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娘の白血病を描いたプロデューサーと妻を白血病で亡くした俳優が語る、映画に込めた想い〜映画で伝える「今、生きていることに。全て意味がある」〜

[公開日] 2023.02.22[最終更新日] 2023.02.22

目次

少女が白血病になった二つの家族の物語が交差するドラマチックなエンターテインメント映画「いちばん逢いたいひと」が2月24日に公開されます。 主演は、昨年の小児がん・AYA世代のがん啓発のためのチャリティーライブ:Remember Girl’s Power !! (オンコロライブ)に出演していただいたAKB48の倉野尾成美さんです。 今回は映画公開を記念して、10年ほど前、自身の娘が白血病になり、家族で乗り越えた経験を持つプロデューサーの堀ともこさんと、奥様が3年前に白血病で亡くなった主人公の父を演じる大森ヒロシさんへ、映画についてや、ご家族が白血病になった当時の状況や気持ちなどをお伺いしました。

娘の白血病を描いたプロデューサーと妻を白血病で亡くした俳優

鳥井:まず初めにお二人の自己紹介をお願いします。 (左)俳優 大森 ヒロシさん(右)プロデューサー 堀 ともこさん 堀さん:10年ほど前に、娘が白血病になりました。ドナーが見つかり、今は元気に過ごしていますが、「白血病と骨髄移植」、「ドナー登録」について理解を深めて欲しいと思い、今回、映画「いちばん逢いたいひと」のプロデュースを行いました。 大森さん:僕は、普段は舞台を中心に活動しています。喜劇をやっており、僕の芝居を観に来てくださる方の中には、がん患者さんやサバイバーの方もいます。おもしろい芝居を作り続けることが、僕の使命の一つではないかと思っています。 僕自身も、妻が白血病で3年ほど前に亡くなっています。生きたくても生きられない人がいることを、世の中に伝えていきたいです。この映画にしろ、芝居にしろ、観た方が少しでも元気になって、明日も頑張って生きてみようと思える作品を作り続けていきたいです。

人に元気を与えられるようなものを作りたい

鳥井:今回、映画「いちばん逢いたいひと」をプロデュースするきっかけをお伺いできたらと思います。 堀さん:娘の病気が発覚した時、なぜうちの娘が白血病になってしまったのかと、その事実をずっと認められず、日々過ごしていました。 娘の入院中、クリスマスの時に、ジャイアンツの選手が慰問に訪れてくださり、子供たちにプレゼントを持ってきてくれました。その年は、上原浩治選手がメジャーリーグに挑戦した年で、ちょうど帰国していた時期でした。娘はその時、抗がん剤の治療中で、体調が悪く寝たきりの状態だったので、そのパーティーには参加できませんでした。しかし、パーティーが終わってから、上原選手が娘の元へプレゼントを届けに来て、娘に直接話しかけてくださいました。娘はいまだに当時のことを覚えています。娘は野球に全然興味はなかったけど、上原選手に生きる希望をもらえたのだと思います。 私は、お医者さんは医療で病気を治すけど、スターは人の心を元気にするのだと感じました。そのことがきっかけで、スターと一緒に人に元気を与えられるようなものを作って、みんなに元気を与えたいと思い、映画を作ることを決意しました。 それともう1つエピソードがあって、娘が骨髄移植を受ける時に無菌室に移動になったのですが、隣の無菌室に2歳上の女の子が入院していました。その子は元気になったら嵐のコンサートに行くから、そのために絶対頑張ると言っていました。ただ、その子はドナーが見つからなくて、結局亡くなってしまったのですが、自分の大好きなスターが、どれだけ自分の支えになっているのかっていうのを目の当たりにした瞬間でした。 プロデューサー 堀 ともこさん 鳥井:私も、実際にがん体験者と話していると、この日にライブ行きたいから早く退院できるように頑張ろうという話を聞くことがあります。治療することはもちろん大事ですが、治療以外に、とくにエンターテイメントは人々に力を与えるなと感じました。

