緩和ケアをより早期に実施することにより1年生存率が上昇する可能性 JCO


  • [公開日]2016.08.09
  • [最終更新日]2017.06.30

この文献は2015年5月のものです。

緩和ケア開始のタイミングを特定することの難しさ

 米国アラバマ大学のMarie A. Bakitas氏らは、がん緩和ケアを開始する最適な時期を見極めるべく初の無作為化比較試験(ENABLE III、NCT01245621)を実施した。生活の質QOL)や症状の自覚といった患者が自己申告した調査項目では緩和ケア開始のタイミングをつかむことはできなかったが、早くから始めた方が1年生存率は高かったとする解析結果を、2015年5月1日のJournal of Clinical Oncology(JCO)誌(33巻13号1438頁)に発表した。

 2010年10月から2013年3月、米国立がん研究所(NCI)がんセンター、Veterans Affairsメディカルセンター、および地域クリニックにおいて、固形がんまたは血液がんの進行期と初めて診断された患者、治療経験ありで再発、もしくは進行と診断されて30~60日以内の外来患者207人を登録し、登録開始とともに緩和ケアを始める群(早期介入群)、または登録3カ月後から緩和ケアを始める群(遅発介入群)に無作為に割り付けた(各104人、103人)。いずれの介入群でも緩和ケア開始時に対面相談を実施した後、規格化された指導セッションを用いた遠隔(電話)相談を週1回6週間行った。その後はフォローアップ期間として遠隔相談を継続し、早期介入群は緩和ケア開始後6週目、12週目と18週目、遅発介入群は6週目、以降、両群とも8週毎に調査項目を自己評価した。緩和ケアの期間中も通常のがん治療(化学療法を含む抗がん剤や放射線療法、症状緩和を目的とする薬物療法など)を継続した。緩和ケアを受けることによるQOLや症状、気分の変化、1年生存率、および医療資源の利用などを評価項目とし、緩和ケア開始の時期により差が認められるかどうかを追跡した。

 その結果、全解析対象における患者自己評価項目、すなわちQOL、気分、および症状それぞれの指標を用いたスコアは早期介入群、遅発介入群の間に統計学的有意差はなく、登録後3カ月、6カ月、12カ月、または死亡前12カ月、6カ月、および3カ月のいずれの自己評価時点でも群間有意差はなかった。入院日数、集中治療室滞在日数、救急外来利用回数、死亡前14日間の化学療法、および在宅死の割合といった医療資源利用に関する調査でも群間差はなかった。カプラン-マイヤー生存曲線から算出される1年生存率は、早期介入群(63%)の方が遅発介入群(48%)と比べ有意に高かった(群間差15%、p=0.038)。

緩和ケアの早期開始は生存改善につながると示唆。しかしメカニズムの完全理解には届かずという結論

 ENABLE IIIは、標準的ながん治療とともに緩和ケアを開始する最適なタイミングを評価した初の無作為化比較試験である。緩和ケア相談に直接出向くことが困難な地方在住の患者を対象として、特異的に個別化した、外来の緩和ケア相談と遠隔医療のフォローアップを実現し、通常のがん治療と一緒に早くから緩和ケアを受けた患者集団と、3カ月遅れで緩和ケアを始めた患者集団の比較である。

 患者自身が申告する項目では緩和ケア開始時期による差はなかったが、1年生存率で認められた群間有意差は、2010年のNew England Journal of Medicine誌(363巻733-742頁)に掲載されたTemel JS氏らの調査結果と同様であった。それは非小細胞肺がん患者のみを対象としたものだが、生存期間は早期介入群が11.6カ月、遅発介入群が8.9カ月で有意差が認められた。(p=0.02)。したがって、メカニズムは明確にはわからないものの、診断直後からがん治療と並行して緩和ケアを実施することの生存ベネフィットはあると示唆された。

 死亡する直前の14日間に化学療法を受けた患者の割合は7%で、Temel氏らの調査(17.5%)と比較すると半分以下であった。さらに、ENABLE IIIでは患者の半数以上が在宅で死亡し、そのうち80%はホスピスのサポートを受けていた。このことは、コクランレビューに示されているように、早期緩和ケアを受けた患者集団の在宅死の割合が受けない患者集団の2倍になるということとも一致する。

 なお、コクランレビューとはコクラン共同計画が発行する重要な文献で、世界中の臨床試験から収集したデータの質を評価し、統計学的に統合した体系的な評価である。英国国民保健サービス(NHS)支援のため1992年に立ち上げられたコクラン共同計画は、現在では世界的に急速に展開している。

 米国緩和ケアホスピス協会(NHPCO)の2012年の調査では、ホスピスを介した緩和ケアの継続期間は17.8日である。そして、緩和ケアの照会から死亡に至るまでの期間は41日から90日という米国立がんセンターの調査もある。これらと比較して、ENABLE IIIの対象であった故人が試験に参加していた期間は240日から493日、結果としては十分な時間は確保でき、症状の管理とコミュニケーション、意思決定、ケア計画などを含め、在宅の環境で必須の緩和ケアと質の高いがん治療を提供することができた。

 著者らが行ってきたENABLE(Educate Nurture Advise Before Life Ends)は、アクセス困難ながん患者とその介護家族を対象に効率的な遠隔医療で実施する早期緩和ケアのモデルだ。本試験に先行して実施されたENABLE IIは無作為化オープンラベル試験であるが、通常のがん治療と比較してQOLと抑うつ症状が改善し、症状の強さの改善傾向、および生存期間の延長傾向が認められた。ENABLE IIの試験デザインに基づき、緩和ケアを開始するタイミングは診断から30~60日以内、対照群で緩和ケアを遅らせる時期を3カ月後に決定した。3カ月遅らせた根拠は、ENABLE IIの対象で生存していた患者からのフィードバックに基づいており、症状の負担が重い時には緩和ケアのおかげで助けられたという証言も得ていた。また実際、診断から3カ月後に症状強度の増大も確認されていた。こうした背景から、ENABLE IIの試験デザインを一部変更し、ENABLE IIIを実施するに至った。

 がん緩和ケアを開始するタイミングに関わる要素は複合的で、緩和ケアの効果を目に見える客観的な形で表すためには、測定項目の選定とその長所短所を把握することが重要で、データ収集の環境や解析では変数が多いのも当然。多くの課題を克服しつつ、がん患者のエンドオブライフの見地に立てば、緩和ケアの調査研究が最優先課題であることには変わりがない。

Early Versus Delayed Initiation of Concurrent PalliativeOncology Care: Patient Outcomes in the ENABLE III Randomized Controlled Trial(JCO May 1, 2015vol.33 no.13 1438-1445)

記事;可知 健太&川又 総江

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