘍学会ESMO2017にて発表され、主要評価項目無増悪生存期間PFS中央値は、タグリッソ18.9ヶ月、イレッサ10.2ヶ月とが有意に延長し、56%(HR:0.46)の病態進行リスクが低下した。

タグリッソは第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬である。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)を使用した後にEGFR T790M遺伝子変異という二次変異をきたし、薬剤耐性を獲得した場合に奏効するように設計されたタグリッソは、T790M遺伝子変異が認められる非小細胞肺がんに対して効果を発揮し、2016年3月28日に「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のT790M変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に対して適応承認された。

もう1つは、未治療EGFR遺伝子変異肺がん患者の452名が参加したダコミチニブとイレッサの比較第3相試験(ARCHER 1050、NCT01774721)。今年6月に開催された米国臨床腫瘍学会ASCO2017にて発表され、主要評価項目の無増悪生存期間中央値は、ダコミチニブ14.7ヶ月、イレッサ9.2ヶ月とダコミチニブが有意に延長し、41%(HR:0.59)の病態進行リスクが低下した。
※ただし、FLAURA試験では中枢神経系転移(脳転移等)の方も参加できた一方、ARCHER1050試験では中枢神経系転移の方は参加できなかった違いがある。

ダコミチニブは、第二世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬である。第二世代EGFRとしては、他剤よりもパフォーマンスがいいといわれ、ARCHER1050試験における投与開始から24ヶ月時点(2年)の病勢制御率は、ダコミチニブ30.6%、イレッサ9.6%であり、(一概に比較できないが)この数字はジオトリフのLUX Lung7試験の18%よりも高く、タグリッソのFLAURA試験の35.8%に迫る。

当時の発表ではアジア人にて良好のデータも示されたが、2017年10月15日から18日まで横浜で開催されていた国際肺癌学会(IASLC)第18回世界肺癌学会議(WCLC)にて、日本人に限定したデータが、近畿大学 中川 和彦氏によって発表された。

ダコミチニブの効果はタグリッソに迫るレベルであるが・・・

ARCHER1050試験に参加した日本人は81人。ダコミチニブ群に40人、イレッサ群に41人が割り付けられた。

日本人における無増悪生存期間中央値は、ダコミチニブ群が18.2か月(95%信頼区間:11.0-31.3)、イレッサ群が9.3か月(95%信頼区間:7.4-14.7)であり、ダコミチニブ群が病態リスクを46%軽減した(HR:0.540, p=0.0141)。日本人の奏効率は、ダコミチニブ群で75.0%、イレッサ群が75.6%で差はなかった。

安全性について、日本人におけるダコミチニブ群のグレード3以上の有害事象発現率は47.5%であり、イレッサ群36.6%と比べて高かった。多く認められたグレード3以上の有害事象は、ざ瘡様皮疹が27.5%、次に爪周囲炎22.5%、下痢12.5%と続いた。ダコミチニブ群の日本人では85%が有害事象による減量が行われ、イレッサ群24.4%と比べても高いものであった。

一方、タグリッソのFLAURA試験の日本人解析データは、第58回日本肺癌学会学術集会で発表されており、日本人(120人)における無増悪生存期間はタグリッソ群が19.1か月(95%信頼区間:12.6-23.5)、イレッサ群が13.6か月であり、タグリッソ群が病態リスクを39%軽減した(HR:0.610, p=0.0456)。日本人の奏効率は、タグリッソ群で75.0%、イレッサ群が76.0%で差はなかった。

安全性について、日本人におけるタグリッソ群のグレード3有害事象発現率はタグリッソ群が28%であり、イレッサ群49%と比べて低かった。しかしながら、タグリッソ群では間質性肺炎(12%)やQT延長(22%)が認められており、注意が必要である。

以上のように、毒性コントロールの問題が残るが、ダコミチニブを初回治療と使用してT790M遺伝子変異にて薬剤耐性が獲得された場合に、タグリッソを使用する方がトータルとして生存期間が延びる可能性も考えられる。

ARCHER1050試験の共同研究者である神奈川がんセンター 加藤 晃史氏は以下のように述べた。

「ARCHER1050試験の日本人解析データのPFS中央値が18か月以上となり、オシメルチニブに迫っており非常に興味深いです。また、del19とL858Rの両変異に対してもゲフィチニブよりも延長したのはアファチニブとも似ています。初回治療ダコミチニブ、T790M変異陽性時にタグリッソという選択肢はまだ残されたと考えても問題ないと思います。タグリッソは皮膚毒性が発現しづらく、使用し易い薬剤であるため、今後、(初回治療から)タグリッソしか使用しない事態になると、またパラダイムシフトが起こり毒性が強い薬剤を使用することになった場合に、ほとんどの先生が皮膚毒性のコントロールを忘れてしまうことが懸念されます。」「第3相臨床試験の状況を考えると、エルロチニブにラムシルマブを上乗せするRELAY試験(NCT02411448)や、ゲフィチニブが奏効したあとで化学療法を使用してそのまま根治を目指すコンセプトのJCOG1404/WJOG8214L試験( AGAIN study、UMIN000020242)も実施中です。血管新生阻害薬の併用も加えると、ベバシズマブ等による効果増強といった選択肢もあり、EGFR変異陽性肺がん患者の初回治療がタグリッソだけ、と考えるのは時期尚早かもしれません。」

なお、RELAY試験のコホート1データも、今回の解析データと同じくWCLC2017にて中川氏により発表されており、タルセバとラムシルマブ(商品名サイラムザ)の無増悪生存期間17.1か月(95%信頼区間:8.8-NR)となっており、タグリッソやダコミチニブに迫るものがある。この試験の中間解析結果は早ければ来年の米国臨床腫瘍学会(ASCO2018)にて発表される可能性があるとのこと。

いずれにせよ、非小細胞肺がん治療の発達は目覚ましく、よりよい医療の進歩が期待される。

Randomized Phase 1b/3 Study of Erlotinib + Ramucirumab in Untreated EGFR Mutation-Positive Stage IV NSCLC: Phase 1b Outcomes(WCLC2017, Abstract No.P3.01-071)

Dacomitinib Versus Gefitinib for First-Line Treatment of Advanced EGFR+ NSCLC in Japanese Patients (ARCHER 1050) (WCLC2017, Abstract No.P3.01-072)

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