低悪性度神経膠腫(グリオーマ)の初回治療 化学療法テモゾロミド単剤と放射線療法との比較 Lancet Oncol

低悪性度(世界保健機関[WHO]グレードIまたはグレードII)神経膠腫の初治療患者を対象とする第3相試験で、DNAアルキル化薬テモゾロミド(商品名テモダールカプセル)単剤の効果は、放射線療法と差がない可能性が報告された。一方で、腫瘍の分子マーカー別に効きやすい治療があり、臨床転帰が異なることが分かった。つまり、患者個別の病勢の推移には大きな幅があり、治療開始後わずか数カ月で再発する患者もいれば、長年にわたり症状もなく病勢進行が認められない患者もいた。このことは、腫瘍のサイズや位置など患者背景のみならず、遺伝子変異など分子マーカーの特徴に基づく個別の治療戦略の必要性を示している。

この第3相試験(EORTC 22033-26033、NCT00182819、EudraCT 2004-002714-11)の結果は、オランダMaastricht大学メディカルセンターのBrigitta G Baumer氏らが2016年9月26日のLancet Oncol Onlineに発表した。

低悪性度神経膠腫対象 放射線療法vsテモダール

19カ国(日本含まず)、78施設で、少なくとも1つのハイリスク因子を有する低悪性度神経膠腫(星細胞腫、乏突起星細胞腫、乏突起膠腫)患者を放射線原体照射群、またはテモゾロミド群に1:1に無作為に割り付け治療した。放射線群は1日1回1.8Gyを週5日計28回、最大50.4Gy、最長6.5週として照射し、テモゾロミド群は1サイクル28日として75mg/m2を1日1回21日間、最長12サイクルとして経口投与した。主要評価項目は無増悪生存(PFS)期間、副次評価項目は全生存期間(OS)、有害事象、神経認知機能、健康関連QOL、神経学的機能評価、およびPFS期間の分子マーカー別相関解析であった。

なお、分子マーカーは染色体1番短腕(1p)、19番長腕(19q)の同時欠失(1p/19q codel)、DNA修復酵素O6-メチル-グアニン-DNA-メチル基転移酵素(MGMT)プロモーターのメチル化状態、およびイソクエン酸脱水素酵素(IDH)をコードする遺伝子IDH1/IDH2の変異である。

2005年12月6日から2012年12月21日に、477人が放射線療法群(240人)、またはテモゾロミド群(237人)に割り付けられ、追跡期間中央値は48カ月であった。

全体的には統計学的な差はなし、遺伝子群によっては放射線群が良好

主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値は、テモゾロミド群(39カ月)と放射線群(46カ月)との有意差はなかった(ハザード比(HR)1.16)。全生存期間(OS)中央値の特定には至っていない。

分子マーカー解析対象318人における層別解析で、PFS期間中央値に有意差が認められた因子は、1p/19q codel、または1p/19q non-codelのIDH変異(IDHmt/codel)、またはIDH遺伝子野生型(IDHwt)であった。IDHmt/1p/19q non-codel 腫瘍の患者集団で、放射線群のPFS期間中央値はテモゾロミド群より有意に延長したのに対し(HR=1.86)、IDHmt/1p/19q codel 、およびIDHwt 腫瘍の患者集団ではPFS期間の群間有意差は認められなかった。

グレード3からグレード4の血液学的有害事象は、テモゾロミド群14%(32/236人)、放射線群1%未満(1/228人)に、グレード3からグレード4の感染症はそれぞれ3%(8/236人)、1%(2/228人)に、中等度から重度の疲労はそれぞれ7%(16人)、3%(8人)に認められた。全477人中、死亡は119人(25%)で、そのうち治療関連死はテモゾロミド群2人、放射線群2人であった。

治療開始前の腫瘍分子マーカー別に比較した初めての試験

本試験のpost-hoc解析で、治療とは無関係に、IDHwtの腫瘍の患者は予後が最も悪く、IDHmt/1p/19q codelの患者は予後が最も良好であった。これは、既に公表されているデータと一致した。

神経膠腫のように臨床転帰に多様性のある腫瘍の治療では、正確な分子マーカーの予後診断が極めて重要である。急速に進行する場合には集中治療が必要であるが、悪性度が低い状態の場合は、治療により発生する急性かつ持続的な毒性や欠陥で、生活の質や神経機能を損なう可能性があるため、摘出後の治療をあえて施さないという選択肢もある。

本試験で予後不良の因子とされたIDHwt、またはIDHmt/1p/19q non-codelの患者のサブグループの場合、最新でより集中的な治療は、一定の毒性の代償を払ったとしても必要と考えることもできるが、IDHmt/1p/19q codelで予後が良好な患者に対する適切な治療については議論の余地が残る。

本試験の結果として、化学療法単剤で無増悪生存期間の改善を示すことはできなかったが、放射線療法と同等の有効性が期待できる患者に対してテモゾロミドの化学療法を実施することは、放射線による長期的な副作用を抑制、あるいは遅延することが可能であり、腫瘍の分子的特徴と臨床転帰、および次の治療選択と関連づけることは、低悪性度神経膠腫の個別治療、および管理の標準化において多大な有益性をもたらすと考えられた。

低悪性度神経膠腫について

低悪性度神経膠腫は中枢神経系原発腫瘍で、WHOグレードIからIVのうち、一般的にはグレードIとIIを指す。リンパ節や複数の臓器への転移が少ないため、悪性度は病理組織学的な基準で評価している。低悪性度神経膠腫は長い時間をかけて症候性の病態に進行し、病理形態は様々であるが、組織学的分類では主に星細胞腫、乏突起膠腫、ならびにこれらが混在した乏突起星細胞腫である。例えば、グレードIIIの星細胞腫は、1997年から2000年の5年生存率は33%と報告され、長期間かけて再発、悪性化し、予後不良となることがわかっている。ほかにも組織型が数多くあり、多彩な組織型に応じて臨床経過も多様で、治療を受けてからの臨床転帰も多様である。

治療の第一段階は外科的摘出であるが、浸潤性が高いため根治は困難で、引き続き放射線治療、化学療法、さらには放射線と化学療法の併用療法を中心として、状態に応じた集学的治療が必要となる可能性がある。近年、予後因子と捉え得る分子マーカーが明らかになりつつあり、大半の患者がIDH1遺伝子変異を示す星細胞腫はテモゾロミドに対する反応性が低いこと、MGMTプロモーター領域にメチル化のある患者は放射線治療の感受性が高いこと、1p/19q codelの患者は1p/19q non-codelの患者より全生存期間が長いことなどが報告されている。

しかし、低悪性度神経膠腫は病理組織型や経過を含めた複数の因子が多様性に富むため、臨床試験の観察期間は長期間確保する必要があり、現実的には、エビデンスレベルの高い結果を得ることが困難である。そうした状況を踏まえ、治療の効率性、有益性を高めるための遺伝子解析を確立し、個別の遺伝子異常に対応した治療の選択が重要である。

Temozolomide chemotherapy versus radiotherapy in high-risk low-grade glioma (EORTC 22033-26033): a randomised, open-label, phase 3 intergroup study(Lancet Oncol 2016; 17: 1521–32)

記事:川又 総江 & 可知 健太


人気記事