脳腫瘍(膠芽腫)を対象とする抗体-薬物複合体(ADC)ABT-414の第1相試験結果 SNO2016


  • [公開日]2016.12.01
  • [最終更新日]2017.06.29

米国で2016年11月17日から20日に開催された第21回神経腫瘍学会議(SNO)で、オランダErasmus MCがんセンターのMartin J. Van den Bent氏がABT-414の再発多形膠芽腫(rGBM)患者に対する高い有用性を発表した。

上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子増幅のある再発多形膠芽腫(rGBM;グリオブラストーマ)患者に対する2次、3次、あるいは4次治療として、EGFR標的抗体と細胞障害薬モノメチルアウリスタチンF(MMAF)から構成される抗体-薬物複合体ADC)であるABT-414を単剤で投与した結果、中間解析時の6カ月後無増悪生存(PFS)率は25.3%と算出され、そこには2種以上の治療歴のある患者が56%含まれていた。主な毒性は軽度の眼症状であった。

EGFR遺伝子増幅を確認した膠芽腫を対象にABT-414を投与する第1相試験

上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子増幅を確認した既治療の再発多形膠芽腫(rGBM)患者を対象とする第1相非盲検試験(M12-356、NCT01800695)で、2016年3月1日までに増量パートに12人、拡大パートに48人を登録し、ABT-414の静注による治療を実施した。治療歴が1種の患者は43%、2種の患者も43%、3種の患者は13%であった。
治療下で発現した主な有害事象(TEAE)はかすみ目(65%)、頭痛(30%)、疲労(30%)、眼痛(28%)、および羞明・まぶしがり(28%)であった。グレード3からグレード4のTEAEは、主に角膜炎(13%)、結膜上皮小嚢胞(8%)、かすみ目(5%)、ドライアイ(3%)、潰瘍性角膜炎(3%)、および視力低下(3%)であった。

解析対象56人中、部分奏効(PR)が3人(5%)に認められ、PR持続期間中央値は4.4カ月であった。病勢安定SD)は24人(43%)に認められ、病勢進行(PD)は29人(52%)であった。

ABT-414の特徴~EGFR抗体の抗体薬物複合体~

2016年11月17日、Martin J. Van den Bent氏へのインタビュー記事がOncLiveに掲載された。Van den Bent氏はいう。「ABT-414は、ICCやゲフィチニブ(同イレッサ)といったEGFRのシグナル伝達を阻害する分子標的薬とは違う。EGFRに結合してEGFRを活性化した上で、極めて強力な細胞障害活性を持つMMAFを細胞内に投入する。再発を3回も繰り返した患者を含めた治療でも、6カ月後のPFS率(PFS6)が35%付近になる。PFS6が20%を超えれば注目に値するというこれまでの常識を破る値だ」

Van den Bent氏が指摘するのはGBMの特徴とABT-414の作用機序である。GBMで頻繁に認められるEGFR遺伝子の増幅、または変異など遺伝子異常のタイプが、エルロチニブやゲフィチニブが効くがん種とは完全に異なるということである。よって、EGFRのシグナル伝達を阻害するこれらの分子標的薬はGBMには効かず、新たなアプローチが必要になる。ABT-414の作用機序は、EGFRを利用してトロイの木馬のようにがん細胞内に入り込み、強力な毒性を持つMMAFを細胞内に放出させるという。奏効するGBM患者が少ないことは承知の上で、実際奏効率は十分とは言えず、生存シグナルの明確な有益性も得られていないことは予期していたという。しかし、PFS6の25%という値は極めて重要であると主張し、試験継続中の拡大パートの結果が一定の妥当性を示すことを期待している。ABT-414の治療に反応する患者の特性を理解し、どのような患者が抵抗性を示すかの知見を積み重ねていく必要がある。当然、すべての患者に効くわけではないためである。

Van den Bent氏は安全性についてもコメントしている。ABT-414の治療で発現した眼毒性は、神経系の腫瘍では珍しいもので、重要な課題だ。眼毒性を許容させるための対処方法を見つけなくてはならない。それ以外は極めて忍容性の高い薬剤といえる。

Expert Discusses Promising ABT-414 Trial Results in EGFR-Amplified, Recurrent GBM(OncLive20161117)

膠芽腫(GBM)とは

膠芽腫は神経膠腫(グリオーマ)の中で最も悪性度が高く(グレード4)、肉眼的、組織学的に多彩な形態を示すため「多形膠芽腫」と呼ばれる。すべての神経膠腫のうち膠芽腫は約36%を占める。なお、神経膠腫は、病理診断上の悪性度によりグレードが4つに分かれ、グレード3の退形成星細胞腫と退形成乏突起神経膠腫、グレード4の膠芽腫が特に悪性神経膠腫とされる。

膠芽腫は45歳から65歳の男性の大脳半球に多く発生し、最初から膠芽腫の所見を示す一次性膠芽腫と、より悪性度の低い星細胞腫などから悪性に転化した二次性膠芽腫の2種類がある。頭痛や痙攣、運動麻痺、認知症症状を認め、症状は急速に悪化する。発症からの生存期間中央値は1年程度とされる。治療は摘出術、放射線、化学療法テモゾロミド(テモダール)が標準治療となる。

ACTR-07. EFFICACY OF A NOVEL ANTIBODY-DRUG CONJUGATE (ADC), ABT-414, AS MONOTHERAPY IN EPIDERMAL GROWTH FACTOR RECEPTOR (EGFR) AMPLIFIED (EGFRamp), RECURRENT GLIOBLASTOMA (rGBM)

日本で実施中のABT-414の臨床試験

・P1/2試験
・WHO分類グレード3~4の神経膠腫(グリオーマ)
・未治療~既治療
・ABT-414単剤またはテモダール+ABT-414
Study Evaluating ABT-414 in Japanese Subjects With Malignant Glioma(clinicaltrials.gov)

記事:可知 健太

×

この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン