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土曜日だけで完結する放射線治療へ――東北大学病院 放射線治療科が目指す、地域医療格差の解消 東北大学病院 放射線治療科 科長 神宮 啓一 先生

[公開日] 2026.07.24[最終更新日] 2026.07.24

土曜日に数回通院するだけで、放射線治療を終えられる――。そんな新たな治療の形を実現しているのが、東北大学病院 放射線治療科の「Weekend Radiotherapy(土曜日のみの放射線治療)」です。「MRリニアック」という放射線治療装置やAIを活用し、治療の質を高めながら地域医療格差の解消も目指す同科。 今回は放射線治療科長の神宮啓一先生に、こうした取り組みが生まれた背景や、地域医療の未来を見据えた挑戦、今後の展望などについて伺いました。
神宮 啓一(じんぐう けいいち)先生

神宮 啓一(じんぐう けいいち)先生

東北大学病院放射線治療科 科長・がんセンター長、東北大学大学院医学系研究科 放射線腫瘍学分野 教授。2002年に東北大学を卒業後、同大学の放射線治療科に入局し、2012年に教授に就任。臨床とともに研究にも従事し、日本放射線腫瘍学会理事等の要職も務める。

「断らない」「患者さんを診る」――放射線腫瘍医としての覚悟

私が医師になった頃に比べ、放射線治療は飛躍的に高精度化が進みました。ここ20〜25年で狙った場所にだけ集中的に放射線を当てることができるようになり、がん種や病期によっては、放射線治療あるいは抗がん剤と放射線治療の組み合わせだけで寛解を目指せる患者さんが増えてきたと感じています。特に近年は高齢化が進み、様々な合併症により手術が難しい患者さんにとって、放射線治療は重要な治療選択肢となっています。 そうした中、当院の放射線治療科では、高精度な放射線治療をより多くの患者さんに提供できる診療体制を整えてきました。当科の基本スタンスとして大切にしているのが「断らない」ことです。各診療科の先生方が様々な治療法を検討した上で紹介してくださっていることを理解し、よほどのことがない限りはお断りせずに治療に対応するようにしています。 当科では放射線治療が終わった後も、患者さんの経過を診ていく方針をとっており、放射線治療と一緒に抗がん剤治療が必要な方や全身状態の管理が必要な方にも対応しています。こうした体制の根底には、「我々は単なる"放射線かけ屋"ではなく、放射線腫瘍医である」という強い意識があります。これは私の前任の教授の時代から受け継がれている教えです。全国的に放射線治療のニーズが高まる一方で、限られた人員の中で病棟管理や治療後まで経過を診ていくことの難しさは理解しつつも、当科としては患者さんに寄り添い続ける方針を維持していきたいと考えています。 診療科を率いる立場として常に心がけ、部下にも伝えていることは「困って病院に来られている患者さんに、できるだけ親身になり、柔らかく優しく接する」姿勢です。医療者として当たり前のことかもしれませんが、患者さんの心の負担を少しでも和らげ、安心して治療を受けていただけるよう努めています。

地域医療格差を埋める一手「Weekend Radiotherapy」の誕生

当院は、地域医療に貢献することをミッションのひとつに掲げています。なかでも私が強く問題意識を持ってきたのが、地域によって受けられる放射線治療に差が生じていることです。私たちも宮城県内や近隣県の基幹病院に常勤医を配置したり、非常勤医師の派遣などの支援を行っていたりしますが、地方では、仙台のような都市部との医療格差が広がっているという課題を痛感してきました。患者数が少なく常勤医を配置できなかったり、経営状況によっては新しい医療機器を導入できなかったりする現状があるのです。 こうした状況をどうにか改善できないかと考えていた折に、当院に「MRリニアック」という新しい放射線治療装置が導入されました。この装置を使えば、治療期間を短縮することができます。前立腺がんの患者さんでも「週1回、合計2回の通院で済むなら、遠方に住む高齢の患者さんでもご家族と一緒に来やすいのではないか」「土曜日であれば、仕事をしている方も受診しやすいのではないか」と考え、2025年1月より国内初となる土曜日のみの放射線治療「Weekend Radiotherapy」をスタートさせました。
MRリニアック
MRリニアック(ご提供写真)

