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西日本から、がん治験へのアクセス向上を――関西医科大学附属病院 新薬開発科がつなぐ新たな治療選択肢 関西医科大学附属病院 新薬開発科 教授 清水 俊雄 先生

[公開日] 2026.08.21[最終更新日] 2026.08.21

大学病院に、がん領域の新薬開発(治験)を専門的に行う診療科があることをご存じでしょうか。関西医科大学附属病院 新薬開発科は、日本で初めて大学病院に設置された、がん領域の治験専門の診療科です。同科では、「西日本にいながら最新の治療にアクセスできる環境」の実現を目指し、多職種が連携して患者さんを支えているといいます。今回は、同科を率いる清水俊雄先生に、新薬開発科の取り組み、新薬開発や患者さんへの思いなどについて伺いました。
清水 俊雄先生

清水 俊雄(しみず としお)先生

関西医科大学附属病院 新薬開発科 教授、国際がん新薬開発センター センター長、先進がん研究推進センター センター長。腫瘍内科医として、国立がん研究センター中央病院や米国START Phase 1 Centerなどで早期新薬開発・第1相試験に携わる。国内外の治験の経験を生かし、患者さんが最新の治療選択肢へ迅速かつ安全にアクセスできる体制づくりに取り組んでいる。

がん新薬開発に特化した「新薬開発科」とは?

新薬開発科は、がん領域の新薬開発に特化し、治験の中でも極めて初期段階の「第1相試験(フェーズ1)」を専門的に扱う診療科です。大学病院において、がん新薬開発に特化した診療科の設置は日本初および国内唯一となります。現在は国内および海外の製薬企業から依頼を受け、常時30試験以上のフェーズ1の治験が進行しており、西日本有数の治験数を扱っています。 当科では、主に固形がんの患者さんを対象に、肺がん、乳がん、大腸がん、膵臓がん、泌尿器がん、婦人科がん、頭頚部がんなど幅広いがん種の治験を実施しています。治験に参加される患者さんの約半数は院内の各診療科から、残りの約半数は全国の幅広い医療機関からご紹介いただいています。 取り組みの背景には、日本のがん患者さんが世界で開発される新薬へ、より早くアクセスできる環境を整えたいという思いがあります。近年、日本ではドラッグラグやドラッグロスが課題となっており、海外で開発された新薬の中には、日本で治験に参加する機会を得られないものもあります。治験を通じて、新たな治療の可能性につなげることが当科の重要な役割です。 当科の大きな強みは、治験開始までのスピードです。通常、倫理審査委員会(IRB)の審査をはじめとする各医療機関における治験開始準備は5〜6か月程度を要することが多いですが、当科では1〜2か月程度までに短縮しています。これは大学病院内において、迅速性が求められるフェーズ1の治験開始立ち上げに関して、国際がん新薬開発センターの機能としてIRBや各種契約・複数の院内各部署との調整を迅速化・専門化しているからこそだと考えています。また当科のスタッフは一般診療を行わず、治験業務・治験診療だけに100%専念しており、専任医師に加えて当科(フェーズ1の治験)専任の看護師長と治験薬担当薬剤師がチームの一員として常駐し、迅速に治験を開始できる体制を支えているのです。
新薬開発科の皆さん
新薬開発科のスタッフの皆さん(ご提供写真)

国際連携で支える治験――安全第一の治療のために

2024年に当科が設立された背景には、最先端のがん治験が首都圏(東京)に集中しているという課題がありました。西日本の患者さんが東京まで行かずに新たな治療選択肢へアクセスできる環境を整えるため、関西医科大学と世界有数のがん新薬治験医療機関ネットワークである米国「NEXT Oncology」との国際共同合弁事業により、2026年に「NEXT Oncology KMU JAPAN」を立ち上げたのです。現在は、新薬開発科および国際がん新薬開発センターが治験外来や治験病棟における診療を担い、院内外の連携拠点となることで、世界水準の治験を実施しています。 国内では過去に前例のないこの国際的なネットワークにより、海外での治験情報や、治療経験に基づくノウハウをタイムリーに共有できる点も大きな強みです。例えば、副作用が現れた際には、「米国や欧州の拠点ではどのように対応したのか」といった実際の経験やマネジメント方法を参考にしながら、患者さんの安全を第一に治験を進めることができます。 また当院には、高度機能を有する大学病院として、循環器内科や神経内科、高度救命救急センターなど、さまざまな専門診療科と365日24時間体制で連携できる環境があります。治験では予期せぬ副作用などへの迅速な対応が求められるため、院内の幅広い診療科と連携できることは、患者さんが安心して治験に参加する上で大きな強みとなっています。

