【特集・創薬の舞台裏を知る!(前編)】希少疾患の薬の開発に挑戦するノーベルファーマ


  • [公開日]2016.07.20
  • [最終更新日]2017.03.10

製薬企業のノーベルファーマ(東京都中央区)は、希少疾患を中心に、必要とされているのに大企業が着手しない医薬品・医療機器の開発することを目的に設立された会社です。希少がんの治療薬開発の課題と患者・家族ができることについて、同社管理本部長の菅谷勉さん、研究開発本部長の島崎茂樹さん、研究開発本部開発企画部長の三村正文さんにインタビューしました。

―ノーベルファーマのミッションを教えてください。希少疾患の薬を開発する会社なのですか?

菅谷 当社のミッションは、必要なのに顧みられない医薬品・医療機器の提供を通して、社会に貢献することです。2003年に塩村仁社長が稲畑産業との合弁で創業した国内創薬ベンチャーです。稲畑産業が2002年にノーベル・エンタープライズ・インダストリーズ(Nobel Enterprises Industries Inc.)を買収、いわばその姉妹会社としてノーベルの社名を冠されたものです。ノーベル・エンタープライズ・インダストリーズは、ダイナマイトの発明で知られるアルフレッド・ノーベルが1871年スコットランドに設立したニトログリセリン製造会社に遡ります。

島崎 市販している医薬品は13品目あり、結果的に希少疾患の薬が多くなっていますが、月経困難症の治療薬であるルナベル(一般名/ノルエチステロン・エチニルエストラジオール)のような患者数の多い疾患の薬もあります。がん関連では、脳腫瘍の一種である悪性神経膠腫(グリオーマ)の手術時に脳内に埋め込んで使うギリアデル(一般名/カルムスチン)、すい臓や消化管にできる神経内分泌腫瘍の治療薬であるザノサー(一般名/ストレプトゾシン)など希少がんが対象の薬を開発してきました。

三村 日本の大手製薬会社の重点領域は、乳がん、肺がん、消化器がんなど患者数の多いメジャーながん、糖尿病治療薬、ワクチンなどです。小児の難病、遺伝病など大手がターゲットにしないところを当社の主要な領域にしています。希少がんも含めて希少疾患は6000~7000種類あり、治療薬がないものがほとんどです。当社は研究所を持っていないので、大学や研究機関と協力して、ヒトでの薬効が示唆された有力なシーズ(創薬の種)があれば一つ一つ開発していくつもりです。

―希少がんをはじめ、患者数の少ない病気の薬の開発は、会社としてはリスクではないのでしょうか?

三村 実は、ノバルティスファーマ、グラクソ・スミスクラインといった大手のグローバルな製薬会社は、希少疾患の医薬品開発を一つのターゲットにしています。病気にもよりますが、希少疾患であってもグローバルにみると結構患者数が多い場合もあるからです。当社の主な市場は日本のみなので確かに事業は厳しいですが、国の希少疾病用医薬品・希少疾病用医療機器等の研究開発促進制度を最大限活用し、日本医療研究開発機構(AMED)から開発助成金を得るなど、あまり資金をかけずに、少ない患者数でも事業採算性が取れるような工夫をしています。希少疾病用医薬品(オーファン薬)に指定されるには、患者数が5万人未満、難病など治療が難しい病気であること、医療上の必要性が高いこと、他に代替する適切な医薬品や治療方法がないことなどが条件になっています。

菅谷 希少疾病用医薬品(オーファン薬)の開発は、小規模で小回りのきく当社だからこそできる面があります。採算が取れなければ事業が継続できないので、黒字を目指してはいますが、収支がトントンであればいいというのが当社のスタンスです。ただし、薬価が想定より低く設定されることも多く、希少疾病用医薬品だけでは本当の意味で採算が取れていないというのが実情です。インターネットやSNS、ウェブセミナーなどを活用して、医師への情報提供を行うMR(医薬情報担当者)の数を減らし、営業・販売コストを減らす努力をしていますが、実際にはかなり厳しい状態です。
希少疾患病用医薬品指定数
ノーベルファーマ(株)資料より

―希少がんの治療薬の開発が難しい理由は?

三村 例えば、筋ジストロフィーなど、がん以外の希少疾患は、患者さんのQOL生活の質)を改善すれば薬事承認される可能性があります。しかし、がんの場合は、OS全生存期間)かPFS(無憎悪生存期間)が改善しないと承認が難しいため、他の疾患より長期間に渡る観察期間が必要で、ハードルが高い面があるのです。また、希少がんは、まれで患者数が少ないだけに市販後は全例、有害事象の有無や内容を調査する市販後調査が必要になります。がんの治療薬の場合、ほぼ100%有害事象が起こりますので、安全性という意味でリスクもありますし、市販後調査にかなり費用がかかり採算が取りにくい面があります。

Vol.2に続きます(7月27日掲載予定)

(構成/医療ライター・福島安紀)

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