卵巣がん プラチナ製剤感受性型に新規PARP阻害薬ニラパリブが進行リスク低下 NEJM


  • [公開日]2016.10.20
  • [最終更新日]2017.06.29

卵巣がんを対象とするPARP1/2阻害薬ニラパリブの第3相試験

プラチナ製剤奏効後の維持療法で進行リスク低下、プラセボとの有意差達成 NEJM

ポリ(アデノシン-2-リン酸[ADP]-リボース)ポリメラーゼ(PARP1/2)阻害薬ニラパリブが、プラチナ製剤で奏効した卵巣がん患者に対する化学療法後の維持療法で、病勢進行(PD)リスクを最大で約70%低下させることが示された。

2016年10月7日から11日にデンマークで開催された第40回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)プレジデンシャルシンポジウムで、デンマークCopenhagen大学病院の M.R. Mirza氏らにより第3相試験(ENGOT-OV16/NOVA、NCT01847274)の結果が発表され、10月8日のNew England Journal of Medicineにも論文が掲載された。

PARP(パープ)阻害薬は、BRCA(ブラッカ、ビーアルシーエー)変異を有する方に効果が期待される薬剤である。BRCA変異を有する方は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)といわれ、変異を有しない方より、生涯の卵巣がんや乳がんの発症するリスクが高いことで有名である。今回、PARP阻害薬であるニラパリブはBRCA変異陽性には勿論、BRCA変異陰性についても効果を示した。

試験デザイン・方法

プラチナ製剤による治療で奏効し、最終治療後8週以内の再発性卵巣がん患者を対象とする無作為化二重盲検試験で、生殖細胞系乳癌遺伝子(gBRCA)変異陽性患者203人、gBRCA変異陰性患者350人の計553人を登録し、プラチナ製剤後の維持治療としてニラパリブ300mg、またはプラセボ(偽薬)を1日1回連日経口投与した。

最初の患者登録は2013年8月26日で、最新解析のためのデータロックは2016年6月20日、現在も追跡期間続行中である。欧州の婦人科系腫瘍学研究グループネットワーク(ENGOT)に参加する米国、カナダ、およびハンガリーの107施設で実施された。

BRCA変異陽性にて病態が進行するリスク73%軽減、BRCA変異陰性でも55%軽減

全解析対象の追跡期間中央値は16.9カ月で、主要評価項目である無増悪生存(PFS)期間中央値は、gBRCA変異陽性集団のニラパリブ群(21.8カ月)がプラセボ群(5.5カ月)と比べ有意に延長し、ハザード比HR)は0.27であった。

gBRCA変異陰性集団のニラパリブ群(9.3カ月)もプラセボ群(3.9カ月)と比べ有意に延長し、HRは0.45であった。gBRCA変異陰性集団のうち、相同組換え修復不全(HSD)陽性集団でも、ニラパリブ群(106人、12.9カ月)がプラセボ群(56人、3.8カ月)と比べ有意に延長し、HRは0.38であった。

ニラパリブ群の無増悪生存率のカプラン-マイヤー曲線は、治療開始後1年経過しても下方への傾きが鈍く、全生存期間OS)中央値の特定には至っていない。(※要するに、病態進行するまでの期間が著しく長く、その影響を受けて生存期間ものびているということ)

無増悪生存期間中央値はgBRCA変異の有無のみならず、性別や年齢(18歳から65歳、または65歳以上)、人種、地域、プラチナ製剤の前治療に対する奏効の程度(完全寛解、または部分寛解)、プラチナ製剤治療歴の数(2剤、または2剤超)、あるいは化学療法治療歴の数(2剤、または2剤超)のいずれの層別解析においてもニラパリブ群はプラセボ群を上回り、HRはすべて1.00を下回った。

無増悪生存期間、すなわち卵巣がんが進行することなく生存している時間が経過するに伴い、生活の質QOL)は悪化することなく維持された。QOL(クオリティオブライフ;生活の質)評価尺度(FOSI、EQ-5D-5L質問票)を用いた患者自己申告の回答完了率はニラパリブ群、プラセボ群ともに高く、QOLレベルは両群同程度であることが確認された。

安全性

ニラパリブ群で用量の変更を要するグレード3、またはグレード4の有害事象は、血小板減少症(33.8%)、貧血(25.3%)、および好中球減少症(19.6%)であった。プラセボ群で発現したグレード3、またはグレード4の有害事象は、高血圧(2.2%)、好中球減少症(1.7%)、および腹痛(1.7%)であった。

ニラパリブの作用機序・バイオマーカー

ポリ(アデノシン二リン酸[ADP]-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬は、乳がんや卵巣がんの原因遺伝子であるBRCAの変異により発生したがん細胞に特異的な効果を発揮すると考えられている。というのも、PARPは蛋白質翻訳後の修飾を担う酵素で、抗がん剤や放射線により損傷されたがん細胞DNAを修復する働きがある。BRCA変異によりDNA相同組換え修復機能が低下、あるいは欠損しているがんのPARPを阻害することにより、PARPによる修復も相同組換えによる修復もできないため、致命的なDNAの損傷を与えると考えられている。

本試験の探索的解析では、gBRCA変異の有無、体細胞BRCA変異の有無、あるいは相同組換え修復不全(HSD)の有無に関わらず、ニラパリブ群ではプラセボ群より無増悪生存(PFS)期間が有意に延長したことから、本試験の対象患者の背景では、ニラパリブの有益性の規模についてはBRCAやHSDが一定の情報を与えてくれるものの、正確に予測できるバイオマーカーとはなり得なかった。

なお、FDA(米国)は、本臨床試験結果をもとに申請されたデータをもとに、2016年9月にファスト・トラック・デザイネーション(優先審査課題)としており、早期承認が期待されていますが、Clinical trials.govにて確認する限り、日本では臨床試験すら実施されていない状況となる。

Niraparib Maintenance Therapy in Platinum-Sensitive, Recurrent Ovarian Cancer(October 8, 2016DOI: 10.1056/NEJMoa1611310)

記事:川又 総子 & 可知 健太

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