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「保護者から声の積み重ねが大切」〜HPVワクチン問題における海外と日本の現状について〜


  • [公開日]2021.03.04
  • [最終更新日]2021.03.04

 新型コロナウイルス感染症の流行収束に向け、各国でワクチンの接種が開始され、日本では2月から接種がはじまった。一方で、一部からはワクチン接種に対する不安の声が上がっている。

 こうしたワクチンを不安視する声は、新型コロナウイルスに限ったことではない。その最たる例がHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンである。子宮頸がんのみならず男性にも発症する中咽頭がん、肛門がんなどの原因となるHPVの感染予防が期待されるために接種が推奨されるこのワクチンは、海外では高い水準で接種されている。

 しかし日本では2013年4月に、小学6年~高校1年相当の女子を対象に定期接種となるも、接種後に多様な不調を訴える声があがり、2013年6月に厚生労働省が「定期接種の積極的勧奨の一時差し控え」の決定を下して以来、接種率1%未満の状況が続いている。

 そこでHPVワクチン問題に取り組む横浜市立大学産婦人科主任教授の宮城悦子先生にお話を伺った。

先進国は6〜8割の接種率、先進国でなくても8〜9割を超えている国も

鳥井: HPVワクチンについて教えてください。

宮城先生:まず子宮頸がんの95%以上は、HPVへの感染が原因となっています。HPVには100以上の型があり、発がんの高いリスク型が約15種類あることがわかっています。このうち16型と18型が子宮頸がんの発症原因の60~70%を占めています。

 日本で定期接種(無料接種)の対象となっているのは、12〜16歳の女子に対する2価のと4価のワクチンの接種です。2価ワクチンが16型と18型の感染を予防するもので、4価ワクチンは6型、11型、16型、18型の感染を予防します。この6価と11価については、外陰部にできるイボ(コンジローマ)も予防します。

 また、2020年7月には9価のワクチンが日本でも承認されました。このワクチンは6、11、16、18、31、33、45、52、58型の感染を予防します。公費で接種できるようになるかどうかは現在検討中ですが、2021年2月24日に発売予定です。

鳥井:海外の接種状況について教えてください


※宮城先生提供資料より

宮城先生:2016年のデータですが、先進国の接種率は軒並み6〜8割で、先進国以外でも8〜9割を超えている国もあります。

 アメリカもこの時点では接種率が低いですが、9価ワクチンが承認され、男子、女子共に接種率が高まっています。接種率の高い国では、国が無料接種プログラムを主導し、HPVワクチンを接種するように国民に呼びかけをしています。

エビデンスが揃い、世界は間違いなくHVPワクチン接種の方向へ動く

鳥井:日本の接種率が低い原因を教えてください。

宮城先生:2013年6月に政府が定期接種の勧奨中止のアナウンスをしたことで、定期接種で無料にも関わらずHPVワクチンを打つ人がいなくなりました。理由は接種後に慢性疼痛、運動障害といった体調不良を訴える声が相次ぎメディアも大きく取り上げたからです。

 しかしワクチン接種の有無に関わらず、同様の症状が一定数現れることが厚労省全国疫学調査(祖父江班)の結果、名古屋市のアンケート調査(名古屋スタディ)で報告されていますが、日本では依然接種勧奨を差し控える状況が7年以上続いています。

 ただ、2019年末から大きな動きがありました。国会で「定期接種にも関わらず、接種勧奨を控える状態は問題である」とある衆議院議員からの質問書に、当時の安倍首相は「具体的な方法は市区村長に一定の裁量があるが、予防接種法としては勧奨する必要がある」と、はっきりと回答しました。

 これで大きく日本が変わると思いました。しかしながら、その後新型コロナウイルス感染拡大となってしまい、議論が止まってしまいました。

 その後、2020年10月には健康局長から地方自治体宛に「定期接種が無料で受けられます」との周知があったり(2021年1月に再通知)、接種勧奨は差し控えているとの条件付きでありますが、厚労省のリーフレットがかなりわかりやすく改訂されたり、徐々にではありますが動きはあります。


