目次
ギターが飾られる自室からお答えいただきました
がんに特化し、科学的根拠に基づいた本を出版したい
鳥井:この度はご出版おめでとうございます。今回出版することになった経緯を教えてください。 勝俣先生:以前から、一般の方にがん情報が伝わりにくい、また正しいがんの書物がないことを課題に感じていました。また3年前にアメリカUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授)の津川友介先生との対談で「日本ではインチキ医療がばびこっているためどうにかしたい」と話しました。 それからしばらくして、津川先生が2018年に出版した「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」が多くの方に読まれていたため、がんに特化した科学的根拠に基づいた本を制作しようとなり、がん患者さんの関心が深い食事について取り上げると同時に、治療や臨床試験や予防/検診のことを入れることになり、今の形に至りました。 大須賀 覚先生は、元々は脳神経外科医で今は米国で新薬開発の研究をされており、また独自にインターネットで正しい医療情報を発信していました。津川先生から大須賀先生へ声をかけてもらい、3人で制作することが決まりました。 鳥井:出版までどのくらいの期間を要しましたか? 勝俣先生:構想から出版まで、1年9ヶ月ほどかかりました。1人が書いた章を医学的に問題ないか、また一般の方にもわかりやすいかを2人でチェックしました。ちなみに2人の先生はアメリカ在住なので、対面は一度もなく打ち合わせはずっとオンラインで行ってきました。日本で開発した薬剤の承認は海外の方が早いといった状況が続いた
鳥井:それでは本の内容について質問させてください。P74に書いているドラッグ・ラグが改善した理由を教えてください。勝俣先生:ドラッグ・ラグは2000年代前半に大きな社会問題になっていました。アメリカで承認された薬が日本で使えないことが当たり前に起きていました。ちなみに私の専門である婦人科がんは患者数が少ないこともあり臨床試験が進まず、ドラッグ・ラグが起きる典型的な領域でした。本には2.4年と記載してありますが、これは平均値であり、卵巣がんでは10年以上遅れていた薬剤がいくつかありました。 そんな状況をうけ患者さんたちは薬剤の早期承認を求め署名活動を行い、最終的には15万人の署名を集め、厚生労働省に提出をしました。それがきっかけに新薬承認の審査フローや審査官の数などが見直されました。 鳥井:患者さんが活動を起こす前までは長い間ドラッグ・ラグが存在していたのですね。 勝俣先生:また署名活動に加え、山本たかし先生(国会議員)の貢献が非常に大きいです。山本先生は2005年に胸腺がんに罹患し、海外では使用できる薬剤があるにもかかわらず、当時の日本には保険適応された薬剤はありませんでした。よってがん対策を推進するためには法律を整備する必要があると、山本先生が命をかけ尽力し、2006年にがん対策基本法が成立しました。そのこともきっかけとなり、ドラッグ・ラグ解消に向かいました。 鳥井:ドラッグ・ラグが起きてしまった原因はなんですか。 勝俣先生:腫瘍内科医(専門医)が少なく、日本で開発治験が行えなかったことが大きな原因になっていると思います。2000年代初頭まで先進国はおろか、韓国や台湾、中国でも使える薬剤が日本だけ使えない、また日本で開発された薬にも関わらず海外の方が先に使用できることも多々ありました。患者さんもドラッグ・ラグには苦しみましたが、我々医療者も苦しみました。 治験が行えなかった原因として、1997年に新GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)が制定されたことが挙げられます。これにより、治験は厳格に世界で統一した基準で実施することが決まりました。しかしながら当時の日本ではまだ新GCPに対応できる体制が整備されていませんでした。よって治験が十分に実施できない期間が続いたことによりドラッグ・ラグが起きました。本引用 厚生労働省の外郭団体で医薬品を審査する医薬品医療機器総合機構の試算によると、2006年度のドラッグ・ラグが2.4年だったのに対して、2017年度は0.4年と大幅に改善しています。
専門医の数が足りず研究にリソースがさけていない
鳥井:P94で代替療法について海外の臨床試験の結果が挙げられていましたが、日本では代替療法の臨床試験は行われているのですか? 勝俣先生:海外は代替療法の臨床試験が盛んに行われています。一方で日本は抗がん剤の臨床試験ですら十分に行われていないため、代替療法までは手が回っていないのが現状です。ちなみに新型コロナウイルスも同様で、FDAでは130以上の臨床試験が行われているにも関わらず、日本ではPMDAに登録されている臨床試験は数個です。 鳥井:どうしてここまで数に差が出てきてしまうのでしょうか。 勝俣先生:研究費の問題もありますが、やはり専門医の数だと思います。日本の腫瘍内科医は約1,300人とアメリカの1/13しかいません。よって日常の診療で手一杯で、幅広い分野の研究にまでにリソースをさけていないのが現状です。まだまだがん診療の現場は課題が多くあります。 鳥井:P96の自由診療が臨床研究として曖昧になっている理由を教えてください。