生きたくても生きられない人が多くいる現実

鳥井:映画「いちばん逢いたいひと」のメッセージのひとつである「生きたくても生きられない人がいる」は、どこから来たのですか? 堀さん:私の娘は、ドナーが見つかって今も元気にしていますけど、ドナーを待っている人はたくさんいます。映画の中でも描写したように、娘と同じ病院でも、ドナーが見つからなくて亡くなっていく人をたくさん見て、生きたくても生きられない人がたくさんいることを知りました。 骨髄移植を受けたからといって必ず助かるわけではないけど、骨髄移植を受けなければ助からない命がたくさんあります。そのためにも、ドナー登録を1人でも多くの人にしてもらいたいなと思っています。1人が登録したら、1人が助かるかもしれないんです。 (左)プロデューサー 堀 ともこさん(右)俳優 大森 ヒロシさん 鳥井:残念ながら助からなかった方も、たくさん見てきたからこその、その思いに繋がったんですね。続いて、大森さんにお伺いしたいのですが、娘が白血病になってしまった父親の気持ちはどうやって作って役に入りましたか? 大森さん:今回、白血病の娘の父親という役でしたが、なるべく暗くならないように心掛けていました。 本人が辛そうにしている時って、なんて声をかけてあげたら良いかわからないけど、そばにいて見守ることが一番大事だと、自分の体験を経て思いました。 奥さんが入院していた時は無菌室に入っていて、あまり体調がよくなかったんですが、毎日面会に行っていました。一番辛いのは本人なので、周りが辛い顔していちゃいけないと思ったので、明るい雰囲気にするために、冗談を言ったり、娘の話をしたりしていました。 家族はそうやって支えていくものだと思っています。 鳥井:何気ない日常っていうのは大事ですよね。入院中の人、治療中の人でも、日常を感じてもらうのは重要なことだと思います。 大森さん:無菌室に入ると、外出できないし、持ち込むものもすべて消毒しなければなりません。 飴一つ食べたくても消毒しなければならないので、大変でしたが、日常を感じてもらうようにしていました。 毎日、病室にいて、点滴をずっと繋いだままで、検査して、という繰り返しの毎日だったので、本人は辛かったと思います。

顔を見て話すことが力を与える

鳥井:奥様を亡くされた後で振り返ることは何かありましたか? 大森さん:それはしょっちゅうありますね。こうすればよかった、ああすればよかったと思うことはあります。3回忌が終わっているのですが、いまだに思うことはたくさんあります。うちの娘たちも、あの時こうすればよかったと思うことはあるんじゃないかなと思います。 俳優 大森 ヒロシさん 鳥井:「ああすればよかった」とは、具体的にどんなことがありましたか? 大森さん:治療中に、なんて声をかければよかったのかな、もっとどこかに遊びに行っていたらよかったな、と思いました。本人は気を遣って「いいよ」と言うことも多かったけど、本当はもっと食べたいものがあったのか、もっと行きたいところがあったのかと今でも考えます。あの時、本人が何を望んでいたのかは知りたいなと思います。 1カ月無菌室にいた時は、僕は頻繁に行っていましたが、娘たちはそれぞれ仕事や学校があったので、もっと面会に行っておけばよかったなと思っているのではないでしょうか。 今はコロナもあって面会が難しくもあると思いますが、家族や友人などが入院している方には、頻繁に面会に行ってあげてくださいと伝えたいです。顔を見て話すということが本人の力になります。 鳥井:堀さんは、娘さんのお見舞いに行く時に意識していたことって何かありますか? 堀さん:私は、娘が入院している時に気を遣いすぎていた部分がありました。娘は、ずっと体調が悪かったので、あまり話しかけないほうが良いかなと思い、私はそばでずっと座っているだけでした。 大人の患者さんの場合、面会時間は普通午後からですが、小児病棟はなるべく一緒にいてあげてくださいと言われていたので、朝起きたらすぐ行って、夜も消灯時間になるまでそばにいました。 映画の主人公の楓が布団をかぶって何日もその状態でいるシーンと、同じような状況が続きました。声をかけることもありましたが、娘が起き上がって何かを話すということはあまりなかったので、私は本を読んだり、何か作業したりしていました。 ただ、毎日朝行く時に、もしベッドにいなかったらどうしようという不安がありました。毎日、生きていてよかったと感じていました。 映画の中では、楓の家族がみんなで盛り上げようと、楓の気持ちを明るくしてあげようとしますが、私は娘が入院している時、こんな風にしてあげられませんでした。楓の家族は、私の理想を描いてもらいました。

