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がん治療中の『食』を見直すプロジェクト『WASHOKU』日本でのエビデンス構築を目指して


  • [公開日]2022.08.19
  • [最終更新日]2022.08.19

がん患者さんにとって、良好な栄養状態を維持することは、治療の恩恵を最大限に受けるためにも非常に重要です。しかしながら、抗がん剤によるさまざまな副作用により、「食べたいけれど食べられない」という悩みを多くの患者さんが抱えています。その理由のひとつに、食欲不振・口内炎・味覚障害など、個々の悩みに合わせた解決策がないという現状があります。

この問題の解決の糸口を見つけるために、日本でひとつの研究プロジェクト『WASHOKU』が動こうとしています。現在、クラウドファンディングを通して、多くの方の支援を募っており、たくさんの応援メッセージも届いています。( https://readyfor.jp/projects/washoku_cancer

今回は、この『WASHOKU』プロジェクトを立案された水上拓郎先生(NTT東日本関東病院 腫瘍内科 医師) と、同研究メンバーである川口美喜子先生(大妻女子大学家政学部 教授 管理栄養士)にお話を伺いました。

『WASHOKU』プロジェクト立ち上げの原動力とリアルワールドデータを集めることの意義

浅野:先生のご研究の概要を、背景も含めて教えてください。

水上先生:2020年の診療報酬改定により、外来化学療法を受ける患者さんに対して管理栄養士が栄養指導をすることが可能になりました。ただ、どんな指導でどんな効果が得られるのかということを具体的に裏付けるエビデンスがありません。そこには、患者さんの“食べられない”原因が実際にはひとつの症状だけでは説明できず、またさまざまな体調の変化が影響し得るという背景があります。
そこで、がん患者さんの食事(特に摂取量)に影響し得る症状を網羅的に調べてリスト化し、“食べられない”原因を明らかにしようと考えたのが、本プロジェクト立ち上げのきっかけです。具体的には、外来で化学療法を受けるがん患者さんの症状と食事を、AIでカロリーなどが算出できるスマートフォンアプリを使って、1人あたり1か月間入力してもらう、というものです。

浅野:この研究の強みはどんなところにありますか?

川口先生:“食べる”ということには、栄養摂取という“サイエンス”に根差した観点と、医療から少し外れた個々の“食への想い”といった観点の2つがあると思っています。今回の研究で患者さんの生の声を集めていくことにより、両観点を併せて考えていかれるということが強みではないでしょうか。

例えば味覚障害は、味が感じられなくなる“味覚消失”や今までと全く違った味に感じるようになる“錯味症”など多岐にわたるため、ひとつの決まった解決策では改善されないケースが多くあります。その時に、管理栄養士としての科学的な知識や料理スキルに、患者さんの“こんなものが食べられたよ”という実際の体験に基づく多くの情報を掛け合わせることで、個々の症状や患者さんの生活習慣に合わせた提案ができるようになるわけです。また、日本には四季があり、そこには物語があります。また、地域によって食の嗜好が異なります。ぜひこの研究を通して、一人ひとりの物語も併せた日本ならではのデータを収集していきたいです。

水上先生:本研究は試験期間を1年で設定しているので、四季の移り変わりの影響も併せたデータを収集できると思っています。四季の影響を反映した症状と食事の情報というリアルワールドデータが集まるので、それをどう生かしていくかということが次のステップであり、WASHOKUは主たる研究以降も色々な方向に広がっていく可能性があると思っています。

『WASHOKU』プロジェクトの次なる展開

浅野:このデータを集めることによって、現状の課題をどう解決していくことにつながるのでしょうか?先ほどの「次のステップ」の部分も含めて将来への期待をお聞かせください。

川口先生:“食べられない”患者さんに出会ったときに、「好きなものを好きなタイミングで食べてよいですよ」と言葉をかける医療スタッフは多いと思います。この言葉を聞いた患者さんは、見捨てられてしまったのかなと不安なるケースもありますが、実際には現時点でだれも解決策を持ち合わせていない、ということが背景にあると思います。特に近年のがん治療では、小児やAYA世代から高齢者まで患者像が多彩で、治療方法もその副作用も多岐にわたるので、管理栄養士の経験が追い付いていません。今後データ収集により管理栄養士の引き出しを膨らませることができれば、具体的な解決策を提示できるようになりますし、医師・看護師も自信を持って患者さんを管理栄養士につなげられます。医師・看護師から管理栄養士へつなぎ、そしてそこで具体的なアドバイスをする、これがうまく回るようになれば良いと思っています。

