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安全で精度の高い「ロボット支援手術」を目指して――藤田医科大学病院の歩みと今後の展望 藤田医科大学 医学部 先端ロボット・内視鏡学講座教授 宇山 一朗 先生

[公開日] 2026.07.31[最終更新日] 2026.07.31

がん種や病期によっては、体への負担が少ない低侵襲手術が広く行われるようになりました。その選択肢のひとつとして近年普及しているのが、手術支援ロボットを用いた「ロボット支援手術」です。術者が操作スペースからロボットアームや内視鏡を操作し、手術を行います。 今回は、2009年からロボット支援手術に取り組み、その普及や人材育成にも携わってきた藤田医科大学の宇山一朗先生に、導入から今日までの歩みや、患者さんの利益を最大化するための取り組み、今後の展望などについて伺いました。
宇山一朗先生

宇山 一朗(うやま いちろう)先生

藤田医科大学 医学部 先端ロボット・内視鏡学講座教授。1997年に国内で初めて腹腔鏡による胃全摘出術を実施。2009年にはいち早く手術支援ロボットを導入し、2012年からはダビンチ低侵襲手術トレーニング施設など4施設を総括する、サージカルトレーニングセンター長を兼任。ロボット支援手術の普及や後進の育成にも尽力している。

ロボット支援手術の幕開け――藤田医科大学病院での挑戦

私たちが藤田医科大学病院でロボット支援手術を始めたのは、2009年のことです。実はそれ以前の2000年には、日本でも第1世代の手術支援ロボット(以下、ロボット)を用いた治験が行われましたが、承認には至りませんでした。以降しばらくの間、日本ではロボット支援手術がほとんど行われない「氷河期」のような状態が続いていました。 一方で、お腹に小さな穴を開けて内視鏡等を挿入し、モニター映像を見ながら行う「腹腔鏡手術」は進歩していきました。そのため、日本の外科医の間には「手先が器用な日本人なら腹腔鏡手術で十分であり、ロボットは不要ではないか」という雰囲気があったと感じます。 しかし2008年の夏、私のもとに短期留学し腹腔鏡手術を学んでいた韓国の先生から、第2世代のロボットを導入した記念の公開手術に招待され、私の考えは根底から覆されました。現地で見たロボット支援手術の精度が非常に高く、それまで「日本の腹腔鏡手術の方が進んでいる」と考えていた私にとって大きな衝撃でした。「日本の低侵襲手術が世界から乗り遅れてしまうのではないか」という危機感を覚えたのです。 帰国後すぐに大学側に相談し、当時は薬事未承認だったロボット「da Vinci (ダビンチ)」を医師による個人輸入という形で導入してもらったのが、当院のロボット支援手術のスタートです。最初の10例は当院が全額費用を負担して実施し、少しずつ実績を積んでいきました。その後、胃がんを対象とした臨床研究でロボット支援手術は術後合併症が少ないことが示され、こうしたエビデンスを背景に、2018年には胃がんをはじめとする複数の疾患でロボット支援手術が保険適用となりました。これが大きな転換点となり、日本でもロボット支援手術が普及していったのです。 新しい技術を安全に普及させるためには、指導者を育成しなければなりません。国内では経験豊富な指導者が限られていたため、日本内視鏡外科学会が中心となり、私もロボット支援委員会の委員長を務めてルール作りに奔走しました。専門医資格を持ち、病院全体が手術に慣れていることなどを条件とし、学会主導で指導者を育成するシステムを構築しました。

