ALK陽性非小細胞肺がん アレセンサ第2相試験の3年追跡結果 JCO ~ザーコリの脳転移の課題を克服する可能性~


  • [公開日]2017.05.09
  • [最終更新日]2017.12.14

未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子陽性の切除不能の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の適応で2014年7月に厚生労働省の承認を取得したアレクチニブ塩酸塩(商品名アレセンサ)は、第1/2相試験(AF-001JP、JapicCTI-101264)の3年間にわたる追跡で半数以上が治療を継続し、無増悪生存(PFS)率は62%にのぼったと報告された。しかも、脳転移の有無はアレセンサの有効性に影響しない可能性が示唆された。聖路加国際病院の田村 友秀氏らが2017年3月15日のJournal of Clinical Oncologyに論文を発表した。

アレセンサ単剤使用時、約6割が治療開始3年後時点でも病態の進行が認められず

アレセンサの承認の根拠となったAF-001JPの第2相部分で、1種以上の化学療法歴があり、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者46人を登録し、アレセンサ300mgを1日2回経口投与した。

データカットオフは2015年9月10日で、初回登録例のカットオフ2011年8月30日、最終登録例のカットオフ2012年4月18日であった。カットオフ時点で第2相対象46人中25人はアレセンサの治療を継続中で、病勢進行(PD)が確定したのは18人(39%)であった。

全解析対象(46人)では無増悪生存(PFS)期間中央値は特定に至らず、治療開始後3年のPFS率は62%であった。脳転移の有無やステージ、化学療法の治療歴数、喫煙歴、または性別などによる因子別解析で、脳転移あり集団(14人)の3年PFS率は56%、脳転移なし集団(32人)の3年PFS率は64%、前治療後再発集団(13人)では69%、ステージIIIB/IV集団(33人)では59%、前治療数が3種未満、または3種以上の集団(各31人、15人)ではそれぞれ61%、64%、女性、または男子患者集団(各24人、22人)ではそれぞれ77%、47%、喫煙歴あり、またはなし集団(各19人、27人)ではそれぞれ53%、68%であった。

カットオフまでにPFS期間中央値が特定されたのは、脳転移ありの患者集団(14人)の38カ月、および男性患者(22人)の35.3カ月であった。また、PFS期間は腫瘍縮小率の程度とは相関しなかった。3年全生存率は78%であった。

安全性解析対象は、第1相部分で300mgを投与された患者、および第2相部分で1回以上投与された患者を合わせた58人で、初回登録例のカットオフは2011年5月13日、最終登録例のカットオフは2012年4月18日であった。

治療関連有害事象は、グレード3が16人(27.6%)に発現し、グレード4、またはグレード5は認められなかった。グレード3以上の重篤な有害事象は、全安全性解析対象(58人)の51.7%、第2相対象(46人)の50%に発現した。ほとんどの有害事象は治療開始後6カ月以内に発現したが、下痢の場合はグレードを問わず治療期間中に一定の発現率を維持していた。

追跡期間に用量減量を必要とする新たな有害事象は認められなかった。第2相の試験中止の原因となった有害事象は、グレード3の脳浮腫、グレード3の食道がん、グレード3の腫瘍出血、グレード2の硬化性胆管炎、グレード3のALT上昇 およびグレード1の間質性肺疾患であった。

治療開始前、46人中15人は処置の必要な癌性疼痛、咳、または喀痰が認められていた。これらのほとんどは薬物療法による処置で治療開始後早期に寛解し、アレセンサの治療を継続しつつ、薬物療法を大幅に軽減することができた。

ザーコリの弱点を克服したALK阻害薬

遺伝子変異のある非小細胞肺がん(NSCLC)のドライバー遺伝子としてALK-EML4融合遺伝子が同定され、この新たな分子に照準を定めたザーコリが登場してから、ALK陽性NSCLCの治療成績は向上した。ザーコリはALK遺伝子再構成のある非小細胞肺がん患者に対する一次療法、および二次療法の試験で化学療法を上回る生存ベネフィットを示し、PFS期間中央値は、一次療法として10.9カ月、二次療法として7.7カ月であった。ALK阻害薬治療歴のない患者集団における奏効率は74%と報告された。

しかし、ザーコリの治療を受けた患者の中には、二次性の治療抵抗性変異が原因で1年以内に病勢進行(PD)となる場合があり、また、ザーコリは血液脳関門BBB)の移行性が低いため、中枢神経系CNS)に対する効果が弱いことが課題であった。そのため、全身効果のみならず、中枢神経系(CNS)に対しても有効性を発揮できるALK阻害薬の研究開発が進められてきた。

アレセンサは、上記のザーコリの試験と同じ条件下で、AF-001JP第2相部分の主解析における奏効率は93.5%(完全奏効[CR] 2人、部分奏効[PR] 41人)に達した。Tamura氏らは、このベネフィットが長期間持続するかどうか、脳転移のある患者に対する抗腫瘍効果はあるか、あるいは二次性変異による治療抵抗性はどうかを検証するため追跡し、3年を経過したところで一定のデータを出した。

この時点でいえることは、アレセンサは腫瘍サイズの縮小度合いにかかわらず無増悪生存(PFS)期間を持続的に延長させたことから、腫瘍の再増殖を抑えることで長期ベネフィットをもたらす可能性が示唆された。また、脳転移の発生を理由とする病勢進行(PD)は、治療開始前の脳転移の有無に関わらず10%未満で、治療開始前の脳転移が確認されていた患者でも同等の抗腫瘍効果が得られ、治療中に脳転移を誘発する可能性も低いことが示された。

非小細胞肺がん脳転移に効く理由の1つは脳移行性

ザーコリは脳からの薬剤排出の主要メカニズムであるP糖蛋白の基質になるが、アレセンサはP糖蛋白を介して排出されないことから、アレセンサの脳内濃度は対血漿比が高く、CNSにおける良好な有効性が見込めると考えられた。

現在、AF-001JPのデータに基づき、ALK阻害薬未治療のALK陽性非小細胞肺がん(NSCLC)日本人患者を対象に第3相無作為化非盲検試験(JO28928、JapicCTI-132316、J-ALEX)が実施されており、無増悪生存(PFS)など評価項目はザーコリを対照群としてアレセンサの方がすぐれることが最近報告された。さらに、同様の試験条件でグローバルの第3相試験も開始されており、J-ALEXの結果と合わせ、より詳細なエビデンスが得られると期待される。

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