早期から治験を選択肢のひとつにしてほしい

患者さんやご家族にぜひ知っていただきたいのが、近年変化した「第1相試験(フェーズ1)」の位置付けです。かつては、すべての標準治療を実施した後の「最後の砦」のようなイメージがあったように感じますが、現在はより早い段階から入ることのできる治験が増えています。 標準治療を何度も重ねると、体力(全身状態)の低下や薬剤耐性の発生といった課題が生じやすくなります。そのため、早い段階から標準治療と並行して「治験という選択肢のカード」を並べて比較検討することは、患者さんにとってメリットが大きいと考えています。当科では、可能な限り早い段階で情報共有を行い、最適な治験マッチングとスムーズな移行を進める治療戦略を、紹介元の先生方とも連携して組み立てています。 私が日頃の診療で大切にしているのは、患者さんに対して「提供できる可能性がある最新の治療選択肢」を、可能な限り幅広く提示することです。実際の治療方針は患者さんの病状や全身状態、ご希望によって変わりますが、「実はこうした新しい選択肢があります」とお伝えすることで、希望を持って納得して治療に向き合っていただけることがあります。そのためにも、紹介元の地域の先生方とも密に情報共有を行いながら、一人ひとりに合った治療の可能性を探すよう努めています。

患者さんの負担を減らし、安心して治験に臨める体制へ

当科を受診される患者さんの約3割は、遠方(大阪府外)からお越しになりますが、そうした患者さんやご家族を支えるため、当院の敷地内には宿泊施設「関医タワーホテル」が併設されています。治療の前日に、大学病院で検査を行った後にホテルにチェックインしてゆっくり体を休め、翌日に治療を受け、ホテルにもう一泊して翌日ゆっくり帰る、といったことも可能です。海外の先進医療機関では普遍的なことですが、このように「患者さんが安心して治療に臨める環境」を病院全体で構築しています。 治験に参加された患者さんとのエピソードで印象に残っているものはたくさんありますが、特に、遠方から当院へ通院された患者さんのことは感慨深く心に残っています。九州の福岡県から当科へ毎週通院されていた若い女性患者さんとそのご家族がいらっしゃいました。その方は、東京の病院でご自身の病状に該当する治験が見つかったものの、福岡県から東京までの通院に伴う体力面や経済面の理由から、一度は治療を断念されていました。しかし、「西日本では、関西医科大学附属病院で治験を行っている」と情報を得られ、無事に希望する治験へアクセスすることができたのです。この地に設立して本当に良かったと、深く実感した瞬間でした。
新薬開発科の治験薬投与の様子
新薬開発科(治験病棟)における治験薬投与の様子(ご提供写真)

「新薬を患者さんへ届けたい」――創薬に魅せられた医師として

私が腫瘍内科医として、がん新薬開発の道を歩むようになった背景には、少し変わったきっかけがあります。 多くの腫瘍内科医は、特定の臓器(肺がん、消化器がん、乳がんなど)を専門とするキャリアからスタートして抗がん剤治療を専門にしていきますが、私の場合は、とにかく「薬(新薬開発)」そのものに強烈な興味があったのです。前臨床試験といわれる動物実験が終わり、初めて人間に新薬を投与する際、どのような基準で安全な投与量を決定し、投与した後はいかに安全に薬の量を増やしていくのか(用量漸増)という、特に早期段階での臨床開発プロセスそのものに強く惹かれました。 幸いにも、ご指導いただいた恩師は、日本および世界の新薬開発をリードされてきた偉大な先生方ばかりでした。第一線で活躍されている師匠たちに若いうちから恵まれ、新薬の開発や治験が行われている現場に身を置くことができました。 海外(米国)でのがん新薬開発に特化した臨床留学を経て、そこから一貫して「新しい薬を開発して、それを世界の患者さんに届ける」というプロセスに携わってきたのです。私のもとで治験に参加された患者さんが、今でも元気に過ごされている姿を見ると、胸が熱くなりますし、医師としてこの上ないやりがいを感じます。

世界とつながり、治療の選択肢を広げたい

近年、がんゲノム医療をはじめとする個別化医療やAIの進歩など新薬を取り巻く環境は大きく変化していますが、最も大きな変化は「薬の種類(モダリティ)」がドラマチックに進化している点だと思います。かつて創薬不可能と言われた領域に対しても、アプローチを変えることで新たな薬の開発につながっているのです。 こうした進化に医療機関やスタッフも追いついていかねばなりません。たとえ製薬企業が最先端の薬を作っても、初期の段階では安全性が完全に確立されているわけではないため、臨床における安全管理の経験値を豊富に持つ医師・医療スタッフを擁する医療機関が必要です。だからこそ、私たちは、患者さん、医師、製薬企業などのステークホルダーが「同じ熱量、同じ目線」で共に進んでいくことを何よりも大切にしています。 現在、日本の治験の多くは日本支社を持つ海外大手メガファーマが占めていますが、画期的な新薬を欧米の小さなバイオテック企業(バイオベンチャー)が開発している例も少なくありません。彼らが優れた薬を開発しても、日本市場に目を向けていないために、治験が日本で実施されないという現状があります。私たちは、NEXT Oncologyのグローバルネットワークを駆使して欧米のバイオベンチャーと直接つながり、日本に直接、治験を誘致すること(インバウンド治験)を次の大きな目標としています。 治験は、治療の可能性を広げるための「有力な選択肢のひとつ」です。患者さんやご家族には、治験相談目的の初診外来やセカンドオピニオンなども活用しながら、ぜひ早めに相談していただき、納得できる治療選択肢を一緒に探していければと思います。 ※本記事は取材時点の情報をもとに作成しています。 関連リンク: 関西医科大学附属病院 新薬開発科 ウェブサイト
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