【日本肺癌学会学術集会】「肺癌撲滅を目指して2020」のハイブリット開催に懸けるその想い-コロナ禍における学術集会-


  • [公開日]2020.10.27
  • [最終更新日]2020.10.27

 第61回日本肺癌学会学術集会が11月12~14日に岡山県岡山市で開催される。「肺癌撲滅を目指して2020」をテーマに、当初は世界中から肺がん医療にかかわる医師、看護師、薬剤師等の医療従事者や患者さん、企業の方を集めディスカッションする予定であった。しかしながら昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大状況を鑑み、オンサイト、オンラインのハイブリッド(混合)開催することが決まった。会長を務める岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科 教授の木浦 勝行先生に、肺癌学会初となるハイブリッドとなった開催形態や学会の見所を伺った。

約35年肺がんを専門としてきました

柳澤:初めに自己紹介とご専門領域のご紹介をお願いします。

木浦先生:昭和58年(1983年)に岡山大学を卒業して、2年間の内科初期研修(厚生連滝宮総合病院・国立岡山病院)を行い、その後後期研修として、国立病院四国がんセンター(当時)(愛媛県松山市)で2年間の研修を受け、岡山大学に戻り現在に至ります。

専門は肺がんで、化学療法で治癒を目指しずっと診療や研究にあたってきました。私が医師となった頃は、肺がんに効果的な薬剤はほとんどありませんでした。「化学療法で治癒を目指すのは困難、有りえない」と周りからも言われましたが、肺小細胞がんでは放射線療法と化学療法で一定の効果がでておりました。一方で、肺非小細胞がんではほとんど大きな成果は得られていませんでした。ビンデシン、イホスファミド、シスプラチン併用療法、シスプラチン・イリノテカン分割療法、シスプラチン・イリノテカン・ドセタキセル3剤併用療法でも完全奏効(CR:complete response)を得られませんでした。

しかしEGFRチロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)の登場で状況が一気に変わりました。当時担当していた患者さんに投与すると、今までの薬剤では考えられないほど劇的な効果を経験しました。

それからはEGFR-TKIを専門に研究をしてきましたが、今ではがんゲノム医療として、EGFR以外にもALK、ROS1、RET等様々な遺伝子異常が明らかにされ、それらに対する薬剤開発が日々進んでおります。

柳澤:かつて肺がんは他の腫瘍と比べ有効な薬剤が少なかったのですが、今では毎年様々な新規薬剤が登場するなど、30年かけて固形がんのモデルになりましたね。次に日本肺癌学会(学術集会)についてお話頂けますか?

木浦先生:学会(学術集会)とは同じ目的や研究テーマを持つ医療従事者や患者さんやご家族、企業の方が一堂に会する場です。わが国のみならず世界中の人が集まるため、その瞬間の世界トップレベルの治療法を知る場でもあります。

日本肺癌学会は私が初めて参加した全国学術集会で、とても思い入れがあります。退官までに、世界中から肺がんのスペシャリストを、日本全国からは、医療者に加え患者さん・ご家族、行政当局、製薬企業の方々も招き、これからの肺がん治療をどうすべきかを真剣に話し合う会を開催したいと思っていました。

オンサイトとオンラインのハイブリッドで開催

柳澤:肺がんの治癒に向けてよりよい治療開発のため様々な立場の方が参加できる場を提供しているということですね。昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の状況があり、第61回はどのように開催されるのでしょうか?

木浦先生:新型コロナウイルス感染症の影響で、海外の方が来日するのが難しくなり、国内の方々でも岡山に来ることが難しい方もおられるため、オンサイトとオンラインのハイブリッド開催(現地開催とWeb配信開催)します。教育講演は全てオンデマンド、ポスターと一般講演は現地開催のみですが、ワークショップ、シンポジウム、ハイライトセッションはオンラインでも視聴可能です。

オンサイトでは来場者数を1/2~1/3に減らす入場制限も行い、密にならないように配慮し、また会場には十分なアルコール消毒液を用意します。ご面倒ですが体温測定、トリアージシートの提出もお願いします。新型コロナウイルス感染症は呼吸器疾患といったこともあり、患者さんはオンラインで参加して頂くこととしました。

柳澤:木浦先生が患者さんにお声を届ける機会はあるのですか?

