オプジーボやキイトルーダなど免疫チェックポイント阻害薬をはじめ、がん患者の全生存期間(OS)、無病悪生存期間(PFS)を延長させる最新の新薬には高額な費用がかかる。たしかに、費用に比例してがんの治療成績は良くなる傾向があるが、時として安価でも治療成績を向上させる意外な治療方法が発見されることもある。そして、その治療方法はごく身近に存在するものであったりする。

6月2日から5日まで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2017)で報告された2つの研究報告がそのいい例だ。その2つの研究報告によればナッツ(アーモンド等)、ビタミンDを摂取することで大腸がんの治療成績は向上する可能性を示したものであった。これら研究報告についての詳細は以下の通りである。

アーモンドナッツ代表されるtree nuts摂取にてステージ3大腸がんの再発・死亡リスクが低下、一方、ピーナッツは低下せず

ナッツを1週間に2オンス(1オンス=28.3495g)以上摂取する人は、摂取しない人に比べでステージ3大腸がん患者の治療後の再発リスクは42%下がり(P=0.03)
、死亡リスクも57%下がり(P=0.01)、統計学的にも有意であったことが、ダナ・ファーバーがん研究所のTemidayo Fadelu氏による研究報告により明らかになった。

本研究は、1999年から2007年にCancer and Leukemia Group B(CALGB)が実施した大腸がんステージ3を対象とした術後徐化学療法に関する臨床試験(CALGB89803、NCT00003835)に参加した方に対して調査を行っている。すなわち、手術、化学療法による治療を受けたステージ3大腸がん患者(826名)を対象に、治療後にナッツをどのくらいの量食べたか?また食べたナッツの種類は何か?を問うアンケートに基づいて実施された報告である。

アンケート結果では、ナッツを全く摂取しない方は145名、1か月に1オンス以下の方は98名、1か月に1~3オンスの方211名、1週間に1オンスの方214名、および1週間に2オンス以上の方158名に分かれ、これらの方が大腸がんの再発および生存に関して解析されている。

本研究が興味深いのは年齢、性別、BMI、遺伝子変異(KRAS変異、BRAF変異)などのステージ3大腸がんの再発危険因子と同様に、ナッツ摂取量が再発に影響を与える独立した因子である可能性が判ったことはもちろん、ナッツの種類によっても治療成績に差が出る傾向が認めらた点である。

本研究におけるナッツとは、アーモンドナッツ、ヘーゼルナッツ、ウォールナッツ、カシューナッツ、ペカンのことを意味し、アメリカで最も消費量が多いナッツであるピーナッツは含まれていない。ピーナッツバターを含むピーナッツを1週間に2オンス以上摂取する人とそうでない人も本研究で比較されたが、再発率も死亡率も統計的に有意な差が見られなかったのだ(DFS HR 0.81[p=0.46]、OS HR 0.60[p=0.11])。

たしかにピーナッツは「ナッツ」と名前に入るが、厳密にはナッツに属さない豆類であり、その代謝構造はアーモンドナッツなどと異なるため治療成績に差が出たのかもしれない。しかし、ピーナッツバターを塗った焼きたてのトーストをこよなく愛する筆者にとって非常に残念な結果であった。閑話休題。

ビタミンDがステージ4大腸がんに効果がある可能性を示した第2相臨床試験結果

高用量のビタミンDカプセルを内服するステージ4大腸がん患者は、低用量のビタミンDカプセルを内服する人に比べ、無病悪生存期間(PFS)が1.9ヶ月有意に延長することが(P=0.04)、ダナ・ファーバーがん研究所Kimmie Ng氏による研究報告により明らかになった。

本研究は、治療前の1年間ビタミンDを2000IU(1IU=0.025μg)/日以上摂取していない未治療のステージ4大腸がん患者139人に対して、FOLFOX+ベバシズマブ(商品名アバスチン)療法に加えて、8000IU/日のビタミンD3を2週間内服後、続けて4000IU/日を内服する群(高用量群)、又は400IU/日のビタミンDを内服する群(低用量群)に分け、主要評価項目である無病悪生存期間(PFS)の有意差を比較検証した第2相試験(SUNSHINE、NCT01516216)の報告である。

イリノテカン(商品名カンプト、トポテシン)でなくビタミンDカプセル?

最近のステージ4大腸がんの一次治療では、FOLFOX+ベバシズマブ療法にイリノテカンを加えたFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法が一定の患者において有用性を示しているだけに、追加する治療がイリノテカンでなくビタミンDであることに驚いた方もいるかもしれないが、本研究以前からも大腸がんに対するビタミンDの有用性に関する報告は複数ある。

大腸癌細胞株にはビタミンD受容体が多く発現していること。血管新生阻害、癌細胞の分化抑制、アポトーシス誘導を通じてビタミンD自体に抗腫瘍効果があること。そして、治療前のビタミンD血中濃度が全生存期間(OS)、無病悪生存期間(PFS)などの治療成績と正の相関があること。

このように、大腸がんの治療薬としてのビタミンDの有効性の可能性は過去の研究報告を鑑みても期待されていたため、本研究で未治療のステージ4大腸がん患者に対して標準治療であるFOLFOX+ベバシズマブ療法にビタミンDを加えることの有用な可能性が前向き臨床試験により示唆せれた意義は大きい。

ただし、本研究は第2相試験の結果であるため、臨床に応用するためには患者をさらに増やした第3相試験の結果が待たれる。また、ビタミンDは日光浴により体内で生成できる栄養素ではあるが、本試験で必要とされた高用量ビタミンDを生成するには夏の沖縄で正午1時間日光浴をするくらいの大変であるということは蛇足である。

以上のように、安価な費用でも大腸がんの全生存期間(OS)、無病悪生存期間(PFS)を延長させる治療方法が身近な場所から発見されている。今回紹介した2つの研究報告はどちらも標準治療にとって代わるものではなく標準治療に追加した治療ではあるが、安価な費用でもがんの治療成績を向上させる可能性を示唆したことは将来の医療を支える礎になるかもしれない。

Chance of Colon Cancer Recurrence Nearly Cut in Half in People Who Eat Nuts(ASCO News release)

Nut consumption and survival in stage III colon cancer patients: Results from CALGB 89803 (Alliance).(ASCO2017 Abstract 3517)

SUNSHINE: Randomized double-blind phase II trial of vitamin D supplementation in patients with previously untreated metastatic colorectal cancer.(ASCO2017 Abstract 3506)

記事:山田 創
この記事に利益相反はありません。

注:これらの結果は、大腸がんを対象にした結果であること、大腸がんでもナッツの研究結果はステージ3大腸がんにて手術と化学療法をされた方、ビタミンDの臨床試験結果はステージ4大腸がんの初回治療の方に限定した結果であることに注意してください。


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