勝俣先生:臨床研究法は、未承認治療・適応外治療や、製薬企業から資金提供を受けた医薬品の臨床研究を規制するため、できたことは良かったのですが、未承認の自由診療まですべて臨床研究として規制すべきかどうかというところをとても曖昧にしています。 本来なら、有効性がわかっていない医療を患者さんに行うときは実験(研究)ということになると思います。効果もはっきりしておらず、どんな副作用が出るかどうかもはっきりしていないからです。そのような医療は、自由診療として、自由にやってよいものではなく、研究として行われるべきです。研究を自由診療として行い、報酬をもらうことは倫理的にも間違っていると思います。がんの患者さんはどうにかして治したいと藁にもすがる気持ちでいるため、少しでも良いと思われるならお金を出してしまう。海外先進国ではがん患者さんに対して効果が実証されていない医療を提供することは研究として政府(米国ではFDA:医薬品食品局)に届出の義務があります。 一方日本ではたとえ、有効性の証明がなく、承認がされていない治療法であっても、医師が自由(自費)診療として、勝手に行っても罰せられない。臨床研究法では未承認の治療の場合は研究として行うようにと明記されています。しかし、すべての未承認の自由診療を、研究として行うようにと規制をしているわけではないようなのです。このあたりは、もっと明確にしてほしいところと思います。本の引用 本来であればがんの自由診療も規制対象になると思いますが、自由診療にもこの法律が適応されて臨床研究として行うべきかは曖昧になっています。
「コップ1杯でがんが治りますって水が売ってたらどうですか?これが日本だと罰せられないのです」
早期発見が難しいがん、また早期治療が必須でないがんもある
鳥井:P194に記載のある進行が早いがん、遅いがんのそれぞれの特徴を教えてください。勝俣先生:ではまずがん検診について説明しましょう。鳥井さんに質問です。すべての国民があらゆるがん検診を受けるとがんで亡くなる人が大幅に減りますと思いますか? 鳥井:えぇ、、と、がんで亡くなる人は増えます。検診によってがんを見つけることはできますが、それが命を助けることにつながらないからです。 勝俣先生:でも全国民に対して強制的にがん検診をして早期発見・早期治療をすれば、亡くなる人は減らせませんか。 鳥井:進行が遅く治療しなくていいがんもあり、ただ見つかったら治療をしないといけません。一概に検診を受けることが命を助けることにつながらないです。 勝俣先生:そういうことです。一定数早期治療が必須ではないがんが存在しています。がんにはスピードがあるので、ゆっくり進行するがんは検診をせずとも何かの拍子に見つかり、そこから治療を検討するでも大丈夫です。その代表が前立腺がんや甲状腺がんなどです。 一方でたとえ毎年検診をしても追いつかないくらいのスピードで増大するがんもあります。それの代表格が白血病です。2〜3週間ほどで急激に白血球(白血病細胞)が増えるため、こうしたがんの早期発見早期治療は難しいです。 その中間で、早くもなく遅くもないがん(本書ではのんびりがん)が検診の対象となっていますが、その数は多くなく、肺がん、乳がん、大腸がん、子宮頸がん、胃がんです。ただし、例えば乳がんと一括りにしても、すべてのんびりがんではなく、進行が早いものもあれば遅いものあります。 またこんな患者さんがいます。半年前に乳がん検診を受け異常なしと言われたにも関わらず、先月乳がんが発覚しました。「私は見落とされたのでしょうか?」といったケースです。検診は、しっかりとした検診施設でされており、見落とされたわけではありませんでした。この場合は見落とされたのではなく進行が非常に早いがんだったのだと思います。本の引用 がんの種類を進行速度別に4つに分類しています。(1)急速がん、(2)のんびりがん、(3)超のんびりがん、(4)進行しないがんです。
勝俣先生の質問に対ししどろもどろ答えていました
鳥井:これまで何年にもわたって情報発信をする中で感じる社会の変化を教えてください。 勝俣先生:この数年で正しい医療情報が増えてきました。また正しい医療情報を発信する医療者や民間のメディアが増えました。またGoogleやYahooなどの情報のプラットフォームも正しい情報が優先して表示されるようになりました。 しかしながら依然として、Web広告にはトンデモ医療がたくさん表示されたままです。またアメリカだと多くの公的機関や病院がツイッターやYOUTUBEを活用しているにも関わらず、日本ではまともな医療情報をツイッター、YOUTUBE上で発信している機関はまだまだ少ないです。この辺りは引き続き課題だと思います。 鳥井:最後にメッセージをお願いします。 勝俣先生:この本は大須賀先生、津川先生共に世界を股にかけ活躍する専門家と一緒に、一般の方にもわかりやすく書きました。またタイトルは一見トンデモ本のように怪しげですが、多くの人に手に取ってもらうためにもあえて、「最高のがん治療」としました。ただ非常に厳しく科学的根拠に基づいて書いた本であり、内容は保証しますので、“最高”というのは間違いないです。治療のことについて書いてあるのでがんに罹患された方もですし、予防、食事、検診なども書いているのでがんに罹患する前の方にも是非、読んでいただきたいです。
「皆さん是非読んでください!」
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