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病気だけでなく、患者さんの人生を診る――順天堂医院 乳腺センターが目指す「患者中心の医療」 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センター センター長 九冨 五郎 先生

[公開日] 2026.07.17[最終更新日] 2026.07.17

近年、乳がん治療は大きく進歩し、治療の選択肢も広がっています。そうしたなか、順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センターでは、多職種が連携しながら、患者さん一人ひとりの価値観や生活背景に寄り添う「患者中心の医療」を重視しているといいます。 今回は、センター長の九冨五郎先生に、乳腺センター設立の背景やチーム医療の取り組み、診療にかける思いなどについてお話を伺いました。
九冨 五郎(くとみ ごろう)先生

九冨 五郎(くとみ ごろう)先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センター長、主任教授。1998年に札幌医科大学を卒業後、癌研究会研究所附属病院(現・がん研究会有明病院)や札幌医科大学等を経て現職。手術から薬物療法まで乳腺外科診療に広く携わる。日本乳癌学会評議員・指導医のほか、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会評議員など多数の要職を務め、乳がん治療の推進に尽力している。

診断から治療までを支える「患者中心の医療」

大学病院では国内初の「乳腺センター」が当院に開設されたのは、2006年のことです。増加する乳がんの患者さんに対し、診断から治療、治療後のフォローアップまでを一貫して提供できる専門施設として誕生しました。以来、乳腺科、形成外科、放射線科、病理診断科などが綿密に連携する体制を整備してきました。現在では、高度専門医療を提供する拠点として、乳がんの検査から手術、薬物療法、乳房再建、遺伝診療、緩和ケアまでを包括的に担っています。 私たちが最も大切にしているのは、「患者中心の医療」です。乳がんは、サブタイプ(がん細胞の性質による分類)によって性質が大きく変わり、治療には多数の選択肢があります。患者さんの年齢や生活環境、価値観などによって最適な治療は一人ひとり異なりますので、医学的な根拠を示しながらも患者さんと十分に対話し、一緒に治療方針を決定することを重視しています。患者さんの思いや希望をくみ取り、納得して治療に向き合っていただけるよう丁寧な対話を心がけています。
診察の様子
診察の様子(ご提供写真)

診療科・職種間の垣根の低さが支えるチーム医療

患者さん一人ひとりに最適な医療を提供するために不可欠なのが、多職種によるチーム医療の実践です。これは、当センターの最大の強みでもあります。乳腺外科医とともに、形成外科や腫瘍内科、放射線科、病理診断科の医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、事務スタッフといった様々な職種が定期的にカンファレンスを行い、最適な治療を検討しています。この緊密な連携を支えているのが、当院に元々根付いている診療科や職種間の「垣根の低さ」です。医師だけでは気づきにくい視点も含めて、異なる専門職が意見を出し合うことで、より質の高い医療につながっていくと考えています。 当センターでは「看護師がメインで進行するカンファレンス」も実施しています。これは設立当初から始まっている取り組みで、これまでに200回以上開催してきました。通常のカンファレンスはどうしても医師中心で進行しがちですが、看護師が主導することで、実際に患者さんやご家族が病気や治療をどう受け止めているのかといった、より深い「思い」を把握できるのです。医師にとって、こうした看護師の気づきは診療を進める上で非常に重要であり、チーム全体で患者さんを支えるために欠かせない取り組みだと感じています。 なお、受診される患者さんの大半は、クリニックや検診施設からのご紹介です。当センターでは診断や手術などの治療を中心に行い、その後の経過観察は元々通われていた施設と連携して進めるケースが多くなっています。このように、地域の医療機関と協力して患者さんを支える「病診連携」の体制もしっかりと機能しています。

