肺がん治療薬を決めるための遺伝子検査


こんにちは。オンコロの川上です。

いつも当サイトを訪問いただき、ありがとうございます。


今回は、肺がんの治療方針を決めるために重要な遺伝子検査についてのコラムです。


近年がん医療では、「個別化医療」が重要になってきています。肺がんも、「肺がん」というだけでは治療方針は決められず、組織型(腺がん、 扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がん、など)や、がん細胞の遺伝子変異の有無や種類によって、治療方針が変わってきます。


肺がんの治療薬選定に関係する遺伝子変異は2023年3月現在、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、NTRK、MET、RET、KRASの8つがあります。これらの遺伝子変異がある場合は、対応した分子標的薬剤を使用することで効果が期待できるため、治療方針決定のために遺伝子変異の有無や種類を特定することはとても重要です。


詳細は、国立がん研究センター東病院 呼吸器内科 医長の松本慎吾先生による「肺がんゲノム医療における遺伝子検査 (2022年版)」をぜひご視聴ください。


*ただし、こちらは肺癌診療ガイドライン2021年版に基づくもので、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RETの6種類が対象となっていますが、現在はNTRK、KRASが加わっています。それだけ日進月歩、これからもさらに追加されていく期待がありますよね。


治療方針を決めるために遺伝子変異を特定するための検査を「コンパニオン診断(以下CDx : Companion Diagnostics)」といいます。肺がん領域では、ほかのがん領域に先駆け、EGFRに対応する薬としてゲフィチニブ(商品名:イレッサ)が使われてきており、今から10年ほど前からCDxが行われてきましたが、治療薬の選定に関わる遺伝子変異が増えてきたこともあり、保険適用となるCDxも増えてきました。CDxには、単一の遺伝子変異を調べる「シングルプレックス検査」と、一度に複数の遺伝子変異を調べることができる「マルチプレックス検査」があります。最近では、マルチプレックス検査の「オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステム」 および「AmoyDx®肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」に加え、「肺がん コンパクトパネル® Dx マルチコンパニオン診断システム」が承認されたばかりです。また、検体はがんの病理組織が必要なものもあれば、血液検体で良いものもあり、血液検体による検査は「リキッドバイオプシー」といいます。


患者さんとしては、治療効果がある薬剤が存在する遺伝子変異が8つもあるならば、少しでも早くすべての可能性について知りたいですよね。つまり、1つずつ遺伝子変異を検出する検査を順番にしていくよりも、マルチプレックス検査を最初にやってほしいですよね。

また、既に手術などで採取した病理組織が使えれば良いですが、検査のために病理組織を検体として採取するよりも、血液検体で済むならば、そちらの方がいいですよね。


ただ、これがさまざまな事情によって、患者さんの願う通りに進んでいないのが現状のようです。詳しいことはまた別の機会にお話したいと思います。


保険適用下では、それぞれのCDxが検出する遺伝子変異と、それに対応する薬剤がセットになって決まっており、マルチプレックスCDxで何らかの遺伝子変異が見つかり、それに対応する薬剤があったとしても、その遺伝子変異と薬剤が保険適用対象になっていない場合は、保険診療下ではその薬剤は使えません。研究でわかってきたことが保険適用となるまでに時間的なギャップがあるのも、患者さんにとってはもどかしいですが、これはエビデンスをきちんと出して適正なプロセスを踏む必要があるため、致し方ないのかもしれませんね。


さて、ここで、すべての固形がん領域を対象に、2019年に保険適用となった「包括的がんゲノムプロファイリング検査(以下CGP:Comprehensive Genomic Profiling)」についても少し触れておきたいと思います。


CGPが保険適用となる条件は「標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む。)であって、関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者に対して実施する場合」で、一度に複数それも数百という遺伝子を調べることができ、標準治療が終了した患者さんの遺伝子を網羅的に調べ、医師による検査結果解釈のもと、使用できる薬剤や治験を探索し治療方針を策定するために行われます。そしてこれは、保険適用下では原則として1度の実施しか認められていません。CGPは、同様に遺伝子の変異を調べるCDxとは目的や実施時期が違います。


個別化医療、ゲノム医療がますます進む肺がん。

マルチプレックスCDxとCGPが患者さんにとって最適なタイミング、方法で実施されることを願ってやみません。


川上


サポーター

患者団体

運営