がん治療の専門医が「がんと診断されたら最初に読む本」を発刊


  • [公開日]2024.04.05
  • [最終更新日]2024.04.05

がん情報サイト「オンコロ」の開設時より、メディカル・サポーターとして、様々なプログラムにも協力頂いてきた勝俣医師。2024年2月、自身4冊目となる書籍『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』が発刊された。今回は、同書籍を発刊した背景とその内容について聞いた。

インタビュイー
勝俣 範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室 室長)
インタビュアー
柳澤 昭浩
ライター
西塚 真帆

がん薬物療法を専門に30年

柳澤:まず初めに自己紹介をお願いします。

勝俣 範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室 室長)

勝俣先生:現在、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室 室長を務めております。がん診療に30年以上携わっていますが、ここ10年でがん治療は大きく変化したと感じています。しかし、まだ一般の方々には、がん治療の変化が認識されていないと思い、今回、一般の方向けの書籍を発刊しました。

柳澤:ちょうど、薬の大きな変化があった時期に先生はがん診療に携わり始めたんですね。

勝俣先生:30年以上前というと、ほとんど化学療法(お薬)が効かない時代でした。当時は、薬物療法を専門に、主に、婦人科がんや乳がんの治療を行っていました。

がんと診断される前の皆さんにも読んでもらいたい書籍

柳澤:今回『がんと診断されたら最初に読む本 あなたと家族を守る』を発刊した背景を教えてください。

勝俣先生:今回の新刊が4冊目になります。『「抗がん剤は効かない」の罪』、『医療否定本の嘘』は、当時、抗がん剤は効果がないと流布されていて、その誤解を解くためにエビデンス重視で書きました。『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』は、大須賀覚先生と津川友介先生と共同執筆で書きました。がんに対する疫学の問題や予防についても詳しく書いていただきました。

これまでの3冊は一般書ではなく、専門家でも役立つようなハイレベルな内容だったので、今回発刊した『がんと診断されたら最初に読む本 あなたと家族を守る』は、がんになったらぜひ読んでほしい、手に取ってほしいとの思いで、一般の方向けに執筆しました。

対話形式で、字も比較的大きく、小見出しも多く、読みやすい内容になっています。これを読んでおけば間違いないという内容になっています。

柳澤:がんと診断されて、治療に入る前や重大な決定をする前に、手に取ってほしいという背景で書かれたんですね。

勝俣先生:がん患者さんではない方に読んでいただいても良いと思います。がんになると、多くの方は焦って、大切なことを忘れてしまい、間違った方向に行ってしまうことがあります。そうならないためにも、がんになる前にぜひ読んでほしいと思っています。

がんの診断で確認する大事な3つのこと

柳澤:ここからは、勝俣先生の書籍にある5つの大きなテーマについて伺います。まずは、がんの診断で確認する大事な3つのことについて教えていただけますか?また、なぜそれが大事なのかも教えてください。

勝俣先生:1つ目は、どこにどんな種類のがんができたか確認することです。がんにも色々な種類があるので、主治医に確認してほしいです。

2つ目は、ステージ。ステージによって治療も全く異なるので、しっかりと確認してほしいです。

そして、3つ目は、治療法は何か。手術や放射線、抗がん剤、緩和ケアなど、治療法はさまざまなので、こちらもきちんと確認してほしいです。

これら3つは、とても大事なことなので、1人で聞くのではなく、家族や友人など信頼できる人と一緒に聞いてください。

そして、録音しても良いか主治医に聞いて、録音しましょう。日本では、医師の話を録音させてもらうということは一般的ではありませんが、海外では当たり前のように行われています。信頼できる医師であれば、録音を拒否することはありません。医師の話を録音するということは大事なことで、広めていきたいと思っています。

柳澤:どこのがんなのか、進行度や治療法は何なのかをきちんと確認し、録音やメモなどで記録に残すということですね。

納得して治療を受けるということ

柳澤:次に、患者さん本人が納得する治療を受けるために大事なことは何ですか。

勝俣先生:がん治療には、さまざまな選択肢があります。現在では、新しい標準治療法も増えてきています。さまざまな選択肢の中から治療法を選ぶのは難しいことです。納得して治療を受けるためには、医師の話をしっかりと聞いて、シェアード・ディシジョン・メイキングをしていくことをおすすめします。

柳澤:以前は、また今でもインフォームド・コンセントと言われていますが、シェアード・ディシジョン・メイキングとはどういう意味ですか。

勝俣先生:シェアード・ディシジョン・メイキングとは、簡単に言うと、医師と一緒に治療方針を考えるということです。つい最近までは、医師が治療の選択肢を提示して、患者さんが治療法を選ぶことが普通でした。

しかし、さまざまな選択肢がある中で患者さん自身が治療法を決めることはとても難しいことです。そのため、医師が治療法を提案し、患者さんとコミュニケーションを取りながら、治療法を決定していくという、シェアード・ディシジョン・メイキングが望ましいと思っています。

また、さまざまな選択肢がある中で、患者さんはなかなか良い治療を選択できないかもしれません。その際に、一番良い治療法が見つける方法は「先生のご家族だったらどうしますか。」と医師に聞いてみるのがよいと思います。この質問をすることで、医師の本音を引き出すことができます。

