膀胱がん 免疫チェックポイント阻害薬キイトルーダの第1相試験KEYNOTE-012 Lancet Oncol


  • [公開日]2017.01.20
  • [最終更新日]2017.11.24[タグの追加] 2017/11/24

米国Fox ChaseがんセンターのElizabeth R Plimack氏らは、プログラム細胞死受容体1(PD-1)を認識するモノクローナル抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)の尿路上皮がん患者を対象とする第1相試験(KEYOTE-012)の結果を、2017年1月9日のLancet Oncol Onlineに発表した。

膀胱がんの一種である尿路上皮がんの局所進行、または転移のある患者を対象とする非無作為化非盲検試験で、他の固形癌患者も登録されたバスケット試験NCT01848834)の一環である。尿路上皮がん患者に対する持続的な抗腫瘍効果と許容可能な安全性が認められたことから、同適応症での第2相、および第3相試験の実施は妥当と結論された。

様々な固形がんに対するキイトルーダを使用する試験~今回の発表はその膀胱がんコホート結果~

米国、およびイスラエルの8施設で2013年5月14日から12月10日までの間に、115人がスクリーニングされた。そのうち、腫瘍細胞または間質細胞におけるプログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)の発現陽性(発現レベル1%以上)の患者33人が登録され、キイトルーダ10mg/kgを2週ごとに静注し、病勢進行や許容不能の毒性が認められるか、あるいは最長24カ月にわたり反復した。主要評価項目は安全性、および固形がん効果判定基準(RECIST)による全奏効率であった。

安全性

データカットオフの2015年9月1日において、キイトルーダを少なくとも1回投与された全33人が安全性解析対象で、有効性解析を含む最大解析対象は27人であった。キイトルーダの投与期間中央値は71日で、治療に関連する主な有害事象グレード1からグレード2の疲労(18%)、末梢浮腫(12%)などであった。13人(39%)は治療関連有害事象を発現しなかった。治療に関連するグレード3の有害事象は5人(15%)に11件発現し、そのうち筋炎と横紋筋融解症を発現した1人、および高カルシウム血症を発現した1人は治療を中止した。治療に関連する重篤な有害事象は3人(9%)に5件発現し、高カルシウム血症・筋炎、神経筋障害・筋炎・横紋筋融解症、および中毒性脳症であった。免疫関連の有害事象は、治療との因果関係の有無を問わず6人(18%)に発現した。治療関連死はなかった。

有効性

追跡期間中央値13カ月で、全奏効率は26%(7/27人)、うち完全奏効(CR)は3人(11%)、部分奏効(PR)は4人(15%)であった。その他、4人に病勢安定SD)が認められた。奏効到達期間の中央値は2カ月、奏効持続期間の中央値は10カ月で、奏効の7人中、4人は6カ月以上、3人は12カ月以上持続し、2人はデータカットオフの時点でも持続していた。

無増悪生存(PFS)期間中央値は2カ月、治療12カ月後のPFS率は15%で、全生存期間OS)中央値は13カ月、治療12カ月後の全生存率は50%であった。

バイオマーカー解析

PD-L1発現レベルと抗腫瘍効果との関連解析対象は25人であった。腫瘍細胞のみのPD-L1発現陽性集団(発現レベル1%以上)14人の奏効率は27%、同陰性集団(発現レベル1%未満)11人の奏効率は14%であった。腫瘍細胞+腫瘍関連炎症性細胞のPD-L1発現陽性集団(発現レベル1%以上)4人の奏効率は0%、同陰性集団(発現レベル1%未満)21人の奏効率は24%であった。

考察

・第1相試験の主要評価項目として、尿路上皮がん患者集団におけるキイトルーダの安全性が検証された。他の癌種の患者集団において報告されている安全性プロフィールと全般的に一致した。

・もう1つの主要評価項目である全奏効率(ORR)は26%(7/27人)で、アテゾリズマブ(商品名テセントリク)の第2相試験ORR 26%(26/100人)と同等であった。テセントリクは2016年に米国で尿路上皮がんの適応で承認されたプログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)標的モノクローナル抗体である。テセントリクのORR 26%は、腫瘍に浸潤した免疫細胞におけるPD-L1発現レベル5%以上の患者集団の値で、発現レベルを問わない集団でのORRは15%(45/310人)であった。なお、テセントリクと同様、PD-L1標的モノクローナル抗体デュルバルマブの第1/2相試験で、進行尿路上皮がん患者集団のORRは31%(13/42人)と報告されている。

・キイトルーダとテセントリク、およびデュルバルマブは、いずれもT細胞のエフェクター機能を促進して抗腫瘍効果を発揮するが、テセントリクとデュルバルマブはPD-L1に結合して直接相互作用をするのに対し、キイトルーダはPD-1と結合することでPD-1とPD-L1、およびPD-L2の双方の相互作用を阻害する。このメカニズムの違いが臨床効果、あるいは安全性において意義のある違いとして反映されるかどうかは不明で、より大規模な試験を通して解析している。

・キイトルーダの本試験では、スクリーニング時にPD-L1の代表的なプロトタイプアッセイで陽性を確認した患者のみを登録した。しかし、プロトタイプアッセイで陽性と判定された患者4人は、以降の臨床試験時の異なるアッセイ法で陰性と判定された。免疫組織化学的アプローチが異なる場合の不均一性が露呈した典型ではあるものの、予想外でもあった。腫瘍細胞のPD-L1発現は、同じ腫瘍組織サンプルの中で部位が異なれば発現レベルも変動する可能性がある。

・PD-L1発現の有無と臨床効果の関連性について、本試験では、腫瘍細胞に腫瘍関連炎症性細胞を含めたサンプルで陽性、または陰性と判定された患者集団の奏効率は、腫瘍細胞のみで判定した場合とは決定的な差が認められた。解析対象患者数が少なく、一定の結論を導くことはできないが、テセントリクとデュルバルマブの臨床試験でもPD-L1発現レベルと臨床効果との相関関係が報告されていることから、炎症性細胞も含めたサンプルでのPD-L1発現解析は、PD-1標的、またはPD-L1標的薬剤の治療適応性を決定する1つの方法となり得る。

・キイトルーダが尿路上皮がんに臨床効果を発揮するメカニズムについての仮説として、腫瘍が誘導するPD-L1、または免疫刺激性の新抗原の存在がある。これは最近、悪性黒色腫、または非小細胞肺がんの免疫療法に対する反応の仲介者として指摘されているもので、キイトルーダのメカニズムにも関与している可能性がある。

・作用メカニズムを考えるにあたり、尿路上皮がんにおける腫瘍反応が遺伝子変異の頻度と関連するという予備的報告もあるが、悪性黒色腫の場合とは矛盾する点もある。さらに、患者個別の生来的な免疫微小環境の性質により、単球にPD-1/PD-L1を誘導する可能性があり、特定の細胞における効果が変化することも考えられる。したがって現時点では、個別の患者においてキイトルーダの効果を仲介する複数のメカニズムが存在するというにとどまった。

キイトルーダ(ペムブロリズマブ)とは

PD-1抗体とPD-L1抗体の違いについて

記事:可知 健太

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