※改訂された厚生労働省のリーフレット

 加えてこの数年で、HPVワクチンに関する様々な研究結果が報告されています。


※宮城先生提供資料より

 新潟大学(Niigata Study)では20-22歳の日本人女性2073人を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無とHPV感染状況が調査され、2価ワクチンのHPV16/18型感染予防に対する有効率は91.9%(性交渉前では93.9%)との研究結果が発表されました。

 最近ではスウェーデンの10〜30歳の女性167万人を対象に、HPVワクチン接種歴と子宮頸がん発症の有無を検討した研究結果が医学誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されました。

・ワクチンを接種した集団で子宮頸がんに罹患したのは53万人中19人
・非接種の集団で子宮頸がんに罹患したのは115万人中538人

 加えて、17歳未満で性交渉前に接種することで子宮頸がんに罹患するリスクが88%下がるといったデータも出ました。
 
 これにより、世界は間違いなくHVPワクチン接種を勧める方向へ動きます。また世界保健機関(WHO)は子宮頸がん撲滅のために2030年の介入目標として、15歳までにワクチン接種率を90%とすることを目標としています。

希望する男性への接種、接種時期を逃した方へのキャッチアップも必要

鳥井:男性への接種の現状はいかがでしょうか?

宮城先生:まず男性もHPVに感染する可能性があり、陰茎がんや肛門がん、中咽頭がんなどを引き起こす原因となります。これまでは子宮頸がんに比べ稀と考えられており、そこまで重要視されていませんでした。しかしアメリカでは、子宮頸がんよりも男性の中咽頭がんが増えているため、男性へのHPVワクチン接種が積極的にはじめられました。日本では2020年12月に4価HPVワクチンの任意接種が9歳以上の男性に拡大されました。

 医学論文のシステマティック・レビューを行なう国際的団体のコクランのレビューでは、優先接種は性交渉がはじまる前の女性で、その次に12〜14歳の男性への接種が勧められます。しかしながら、陰茎がん、肛門がんのリスクのある15歳以上の男性からも、接種に対する強い要望があります。

 日本にも個人輸入で9価ワクチンを接種している男性がいますが、万が一重篤なアレルギーなどの副反応が起きた場合、医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの補償がない可能性があります。日本でも早く9価ワクチンも男女を問わずに接種できるようになって欲しいと思っています。

鳥井:以前SNSで、「自費で9価ワクチンを接種しました」といった30代男性の投稿を見たのですが、その年齢の方にも効果はあるのでしょうか?

宮城先生:効果は個人のHPV感染状況で異なりますので、一概には応えられません。しかしながら、9価HPVワクチンは、16型、18型以外のHPVタイプも防ぐため、まだ感染していない型があれば予防効果はあります。

鳥井:対象年齢である、12〜16歳の定期接種のタイミングを逃してしまった女性はどうしたらいいのでしょうか?

宮城先生:現状では自費(3回で約5万円)で接種するしかありません。本日はまだ9価ワクチンの費用は不明です。国の事情で接種し損ねた方や無料の対象年齢を過ぎてしまった方に、無料で接種する公的なキャッチアップ接種機会を設ける国もありますが、日本のHPVワクチンプログラムには公的にはその動きはありません。よって、キャッチアップ接種も今は任意(有料)で進めていくしかありません。

鳥井:これから日本の接種率を高めていくために取り組むべきことを教えてください。

宮城先生:まずは厚生労働省が積極的接種勧奨の再開をすること。加えて、接種機会を逃したの是非とも接種したいといった声に応え、無料のキャッチアップ接種を一定の年齢を対象に行うことです。これらを実現するためには、接種を希望する声が対象者本人や保護者から上がり、積み重なっていくことが大切です。

 またメディアの在り方も変わる必要があります。HPVワクチンが怖いものであると報道しながらも、世界の接種状況や多様な症状から回復した女性の状況を伝えていない。ただ、一部で訴訟も続いていることからどうやって方向転換をすべきか踏み切れないように思えます。よってスウェーデンの研究結果など、科学的根拠に基づく内容を伝えるべきだと思っています。

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