進歩する乳がん診療――個別化医療と超高齢社会への対応

当センター開設以降の約20年間で、乳がん診療や患者さんを取り巻く環境は大きく変化しました。2000年以降は乳房温存手術がさらに普及し、現在では乳房再建も広く行われるようになりました。全摘をしても再建できる選択肢が増えたことは、患者さんの治療後の生活の質(QOL)向上に大きく貢献していると考えています。 薬物療法においても進歩がありました。昔は細胞障害性の抗がん剤がメインでしたが、分子標的治療薬や抗体薬物複合体(ADC)など様々な治療薬が登場したことで、進行・再発乳がんの治療も大きく向上してきています。さらに個別化医療が進んだことで、患者さんごとに異なるがんの特性に応じた治療が可能になりつつあります。以前は治療が難しかった症例でも長期にわたり病勢をコントロールできるケースが増えており、乳がん診療の大きな変化を実感しています。 また、高齢化の進行に伴い、高齢の乳がん患者さんも増加しています。高齢の患者さんの多くは、乳がん以外にも複数の持病(併存症)を抱えているため、私たちは乳がんだけを診るのではなく、患者さん全体を診ることを重視しています。これは高齢の患者さんに限ったことではありませんが、患者さん一人ひとりの健康状態や生活背景を踏まえながら医療を提供することが大切だと考えています。高齢の患者さんは複数の医療機関を受診していることも多いため、その負担を軽減し、1つの施設で包括的な医療を受けられる「ワンストップ体制」の構築が今後ますます重要になってくるでしょう。

情報過多の時代に求められる支援と、未来の医療への挑戦

当センターでは、抗がん剤治療時の脱毛を軽減させる機械の導入や、形成外科による乳房再建の専門外来、遺伝専門外来の定期的な実施など、特色ある設備や診療体制を整えています。今後は、診断部門などへのAI技術の積極的な導入や、ゲノム医療の推進を通じ、さらなる個別化医療を目指していきます。そして、日々の研究成果を診療に迅速に還元できる「アカデミックセンター」としての役割も強化していきたいと考えています。
外来待合室(ご提供写真)
外来待合室(ご提供写真)
また、私たちは新たな治療開発につながる臨床試験(治験)にも数多く取り組んでいます。私は患者さんに治験をご提案する際、参加するメリットを正しくお伝えするよう努めています。治験に参加すれば、将来の標準治療候補となる新たな治療を受けられる可能性がありますが、期待できる効果だけでなく、未知のリスクについても十分に説明し、ご自身の意思で判断していただくことを大切にしているのです。 インターネットやAIの普及により、患者さんが膨大な医療情報に簡単にアクセスできる時代になりました。患者さんご自身もよく勉強されていると感じますが、根拠に乏しい情報も溢れ返っているのが現状です。AIが提示する情報も、必ずしも全てが正しいわけではありません。そうした情報に振り回されたり惑わされたりしないよう、「ネット上の情報を信用しすぎないように」と事前にお伝えするようにしています。情報過多の時代において、正しい情報提供と丁寧な意思決定の支援は、我々医療者に求められる重要な役割だと考えています。

患者さんと歩む乳がん診療

乳がん診療の魅力は、患者さんの人生に長く寄り添えることだと感じています。私が乳腺外科の道に進んだ背景には、20数年前、癌研究会研究所附属病院(現・がん研究会有明病院)の乳腺外科で勉強した経験があります。乳がんの診療には手術だけでなく、薬物療法、放射線治療、乳房再建、遺伝診療、病理診断と、非常に幅広い分野が関わっていることに感銘を受けました。そして、患者さんの人生に長期にわたって寄り添う医療ができることに魅力を感じ、この分野を選択したのです。 我々乳腺外科医は基本的には外科医ですが、手術だけではなく外来対応など内科的な要素が強いという特徴があります。昔の医療現場では「ムンテラ(Mund Therapie)」という言葉が使われていました。ドイツ語由来の言葉で、直訳すると「口による治療」を意味します。現在では、患者さんへの十分な説明と対話を通じて意思決定を支援するインフォームド・コンセントの考え方が重視されていますが、自分たちの言葉で患者さんを勇気づけたり、不安を和らげたりできることも、乳腺外科医の大切な役割だと考えています。 乳がんと診断されると、最初は多くの方が不安を抱えるでしょう。しかし、治療は大きく進歩しており、社会生活を送りながら元気に過ごされている方もたくさんいらっしゃると感じます。当センターはこれからも「患者中心の医療」を大切に、皆様の安心と希望につながる医療をお届けしたいと考えています。どうか一人で悩まず、私たち医療スタッフに相談してください。患者さんとご家族に寄り添いながら、最善の医療を提供できるよう努めていきます。 ※本記事は取材時点の情報をもとに作成しています。 関連リンク: 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センター ウェブサイト
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