水上先生:川口先生のような管理栄養士の先生方は、今回集めたデータをどう使っていくかという一歩先を見据えた立ち位置におられます。我々医師は、食に関する悩みを抱えている患者さんを的確に判断し、管理栄養士にパスすることが重要だと思っています。実際のアンケートでも、必要な患者さんに管理栄養士の指導がまだ十分届けられていないという結果が出ています。そのため、栄養指導の必要な患者さんを医師がスクリーニングするためのツールの開発に、今回集めるデータを活用させていくことが第一歩だと思っています。

浅野:川口先生のように、がん患者さんの食のサポートを精力的に行っている管理栄養士は、日本全国ではまだまだ数が少ないと聞きますが

水上先生:管理栄養士の数の問題ではなく、活躍できる場がまだ確立できていないことが課題だと思っています。どんな栄養指導をしたらどんな効果が得られるのか、というデータは乏しいのが現状です。今回の研究を通してエビデンスを蓄積することで、管理栄養士が参考にできるデータも増えると思っています。

川口先生:活用できるデータがあれば、とまどいなく積極的に前に出ていかれる栄養士は増えていくと思います。

水上先生:アンケート調査をすると、明確なガイドラインがないことや知識・経験不足、栄養指導の有効性のエビデンス不足を挙げる方が多いので、こういった部分を今回の研究で変えていきたいと考えています。

浅野:今回の研究が、医療スタッフ側の栄養指導の基準作り、そして患者さんの安心や食べるモチベーションにつながると理解しました

水上先生:患者さんは基本的にはみなさん食べたいという希望を持っています。抗がん剤を始める時点で既に体重減少があることも多く、4割くらいの患者さんが不安を感じていて、そのご家族は患者さん以上にその体重減少を心配しています。にもかかわらず、医療者側がそれに応える体制を持っていないというのが現状です。この研究を通して、的確なアドバイスの提供につなげていけたらと考えています。

川口先生:これまでの栄養指導は、がん悪液質にならないために、という常に死の概念がちらつくものだったと思います。しかし死の回避が栄養指導の目的ではなく、食べることで楽しい時間を過ごして治療をがんばろう、という気持ちになれることが本来の栄養指導の目指しているところだと思っています。その想いが、今回のプロジェクト名『WASHOKU』という響きに込められていると感じています。

デジタルを駆使しつつ、患者さんに寄り添った研究を

浅野:最後にがん治療と向き合っている患者さんに向けてメッセージをお願いいたします

水上先生:自身は食べることの重要性を医師として実感したことがひとつのきっかけで、消化器腫瘍を専門とするようになりました。“食べること”に関して多くのがん患者さんがストレスを感じていらっしゃるのが現状で、今回の取り組みを通して、“食べること”の苦痛を軽減すること、ひいては食事だけでなく治療(薬物療法)を上手に、楽に続けられることにつなげられるような研究になればと思っています。

また、今回の研究は、AIアプリを使うことによる最新のデジタル・トランスフォーメーションの特徴も持っていますが、やはり一番の目的は患者さんを理解することです。デジタルを駆使しつつも、患者さんに寄り添った研究にしていきたいと思っています。

川口先生:今回の研究は、食べることの喜びを患者さんやご家族と共有しながら一緒になって進めていく研究だと思っています。患者さんの声を聴きながら進めていくコンセプトを持ったプロジェクトに関わることができて、私自身もとても感謝しています。

浅野:
ありがとうございました。患者さんの抱えるさまざまな課題を、医師や栄養士がともに考えていく、そんな体制作りの第一歩になる研究になることを願っています。そして、一人でも多くの患者さんやご家族の方が、先生の研究や想いに触れ、がんの症状や治療の副作用と向き合いながらも前向きに「食べること」について考えるきっかけを作ることができればと思いました。

関連リンク
『WASHOKU』プロジェクトへの寄付はこちらから⇒ https://readyfor.jp/projects/washoku_cancer

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