2017年6月2日から6日まで第53回米国臨床腫瘍学会(ASCO:アスコ)Annual Meeting(年次総会)が開催されている。毎年、米国シカゴにて開催されるASCO年次総会は、毎回世界中から3万人以上のオンコロジストが集まる世界最大の「がんの学会」と言える。今年の年次総会のテーマは「Making a Difference in Cancer Care With You」となり、『ともにがんのケアを変革していく』という意である。

年次総会では2,150の演題が採択され、さらに2,890本以上の演題がオンライン発表として採択されているが、6月4日、プレナリーセッション(最も重要な演題)の1つとして「BRCA変異陽性乳がん患者に対するオラパリブの第3相試験結果」が発表され、更に同日付で、The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE オンラインファースト版に掲載された。

治療歴を有するBRCA遺伝子変異陽性転移性乳がんに対するPARP阻害薬オラパリブの第3相試験結果

遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の原因の1つとなるBRCA1およびBRCA2遺伝子変異。BRCA遺伝子変異を有する細胞はDNA修復する機構に欠陥があるため、がん化しやするくなる特徴がある。一方、BRCA遺伝子変異を有するがん細胞も修復機構の1つに欠損がある状態であるが、PARPというDNA修復する酵素によって補完されている。

PARP阻害薬は、このPARPによるDNAの修復作業を阻止することにより、DNA修復機構に欠損があるBRCA遺伝子変異陽性のがん患者に対して高い効果を示すことが期待されている。

現在、PARP阻害薬であるオラパリブ(リンパルザ)、ニラパリブがBRCA遺伝子変異陽性卵巣がんに対してFDAにより承認を受けているが、BRCA遺伝子変異陽性乳がんに対しては臨床試験の結果が待たれていた。

オラパリブによる奏効率は約60%、更に進行リスクを42%軽減

BRCA1/BRCA2遺伝子変異陽性、HER2陰性、かつ前治療として化学療法を2回まで受けた転移性乳がん患者対象としオラパリブの第3相臨床試験(OlympiAD、NCT02000622)の結果が、米 メモリアル・スローン・ケタリングキャンサーセンターのMark E. Robson氏によって発表された。本試験の主要評価は独立した評価機関により評価されてた無増悪生存期間(PFS)であった。追跡期間の中央値は約14か月であった。

302名の患者が参加した本試験は、日本を含むヨーロッパ、アジア、北米、南米の19カ国で実施され、参加者は2:1の割合でオラパリブ群(205名)または治験担当医が選択した化学療法群(91名)に割り付けられた。治験参加者の年齢中央値は44歳、71%が転移性乳がんに対して化学療法を使用しており、28%がプラチナ製剤を使用していた。BRCA1遺伝子変異陽性患者は55.6%、BRCA遺伝子変異陽性患者は43.1%、BRCA1およびBRCA2の両遺伝子変異陽性患者は1.3%であった。ホルモン受容体陽性患者は50.3%、トリプルネガティブ患者は49.7%であった。

オラパリブ群はオラパリブ錠を300 mg1日2回を、化学療法群は3つの化学療法(カペシタビン(商品名ゼローダ)を2500 mg/m2を14日服用(41名)、またはビノレルビン(商品名ナベルビン)を 30 mg/m2をDAY1、DAY8に静脈投与(16名)、またはエリブリン(商品名ハラヴェン)を 1.4 mg/m2 をDAY1、DAY8に静脈投与の何れかを21日を1サイクル(34名))から治験担当医が選択した。

結果、無増悪生存期間の中央値はオラパリブ群で7か月、化学療法群で4.2か月となり、オラパリブによりがんの進行リスクを42%軽減し、統計学的に有意であった(HR 0.58; P=0.0009)。客観的奏効率(ORR)は、オラパリブ群で59.9%、化学療法群28.8%となった。

サブ解析結果において、トリプルネガティブ乳がんにおいては47%の進行リスクが有意に軽減し(HR0.43, 95% CI 0.29-0.63)、ホルモン受容体陽性乳がんにおいては18%の進行リスクが軽減した(HR0.82, 95% CI 0.55-1.26)。

進行後、治験担当医はがんが再び進行または死亡するかを観察を追跡評価し、2回目の無増悪生存期間中央値(2nd PFS)においても、オラパリブ群で13.2か月、化学療法群で9.3か月で進行リスクを43%軽減した(HR 0.57; P=0.003)。しかしながら、生存期間の延長につながるか否かを判断するには更なる追跡が必要となる。