オンコロ読者へメッセージ

鳥井:最後に、オンコロのWEBサイトをご覧になる方へメッセージをお願いします。 堀さん:「いちばん逢いたいひと」は、私の体験を基に、白血病と、ドナーさんをフィーチャーして作りました。でも、白血病やがんが身近でない方など色々な方が見ても、自分の人生に置き換えて観ることができるという点が、この映画の醍醐味だと思っています。自分の家族がもし、がんになってしまった時の接し方を教えてくれる映画でもあるんじゃないかなと思うので、ぜひ多くの方に見てほしいです。がんは悲観的なものではない、というのをわかってもらいたいです。 大森さん:今、二人に一人ががんになる時代なので、決して他人事ではないと思います。悲観的にはならないでほしいけど、がんと告知された本人が一番辛いので、周りが明るく、応援してあげることが大事だと思います。 自分が辛い時に、周りが辛い顔をしていると、逆に本人が申し訳ない気持ちになると思うので、応援している気持ちを伝えてあげることが、一番嬉しいと思います。 多くの方に「いちばん逢いたいひと」を見ていただいて、負の要素ばかりではなく、プラスに転じる気持ちを持っていただけるとありがたいと思います。「無駄な命なんか一つもないんだよ、生きてて」と伝えたいです。 (左)プロデューサー 堀 ともこさん(右)俳優 大森 ヒロシさん 映画「いちばん逢いたいひと」 10年ほど前、自身の娘が白血病になり、家族で乗り越えた経験を持つプロデューサーの堀ともこが、競泳の池江璃花子選手が白血病を乗り越え、東京オリンピックに出場したのを機に、「白血病と骨髄移植」、「ドナー登録」について理解を深めて欲しいと、少女が白血病になった二つの家族の物語が交差するドラマチックなエンターテインメント映画を企画。 その想いに賛同した老若男女のキャストが集結した。白血病を乗り越え、初めて一人旅に出る大人になった楓役でAKB48のチーム4のキャプテンである倉野尾成美、白血病になった娘に寄り添う母・佳澄役で高島礼子、白血病で娘を亡くしたことで、自らドナー登録する柳井役に『北風アウトサイダー』で監督デビューも飾った崔哲浩、その田舎の母・祥子役で中村玉緒が出演。子供時代の楓役の田中千空、同室の白血病患者・与志役の海津陽など、子役の熱演も引き出したのは、脚本と康介役も担当し、本作が映画監督2本目となる丈。 型が適合するドナーが見つかった時の心の底からの感謝の気持ちと、手紙1通でしか繋がっていないドナーとの運命的で目に見えない絆を身をもって知るプロデューサーから生まれた、生きる意味を改めて問う物語が誕生した。 2月17日(金)より福山駅前シネマモードにて先行公開中 2月24日(金)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次公開 公式サイト:https://www.ichi-ai.com/ 公式ツイッター:https://twitter.com/ichiban_aitai インタビュー後記 私自身もがんサバイバーで、25歳のときに肉腫というがんに罹患しました。手術でがんを取って、治療を開始しました。 患者会という患者さんが集まる会に所属しています。0歳から39歳までの方たちが所属している患者会でも、様々な活動をさせていただいております。中には小児がんの経験者の方もいますし、まさに今回の映画で扱っている、白血病になられた方や、悪性リンパ腫になられた方も所属しています。 骨髄移植の話も患者会で聞いてはいましたが、実際に映画で見ると、患者会に所属しているあの子たちも、子供のときにこんな苦労したんだな、というのをすごく感じる内容でした。 インタビュイー プロデューサー 堀 ともこさん 俳優 大森 ヒロシさん インタビュアー 鳥井 大吾 ライター 西塚 真帆
特集 白血病 白血病

鳥井 大吾

法政大学経済学部 卒業後Webマーケティング会社に入社。営業、SEO施策、Webサイト解析、制作ディレクション業務を行う。社会人2年目で粘液型脂肪肉腫に罹患するも治療を経て復職。2016年4月に自身のがん体験を活かすべく3Hクリニカルトライアルに転職し、2019年10月までオンコロの運営に携わる。

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