がんによる体重減少 アナモレリンが有用な可能性 日本肺癌学会


  • [公開日]2015.11.30
  • [最終更新日]2018.11.29軽微な誤記修正

■この記事のポイント

がん悪液質は、がんに伴い体重(主に筋肉量)が減少する病態であり、がん患者の約70%が発現する。

・がん悪液質が認められる進行非小細胞肺がん患者に対して、アナモレリンが体重増加に寄与し、QOLを改善させる可能性を示唆。

・しかし、握力改善が目標値を達成しなかったため、現在、第2相試験を再チャレンジ中である。


11月26日~28日に実施した第56回日本肺癌学会学術集会のプレナリーセッション(本会議にて最も重要な演題発表の1つ)にて、「非小細胞肺がんに伴う悪液質に対するONO-7643(アナモレリン)第2相試験」の結果が、杏林大学医学部付属病院の横山 琢磨医師より発表されました。

がん悪液質は、がんに伴い食欲不振及び体重減少(主に筋力量の減少)が発症する複合疾患であり、がん患者の約70%に発現し、特に進行非小細胞肺がん患者で認められます。記憶に新しいのは川島なお美さんではないでしょうか。
また、悪液質はがん患者のQOL(クオリティーオブライフ;生活の質)を著しく低下するにも関わらず、現在、がん悪液質に対する有効な治療法は存在せず、アンメットメディカルニーズの高い領域(治療満足度が低いのにもかかわらず、治療法が確立しておらず、必要性が高い領域)となります。

がん悪液質の臨床的な診断基準は以下の通りです。
①体重5%低下
②体重2%低下しているが、BMIは20%より少ない低下
③体重2%低下しており、サルコペニア(身性の筋量の低下を特徴とする症候群。従来、老化に伴うものが多いとされている)を伴う。
*上記、①~③のいずれかと共に経口摂取不良/全身炎症を伴う

今回の被験薬であるアナモレリンは、胃で産生される「空腹ホルモン」と言われているグレリンに類似した構造を示しており、低分子グレリン様作用薬の一種となります。食欲中枢に作用することによる『食欲増進と摂食量増加』および脳の視床下部・下垂体に作用することによる成長ホルモン(GH)の増進とインスリン様成長因子(IGF-1)の増進による『タンパク合成の増進と筋肉量の増加』が期待できます。

本試験は、6か月以内に5%以上の体重減少が認められた手術不可能と診断された非小細胞肺がん患者を対象に、アナモレリン50mg、100mgおよびプラセボ(偽薬)を非盲検下(どの薬剤を使用しているかわからない状態)にて、12週間使用したときの除脂肪体重および握力を確認したものになります。各群54人ずつ割り付けられました。

ポイントは以下の通り。
◆除脂肪体重推移(12週)
プラセボ:+0.55㎏
アナモレリン50mg:+0.85㎏
アナモレリン100mg:+1.15㎏
→アナモレリン100mgについて、継時的な変化量は統計学的に除脂肪体重について増加を示した(p=0.03)。

◆握力(12週)
プラセボ:+0.45㎏
アナレモリン50mg:+0.02㎏
アナレモリン100mg:+1.07㎏
→アナレモリン100mgについては増加傾向が認められたが、統計学的には増加を示していない。

◆QOL(生活の質)指標(12週)
22項目のQOLに関する質問票に回答した結果。合計スコアにてアナモレリン100mgに改善が認められ、以下の個別項目について改善が認められた。

・日常の生活(活動)ができましたか。
・30分くらいの散歩ができましたか。
・ひとりで風呂に入ることができましたか。
・食欲はありましたか。
・食事がおいしいと思いましたか。

◆生存期間について
全体においてはアナモレリン群ではOSに差は認めれなかったが、プラセボ・アナモレリン群問わず、体重減少が生じた患者は予後不良であった(統計学的に証明。p<0.0001)

安全性
副作用は非常に軽度で少なく、高い忍容性を認めらた。

上記について、改善傾向が示された結果であったものの、主要評価である握力についての結果を示すことはできておらず、現在、同じような試験設計にて、6分間歩行を指標とした第2相臨床試験をリチャレンジ中であるとのことです。

【JAPIC-CTI】
非小細胞肺がんに伴うがん悪液質に対するプラセボを対照とした多施設共同二重盲検無作為化並行群間比較試験(募集終了)

なお、海外では良好な結果が示されているとのこと。
海外情報リファレンス:アナモレリンが食欲不振・悪液質を伴う進行性肺癌患者に対して食欲増進および体重増加に有効/欧州臨床腫瘍学会(ESMO2014)

記事:可知 健太

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