安全性について、オラパリブ群は全体的に耐容性が高く、毒性のために治療を中止した患者は4.9%であったのに対して、化学療法群では7.7%であった。一般的な有害事象(AE)は、オラパリブ群で吐き気、貧血および疲労であり、化学療法群で白血球数の減少、貧血、疲労、手足の発疹であった。両群とも、グレード3以上の有害事象関連での中止は少なかった(それぞれ36.6%、50.5%)。

生活の質(クオリティーオブライフ;QOL)についても、HRQoLおよびEORTC-QLQ-C30という指標にて調査され、オラパリブにて統計学的に良好な結果が得られた。

Mark E. Robson氏は、「本試験は、BRCA遺伝子変異陽性乳がん患者において、標準治療と比較してPARP阻害剤により改善された最初の実証である」、「オラパリブは、生殖細胞系BRCA遺伝子変異を有する患者に生じるトリプルネガティブ乳がんに対して効果的であることを確認することが特に重要視されている。このタイプの乳がんは特に治療が難しく、しばしば若い女性に影響を与える」、「この研究(結果)は、特定のDNA損傷修復経路に欠陥を有する乳がんが、その欠陥を利用するように設計された(PARP阻害薬等の)標的療法に敏感であるという原則のデータとなる」、「オラパリブはおそらく、転移性乳がんの早期に最もよく使われるだろう。患者の生活の質を維持し、化学療法の必要性を延期し、脱毛や低白血球数などの副作用を避ける機会を提供するであろう」と述べている。(ASCO News Releasesから抜粋、翻訳)

Olaparib Slows Growth of BRCA-Related Metastatic Breast Cancer(ASCO News Releases)

OlympiAD: Phase III trial of olaparib monotherapy versus chemotherapy for patients (pts) with HER2-negative metastatic breast cancer (mBC) and a germline BRCA mutation (gBRCAm)(ASCO2017 Abstract LBA4)

Olaparib for Metastatic Breast Cancer in Patients with a Germline BRCA Mutation(New England J Med; June 4, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1706450)

Olaparib Extends PFS in Phase III BRCA+ Breast Cancer Trial(ONCLIVE)

参考;BRCA1、BRCA2変異乳がんとPARP阻害薬

「がん」の原因には、環境要因(日常生活が影響するもの)と遺伝要因(生まれつきもったもの)があると言われている。乳がん患者さんの中には、遺伝的に極めて乳がんにかかりやすい体質を持っている人が存在する。このような体質を持った方々は、「若くして乳がんを発症する傾向が強く」、「一度乳がんに罹患しても、もう片方の乳房に乳がんが発症したり」、また、「乳房温存療法で治療した方では、温存乳房内で再度乳がんが出現しうる確率が高い」と言われている。

乳がんの場合、全体の5~10%が遺伝要因にて発症したものであると言われており、そのうち最も多いものが遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)となる。

遺伝性乳がん・卵巣がんは、遺伝要因がはっきりしているがんの1つであり、BRCA(ぶらっか、ぶらか、びーあーるしーえー)と呼ばれる遺伝子に変異があると、乳がんと卵巣がんに罹患するリスクが高いことがわかっている。70歳までに乳がん及び卵巣がんにかかる可能性は、BRCA遺伝子変異陽性乳がんは49%~57%(一般の方(9%)の5~6倍)、BRCA遺伝子変異陽性卵巣がん:18%~40%(一般の方(1%)の18~40倍)となる。(※日本乳癌学会 2015年版 乳癌診療ガイドライン(2015年7月30日)参照)

乳がん患者の約5%がBRCA変異を有していると言われており、以下の特徴があるといわれている。

・若年で乳がんを発症する。
・トリプルネガティブ乳がんである。
・両方の乳房にがんを発症する。
・片側の乳房に複数の乳がんを発症する。
・乳がんと卵巣がんの両方を発症する。
・男性で乳がんを発症する。
・家族内に乳がん、卵巣がん、すい臓がんおよび前立腺がんの方がいる

※参照元『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(Ver.3)』(2015年11月修正)

なお、日本において、現在、BRCA遺伝子検査を保険診療にて受けることはできない。一部の医療機関にて、自費で受けることは可能であるが、約20万円程度の費用負担となる。よって、まずはHBOCの可能性が高いか否かをカウンセリングする必要がある。なお、BRCA遺伝子検査は、全米を代表とするがんセンターで結成されたガイドライン策定組織NCCN(National Comprehensive Cancer Network)という団体のガイドラインを主軸に基づいて実施されることが多い。

記事:可知 健太
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