牧野 かおりさん
2003年10月(当時22歳)、ホジキンリンパ腫ステージⅣと診断され、BEACOPP療法の臨床試験に参加。
つらい治療に乗り越え、牧野さんはある夢を叶えたそうです。
オンコロスタッフ大内がお話しをお伺いました。
新入社員の私を襲ったがん
大内:がんと診断されるまでの流れを教えてください。
牧野:症状が出始めたのは、2003年5月、スポーツジムに入社し、インストラクターとして働き始めてすぐのことでした。
体がだるい、朝起き上がれない、異常に汗をかく、といった症状がありましたが、はじめは病気とは思わず、新入社員によくあることだと思いました。
上司に相談したところ、精神科の受診をすすめられたままに受診し、うつ病と診断されました。
うつ病と診断されてからは、家族と相談し、一人暮らしをやめ、実家に帰ることにしました。
実家に帰って1か月ほど経ったある朝、顔がひどくむくみ、目を開けることが出来ませんでした。
さすがにうつ病ではないと感じ、他病院を受診することにしました。
精密検査の結果、ホジキンリンパ腫ステージⅣとの診断でした。
しかし、治療をあきらめてしまわないようにと、主治医と父が相談したうえで、ステージⅢかⅣという、あいまいな表現で私に説明してくれました。
医師から提案された標準治療と臨床試験
大内:牧野さんは臨床試験に参加されたと伺いました。
臨床試験について、医師からどのように説明がありましたか。
牧野:ホジキンリンパ腫の治療方法として、標準療法であるABVD療法と、BEACOPP療法の臨床試験について、主治医から説明がありました。
主治医は、臨床試験を強く勧めるということはなく、ABVD療法と、BEACOPP療法それぞれの投与方法や、副作用について、丁寧に説明してくれました。
進行期の患者さんに対して、BEACOPP療法のほうが長期生存が見込まれることを知り、臨床試験に参加することに決めました。
また、当時の私は、早く退院したいという思いがありました。
BEACOPP療法の方が早く退院出来そうだったことも、臨床試験の参加を決めた要因になりました。
実際に参加して感じた臨床試験の良い面、悪い面
大内:臨床試験に参加してご自身が感じられた良かったこと、悪かったことがありましたら教えてください。
牧野:臨床試験の良い面は、人の役に立てるという点です。
マイナス面は、情報が集めにくく、体験談を聞きにくいという点です。
治療法を決める際に、同じ治療をされている方の情報をインターネットで探しました。
ABVD療法を受けている人の情報は見つかりましたが、BEACOPP療法を受けている人の情報は見つかりませんでした。
BEACOPP療法の情報が見つからなかったので、自分でインターネットを通じて発信しようと思いました。
当時はまだ、ブログやSNSが普及していない時代です。
ホームページを作ることはとても大変でしたが、自分と同じ治療を受ける方の役に立つかもしれないという思いでホームページを作りました。
自分と同じ治療を受ける方の役に立つかもしれない、自分のデータが今後の医療に役立つかもしれないといった使命感のようなものを感じました。
その使命感が、自分自身を奮い立たせてくれていたように思います。
しかし、最近になって、私が受けた治療法は毒性が高いことが理由で、現在日本では積極的に選択肢にないということを知り、気持ちの整理をつけるのに時間がかかりました。
それでも、あの時の選択は、私が精いっぱい考えて出した結論だったので、「よく頑張った!私」と思っています。
大内:確かに、ご自身の受けていた治療法が、毒性が高く現在は推奨されていないと聞いたらショックですね。
でも、牧野さんが臨床試験に参加してくれたからこそ、現在の治療法が確立されたのですね。
生きる希望と勇気をくれた自転車選手
牧野:診断されたときはショックで落ち込むということはありませんでしたが、治療が進んだ頃、日を追うごとに立ち上がることが困難になり、見た目も変わってしまい、「半年後に私は生きているのだろうか?」と不安になることがありました。
そんな時、がん治療を乗り越えて走る自転車選手の存在を、私の友人が教えてくれました。
「私もいつか元気になって、自転車選手のように動けるかもしれない」
自転車選手の存在が、私に生きる希望と勇気を与えてくれました。
がんを乗り越えて叶えた夢
大内:牧野さんは、トライアスロンをされていますよね。
牧野:はい。
私は小さいころから水泳をやっていて、いつかトライアスロン大会に出場してみたいと思っていました。
治療中は、立つことが出来ず、ハイハイでトイレに行ったり、病院内を車いすで移動するほど、体力も筋力も落ちてしまいました。
本屋さんで立ち読みしているだけでも筋肉痛になってしまう程でした。
治療を終えて、まずは両親と一緒に走ることから始めました。
今では、日本だけではなく、アメリカやカナダのトライアスロン大会にも出場しています。
そして、7年前から毎年小児がん克服チャリティーマラソン大会のゲストランナーを務めています。
スポーツを通じてがんサポートを行う役目を果たしています。
大内:トライアスロンは、水泳、マラソン、自転車の3種目ですよね。
健康な私でさえ、トライアスロンが出来る自信がありません。
がん治療を乗り越えて、トライアスロン大会に出場したいという夢を叶えられた牧野さんは、本当にすごいですね。
大切な家族
大内:牧野さんには、お子さんがいらっしゃるのですね。
牧野:昨年、特別養子縁組が成立し、子どもの親になりました。
一児の母として子育てに奮闘中です。
大内:子育てには体力が必要だと思いますが、牧野さんはトライアスロンをされているので、体力面は問題ないでしょうか。
牧野:トライアスロン大会で一時的に体力を使う分には問題ありませんが、日常生活の中で体力を持続させ、安定させることは難しいです。
我が子は、夜泣き等はなくしっかり寝てくれますが、わんぱくタイプで起きている間は大変です。
子育ての大変さは実際にやってみないとわからないですね。
世の中のお母さん、お父さんはすごいと思います。
同じ病気を持つ方へ伝えたいこと
大内:同じ病気を持つ方へ伝えたいことはありますか。
牧野:治療中は、「病気を治してからが自分の人生」と思っていました。
目標を持つことはもちろん大切ですが、半年後に自分がどうなっているかわからないので、「今を楽しむこと」「今日楽しむこと」が大切だと感じます。
また、「自分をほめてあげること」や、「今日も頑張ったねって思うこと」が大切ですね。
※ABVD療法やBEACOPP療法については、
こちらで説明しています。