「サージカルバリュー」を追求する理由

現在、当院には4種類、6台のロボットが導入されており、国産ロボット「hinotori(ヒノトリ)」をさらに改良していくための共同研究も行っています。このように複数機種を運用し、国産ロボットの開発に協力する意義のひとつは、日本の「知的財産」を守り育てることです。ロボット支援手術のログ情報(デジタルデータ)は、外科医の精緻な使い方のノウハウそのものといえます。私には、自国の外科医が持つ技術データを国産ロボットの発展に活かし、日本の医療産業に還元したいという思いがあります。適正な価格で、腹腔鏡手術の欠点を補完するような良質な国産ロボットが育っていくことを願っています。 ただし、優れたロボットがあれば、それだけで患者さんにとってより良い手術が実現するわけではありません。私がロボット支援手術で重視しているのは、「サージカルバリュー(手術の価値)」という考え方です。これは「患者さんの利益 ÷ コスト」で評価されます。開腹手術から腹腔鏡手術への移行は「傷が小さくなる」という明確なメリットがあったため、治療成績が同等であれば、その価値は十分だといえます。 しかし、ロボット支援手術はさらにコストがかかるため、腹腔鏡手術と同等の結果では意味がないと考えています。高いコストを凌駕するだけの患者さんの利益、すなわち「入院期間の短縮」「痛みの軽減」「生存率の向上」「合併症の減少」などを出さなければならないのです。漫然とロボットを使って手術するのではなく、従来の腹腔鏡手術では難しい角度で操作できる関節機能や、手ぶれ防止といったロボットの長所を最大限に引き出し、腹腔鏡手術を明確に上回る結果を出すこと。そのための技術を身につけ、伝承していくことこそが重要だと考えています。
ロボット支援手術の様子
ロボット支援手術の様子(ご提供写真)

アウトサイダーから出発し、ロボット支援手術に取り組むまで

こうした考え方の背景には、私自身の外科医としての歩みがあります。岐阜大学医学部へ進学した当初は内科に興味がありましたが、実習で外科の面白さに惹かれ、卒業後は姉が東京にいたこともあって慶應大学の外科の医局に入りました。ただ、岐阜大学出身の「アウトサイダー」として、心臓外科のような大規模な設備が必要な分野で、周囲と競争していくのは自分には難しいと考えました。一方、消化器外科であれば、特別な設備がなくても術者の技術によって高度な手術を実践できそうだと感じて、消化器外科を選んだのです。 その後、出向先の練馬総合病院で腹腔鏡手術に携わるようになり、36歳で藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)へ赴任しました。当初は大学での研究や教育に戸惑いもありましたが、上司の勧めと充実した設備環境のもとで腹腔鏡手術に本格的に取り組み、「患者さんにとって本当に良い手術だ」と実感するようになりました。そして、お話ししたような韓国での手術を目の当たりにし、日本が世界に遅れかねないという危機感を抱いたことが、現在までロボット支援手術に取り組み続ける原動力となっています。

ロボット医療の進化を患者さんの利益につなげるために

臨床現場で患者さんに説明する際、私は「ロボットという言葉は分かりやすいキャッチフレーズのようなものであり、自動運転で動くわけではない」とお伝えしています。実際には、外科医が操作しなければ1ミリも動かない「手術の道具」なのです。そのうえで当院が目指してきたのは、ロボットの特性を生かし、より安全で精度の高い手術を患者さんに届けることです。 現在は制度整備が進み、ご遺体(カダバー)を用いた実践的なトレーニングが可能になりました。当院にもカダバートレーニングセンターがあり、ロボットを用いた実践的な教育を行っています。また、リモートコントロールを活かした遠隔指導や、臓器の誤認予防や術後検証ができるAIの導入も進みつつあります。こうした教育環境やデジタル技術を生かし、当院ではロボットの性能を十分に引き出せる外科医の育成にも取り組んでいます。 一方で、どれほど技術や医師の育成が進んでも、その恩恵を十分に受けるためには医療機関での適切な診断が欠かせません。がん治療を受ける患者さんやご家族にお伝えしたいのは、「専門病院できちんとした診断を受けることがもっとも重要」ということです。焦らずにしっかりと医療機関を選んでほしいと思います。セカンドオピニオンを受けることも大切ですが、自分が言ってほしい言葉を伝えてくれる医師が見つかるまで病院を転々とするような、いわゆる「ドクターショッピング」はお勧めしません。2カ所程度にとどめるのがよいでしょう。まずは信頼できる主治医と出会い、正しい診断のもとで最善の治療法を一緒に考えていってほしいと思います。 ※本記事は取材時点の情報をもとに作成しています。 関連リンク: 藤田医科大学病院 ロボット支援手術の取り組み ウェブサイト
特集 ダビンチヒノトリロボット支援手術

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