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先進国は6〜8割の接種率、先進国でなくても8〜9割を超えている国も
鳥井: HPVワクチンについて教えてください。 宮城先生:まず子宮頸がんの95%以上は、HPVへの感染が原因となっています。HPVには100以上の型があり、発がんの高いリスク型が約15種類あることがわかっています。このうち16型と18型が子宮頸がんの発症原因の60~70%を占めています。 日本で定期接種(無料接種)の対象となっているのは、12〜16歳の女子に対する2価のと4価のワクチンの接種です。2価ワクチンが16型と18型の感染を予防するもので、4価ワクチンは6型、11型、16型、18型の感染を予防します。この6価と11価については、外陰部にできるイボ(コンジローマ)も予防します。 また、2020年7月には9価のワクチンが日本でも承認されました。このワクチンは6、11、16、18、31、33、45、52、58型の感染を予防します。公費で接種できるようになるかどうかは現在検討中ですが、2021年2月24日に発売予定です。 鳥井:海外の接種状況について教えてください
※宮城先生提供資料より
宮城先生:2016年のデータですが、先進国の接種率は軒並み6〜8割で、先進国以外でも8〜9割を超えている国もあります。
アメリカもこの時点では接種率が低いですが、9価ワクチンが承認され、男子、女子共に接種率が高まっています。接種率の高い国では、国が無料接種プログラムを主導し、HPVワクチンを接種するように国民に呼びかけをしています。
エビデンスが揃い、世界は間違いなくHVPワクチン接種の方向へ動く
鳥井:日本の接種率が低い原因を教えてください。 宮城先生:2013年6月に政府が定期接種の勧奨中止のアナウンスをしたことで、定期接種で無料にも関わらずHPVワクチンを打つ人がいなくなりました。理由は接種後に慢性疼痛、運動障害といった体調不良を訴える声が相次ぎメディアも大きく取り上げたからです。 しかしワクチン接種の有無に関わらず、同様の症状が一定数現れることが厚労省全国疫学調査(祖父江班)の結果、名古屋市のアンケート調査(名古屋スタディ)で報告されていますが、日本では依然接種勧奨を差し控える状況が7年以上続いています。 ただ、2019年末から大きな動きがありました。国会で「定期接種にも関わらず、接種勧奨を控える状態は問題である」とある衆議院議員からの質問書に、当時の安倍首相は「具体的な方法は市区村長に一定の裁量があるが、予防接種法としては勧奨する必要がある」と、はっきりと回答しました。 これで大きく日本が変わると思いました。しかしながら、その後新型コロナウイルス感染拡大となってしまい、議論が止まってしまいました。 その後、2020年10月には健康局長から地方自治体宛に「定期接種が無料で受けられます」との周知があったり(2021年1月に再通知)、接種勧奨は差し控えているとの条件付きでありますが、厚労省のリーフレットがかなりわかりやすく改訂されたり、徐々にではありますが動きはあります。
※改訂された厚生労働省のリーフレット
加えてこの数年で、HPVワクチンに関する様々な研究結果が報告されています。
※宮城先生提供資料より
新潟大学(Niigata Study)では20-22歳の日本人女性2073人を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無とHPV感染状況が調査され、2価ワクチンのHPV16/18型感染予防に対する有効率は91.9%(性交渉前では93.9%)との研究結果が発表されました。
最近ではスウェーデンの10〜30歳の女性167万人を対象に、HPVワクチン接種歴と子宮頸がん発症の有無を検討した研究結果が医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。
・ワクチンを接種した集団で子宮頸がんに罹患したのは53万人中19人
・非接種の集団で子宮頸がんに罹患したのは115万人中538人
加えて、17歳未満で性交渉前に接種することで子宮頸がんに罹患するリスクが88%下がるといったデータも出ました。
これにより、世界は間違いなくHVPワクチン接種を勧める方向へ動きます。また世界保健機関(WHO)は子宮頸がん撲滅のために2030年の介入目標として、15歳までにワクチン接種率を90%とすることを目標としています。