AIの導入で待たせない治療へ――先進的な当日設計

Weekend Radiotherapyの反響は大きく、患者さんやご家族に大変喜ばれていると感じています。これまで前立腺がんに対する放射線治療では、患者さんの状態によっては約1か月にわたり、平日はほぼ毎日通院する必要がありました。それが基本的に土曜日の2回で終わるため、高齢の患者さんだけでなく、ご家族や働いている世代の方からも反響をいただいています。多くのお問い合わせをいただき、開始から約1年半で112名の方に治療を提供することができました。 Weekend Radiotherapyを希望される場合は、ご自身の病態を正確に把握するためにも主治医の先生からの紹介状が必須となります。まずは紹介状をご持参のうえで一度ご来院いただき、治療が可能かどうかの判断やスケジュールの調整を行います。現在では前立腺がんだけでなく、条件に合う方であれば腎臓がんや肝臓がん、肺がんなどに対しても、土曜日のみの放射線治療を行うことがあり、条件がそろえば1回で完了する治療にも対応しています。 このように患者さんにとって多くのメリットがある一方で、MRリニアックを用いた治療には「1回の治療に時間がかかる」という課題があると考えています。これまでの放射線治療は、治療の設計のために事前に来院していただく必要がありました。しかしMRリニアックでは、治療当日にMRIを撮り、リアルタイムで設計して照射することができます。事前の来院が不要になるという画期的なアプローチですが、当日その場で骨や病変、消化管、膀胱などをコンピューターに認識させるため、腫瘍や臓器の輪郭を描く手作業にどうしても時間がかかってしまうのです。 患者さんを長くお待たせすると、その間に体が動いてしまったり、尿が溜まったりすることで照射すべき対象がずれてしまうリスクがあります。許容できないずれが生じた場合はそれまでの作業を再度行うことにもなり、さらに時間がかかるということもあります。そこで私たちは、患者さんの待機時間を少しでも短くするために、AI(人工知能)のソフトを導入しました。輪郭の描出をAIにサポートしてもらい、最終的に私たち放射線腫瘍医が確認・指定することで、手作業の時間を短縮し、スピードの向上と精度を両立させるための取り組みを現在進めているところです。

日進月歩の放射線治療を支える多職種連携体制

当科では、最新の放射線治療装置をできるだけ早く導入し、患者さんの生命予後の改善にどうつなげられるかという研究にも力を入れてきました。総合病院としての強みを活かし、放射線治療と抗がん剤治療の組み合わせについても様々な検討を重ねています。新しい治療法を研究し、その成果を患者さんへ還元することも大学病院の重要な役割だと考えています。 放射線治療分野の発展はまさに「日進月歩」です。5年前、10年前には考えられなかったような治療法が医療機器の発展とともに実用化され、その成果を患者さんに提供できるようになっていると感じます。しかし、新たな治療法や体制の導入は、医師の力だけでは成し遂げられません。土曜日のみの放射線治療も、MRリニアックがあるからできたわけではなく、看護師、放射線技師、医学物理士、そして事務や会計など、病院全体の協力体制があって実現しました。 当科では、他の診療科と毎日のようにカンファレンスを開き、治療方針について密に話し合っています。また、診療科内でも月に1回、全職種が顔を合わせるカンファレンスを実施し、インシデントを共有し、その改善策や治療精度を上げるための課題を話し合っています。 これまで治療が難しかったような患者さんが、かつてない回復を見せる姿を目の当たりにできることが、放射線治療に携わるやりがいにつながっています。
放射線治療の現場で
放射線治療の現場で(ご提供写真)

高度医療の提供と医療格差の解消を目指す「二刀流」の挑戦

今後、日本では高齢化の進行に伴い、放射線治療を必要とする患者さんがさらに増えていくことが見込まれています。そうした中で、患者さんをできるだけ待たせることなく治療につなげるためにも、AI等を活用した効率化はますます重要になるでしょう。一方で、私が最も危惧しているのは、地域によって受けられる放射線治療の格差がさらに広がることです。地域の実情を踏まえながら、行政や大学病院が連携し、医療格差をどう解消していくかを真剣に考えていかなければなりません。 私たちはこれからも新しい医療機器や治療法を積極的に導入し、その成果を地域の患者さんへ届けることで、医療格差の解消に少しでも貢献したいと考えています。最新の治療法を開発することと、地域医療を守るというミッション。この「二刀流」を掲げ、今後も患者さんの負担が少ない治療を目指していきます。 放射線治療を受けるか迷われている場合は、ご自身の病状や治療法について、主治医の先生だけでなく放射線腫瘍医にもよく相談してみてください。ご自身でも医療情報サイトなどで勉強し、セカンドオピニオンなども活用しながら、納得した上で治療に臨むことが大切です。 ※本記事は取材時点の情報をもとに作成しています。 関連リンク: 東北大学病院 放射線治療科 ウェブサイト
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