標準治療≠並みの治療

柳澤:現在、標準治療という言葉は正しく理解されていないかもしれません。今、一度、標準治療について教えてください。

勝俣先生:標準治療が何か理解していない方もまだ多くいると思います。患者さんに、もっとスペシャルな治療はないのかと聞かれることがありますが、標準治療が一番スペシャルな治療です。がん治療には、標準治療以外に、自由診療、民間療法、代替療法などの治療法もありますが、保険適用である標準治療が最善で一流の治療法です。臨床試験の成果が標準治療です。

柳澤:標準治療は、さまざまな厳しい臨床試験や治験の結果に基づく最善の治療法であるということですね。

勝俣先生:標準治療は、長い年月をかけて、多くの研究者と命を懸けて臨床試験に参加してくださった患者さんの賜物です。その成果によって標準治療とされた治療は、とても大切な治療だと思います。

手術・放射線治療・薬物療法とならぶ第4の治療「緩和ケア」

柳澤:がん診断直後から同時進行の緩和ケアが大事だということですが、緩和ケアとはどういう意味ですか。

勝俣先生:緩和ケアは、がん治療にとっては欠かせない大事な治療法の1つだと世界的には認識されています。しかし、日本では、緩和ケアと聞くと、最後の治療だという認識がありますが、緩和ケアは第4の治療と言ってもいいくらい、とても大事です。手術・放射線・抗がん剤と同時進行することで、患者さんの生活の質QOL)が高まります。

実際に、一部の臨床試験では、生存率が向上したという報告もありました。緩和ケアをきちんと行うことで、生活の質(QOL)も生存率も向上するので、患者さんには大きなメリットがあります。

柳澤:一般的に、緩和ケアと聞くと具体的な方法が想像しにくいかと思いますが、具体的にはどのようなものがありますか。

勝俣先生:具体的に言うと、がんによる体や心の辛さに対するケアを指します。緩和ケアで1番大事な点は、患者さんの生活の質(QOL)を高めることだと思います。緩和ケアは医療者だけが行うのでなく、患者さん自身もQOLを高めることができます。生活の質(QOL)が向上することであれば、何をしても良いです。例えば、おいしいものを食べる、音楽を聴くなど、患者さんが好きなことをすることが大切です。緩和ケアは、緩和ケア医だけがやるものではなく、患者さん本人、家族、友人、誰でも出来ることでもあります。

柳澤:音楽が好きな患者さんだったら、今度ライブに行こうよと誘うことが、緩和ケアに繋がったりもするんですね。

高額化するがん治療、知っておくべき公的社会保障制度

柳澤:がん治療では、経済的な心配をする方も少なくありません。お金の補助や社会的なサポートがあれば良いと思いますが、「治療費と仕事のお得な公的制度とサービス」というテーマを取り上げた理由を教えてください。

勝俣先生:公的制度とサービスについて、世の中に知られていないことが多いので書きました。公的制度の中で1番知られていない制度は、障害年金です。

傷病手当金は、企業に勤めている方であれば、受給している場合が多いのですが、障害年金は、実際に受給している患者さんも少なく、あまり知られておらず、医師やソーシャルワーカーでも知らない方が多いです。障害年金は、重い病気があって、生活に支障がある方であれば、どなたでも受給できます。

例えば、抗がん剤の副作用や手術の後遺症で生活に支障が出た場合に受給できます。受給するためには、医師の診断書が必要で、がん治療で生活に支障が出た場合は、ぜひ利用してほしい制度です。

最近のがん治療は高額で、近年登場した分子標的薬を使うことで生存率が改善した結果、何年も分子標的薬を使って治療をしている患者さんも増えてきましたが、そのような中、お金の問題で継続できない患者さんおられます。障害年金の受給対象であれば、ぜひ申請してほしいと思います。

柳澤:勝俣先生は以前から、障害年金の重要性をご指摘されているので、受給対象の患者さんには、ぜひ申請してもらいたいですね。また、患者さんだけでなく、医療従事者への啓発も重要ですね。

がんになっても慌てない、焦らない、あきらめない

柳澤:今回、この取材でお伺いしたことが、もっと詳しく新刊には掲載されているんですよね。最後に、先生から読者へメッセージをお願いします。

勝俣先生:がんと聞くと、怖いと感じますが、新刊のサブタイトルである「がんになっても慌てない、焦らない、あきらめない」ことが大事です。そして、『がんと診断されたら最初に読む本 あなたと家族を守る』を見ていただいて、医師とコミュニケーションを取りながら、適切な治療を受けてほしいと願っています。

あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本

勝俣先生が、「がんになっても慌てない、焦らない、あきらめない」ために、がんと診断されたら、まず初めに読んでほしいと思い執筆した4冊目の書籍『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』です。

がんの診断で確認する大事な3つのことや、納得する治療を受けるために重要なこと、医師やスタッフとのコミュニケーションの取り方、公的社会保障制度についてなど、がんと診断された患者さんが知りたいことが、丁寧に分かりやすく書かれています。

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