木浦先生:患者さんについては3日間オンラインでご参加いただけるプログラムを用意しておりますので、時間の許す限り私も参加を予定しています。

柳澤:学術集会では、最新の治療や研究などの知識が共有されますが、第61回の目玉となるセッションはございますか?

木浦先生:「緊急企画COVID-19流行下の肺癌治療」のセッションはお勧めです。コロナ禍における肺がん治療についての知見を共有します。プレナリーセッションの4演題は日本を代表する臨床試験の報告ですので是非ご来場またはご視聴ください。今年の主な海外の学会はASCOを含めて演題は全てWeb配信でしたが、本学会ではその一部の発表をアンコールセッション(特に優れているものはハイライトセッション)としてプログラムに組み込みました。ASCOでプレナリーに選ばれた演題も含まれています。会場での活発なディスカッションを期待しております。

Cure-Oriented Treatmentを目指して欲しい

柳澤:医療者としての集大成として学術集会に臨まれると思いますが、最後に今の若い医療者に期待することを教えてください。

木浦先生:医師人生において私は幸運なことに肺がん医療が大きく変わるエポックメイキングな場に立ち会うことができました。それがゲフィチニブ(商品名:イレッサ)でした。酸素吸入が必要で、ほぼ寝たきりの患者さんが、ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)投与後1週間後に歩ける様になっている。その後、残念ながら1年程度の奏効期間ではありましたが、それまでには考えられない現象を目の当たりにしました。

今では進行がんであっても治療効果が出ると10年以上がんと共生する患者さんがでてきました。とはいえ、平均寿命が伸びている状況下で、50代で肺がんに罹患して、60代で亡くなってしまうのはとても悲しく思います。

是非、若い医療者にはCure-Oriented Treatmentを目指し、多くの論文を読みしっかりとした基礎・臨床研究を行って欲しいと思います。そして化学療法、分子標的薬免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療法を活用し、様々なアプローチで肺がんを治療し、最終的には治癒を目指して欲しいと思っています。

<編集後記>
私は、日本肺癌学会のプログラムに関わる立場にありますが、今回はその立場に加え、ウェブ・メディアのがん情報サイト「オンコロ」の立場でも取材させて頂きました。

個人的には、木浦先生に知り合ったのはもう20年以上前です。もちろん当時は、分子標的薬や、免疫チェックポイント阻害剤はありません。

そんな中でも、肺がんの患者さんを治癒させるということを常に口に出されていました。当時の薬剤の持ち駒で、到底そんなことは無理だろうとまわりに滑稽に思う人さえいたのを覚えています。

しかし、20年が経った今、そんな言葉は滑稽でもなく、もう手の届くところに来ているかもしれません。それは、何年も前から「肺がん患者を治癒させる」と信じて、研究し、患者さんに寄り添う医療者によって。残念ながらハイブリッド開催となった第61回日本肺癌学会学術集会ですが、今後の新しい学会(学術集会)の形として、盛況を心より祈念しています。

(文・鳥井 大吾)

第61回日本肺癌学会学術集会 開催概要

■会議名称
第61回日本肺癌学会学術集会
http://conference.haigan.gr.jp/61/

■会期
2020年11月12日(木)~14日(土)

■会場
・岡山コンベンションセンター
〒700-0024 岡山県岡山市北区駅元町14番1号
TEL:086-214-1000
・ホテルグランヴィア岡山
〒700-8515 岡山県岡山市北区駅元町1番5号
TEL:086-234-7000
・ANAクラウンプラザホテル岡山
〒700-0024 岡山県岡山市北区駅元町15番1号
TEL:086-898-1111
・岡山シティミュージアム
〒700-0024 岡山県岡山市北区駅元町15番1号
TEL:086-898-3000
・岡山県医師会館
〒700-0024 岡山県岡山市北区駅元町19番2号
TEL:086-250-2100

■会長
木浦 勝行(岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科)

■テーマ
「肺癌撲滅を目指して2020」

■主催事務局
岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科 事務局長 市原英基
〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-235-7230 FAX:086-232-8226

■運営事務局
株式会社メッド
〒701-0114 岡山県倉敷市松島1075-3
TEL:086-463-5344 FAX:086-463-5345
E-mail:jlcs2020@med-gakkai.org

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