Health 2.0、グーグル、マイクロソフト、スタートアップ等が多彩に競演


  • [公開日]2018.09.27
  • [最終更新日]2018.09.27

ヘルスケアの新技術やそのソリューションを提案するイベント、Health 2.0がサンタクララ・コンベンションセンターで、9月16日から18日まで開催された。アメリカの医薬品市場規模は約3397億ドルと世界1で、2位の日本(約940億ドル)3位の中国(約868億ドル:Washington Core調査)を大きく凌駕する。その市場を巡り、大手からスタートアップまで様々な講演やデモ、意見交換などが繰り広げられた。

アップルがFDA(米国食品医薬品局)承認済みの心電計搭載のApple Watchの市場投入を9月12日に発表。心拍数の異常を検出するモバイルヘルス機としても使える同製品発表直後のイベントという影響もあってか、12回目のHealth 2.0にはGoogle、ウォールマート、マイクロソフトなど、一見するとヘルスケアが主たる事業でない大手企業が数多く参加していた。

Googleは月曜午前の講演でプリンシパル・UXリサーチのリカルド・プラダ氏がウォールマートの上級取締役デイビッド・ホーク氏、配車サービスのリフト(Lyft)副社長ジャイル・レンウィック氏らと登場し、消費者寄りのヘルスケア製品やメディカルサービスに関して話し合った。

リフトは非営利団体などと提携し、同社のアプリが無くても車を呼んで病院に行ったり、介護を呼べるサービスを提供。有料で高価な場合が多いアメリカの救急車より、このリフトのサービスは輸送費が大幅に削減され、待機時間も短縮されるという。Googleは10月9日に新しいスマホ、ピクセル(Pixel)3や関連のウォッチなどが発表予定だが、ヘルス系でどんなサービスが出てくるのか、これから気になるところ。

一方、大手小売業者ウォールマートは糖尿病患者などが健康になる食物の摂取を進めるアプリFresh Triを発表した。マイクロソフトからはチーフ・メディカル・オフィサーのサイモン・コー氏が出演し、ARことアーギュメント・リアリティを使って、マイクロソフト・ホロレンズでヘルスケアのソリューションを聴衆にプレゼン。

同社は手術のシュミレーション、FDA認可のAIを活用した糖尿病の網膜症を早期発見するシステム、AIで腫瘍が良性か悪性かの判定、MRIやCTスキャンのフラットな画像を3Dのコンピュータグラフックスに変換などヘルスケア対応の多くの製品と技術を誇る。

こうした大手だけでなく、米大学やスタートアップ企業も新製品を出展。がんで腕を無くしたジョニー・マセニー氏がジョン・ホプキンス大開発の脳波で動かすマインド・コントロールによる義手ロボットを紹介。線でつながっていないのに、義手が脳からの命令で指先を思うまま一つずつ動かして見せた。

2014年に設立されたブイ・ヘルス(Buoy Health)は患者が自らの症状をテキストベースで臨床のデータベースに参照すると、機械学習によるチャットボットがおおよその診断教えてくれる。同社は昨年、この技術を数々の企業とパートナー関係を結ぶことで670万ドルを獲得し、Health2.0では財団からも賞金を得た。投薬量を時間で追跡し、記録するボストン本社のメディセイフ(Medisafe)のアプリは、Apple Watchと互換性を持つ。

(右)グローバスAIの社員の方

遠隔医療プラットフォームでサンフランシスコ本社のドクター・オン・デマンド(Doctor On Demand)社は 今年8月、新たに7400万ドルの資金調達を獲得。他にも病院訪問や健康状態を連続して記録するビー・ウェル(b.well)社のアプリや、データを無料でシェアするEP3財団とその設立メンバーのウェブシールド(WebShield)社、IoT接続の医療機器をAIで保守するノルウェーのグローバスAI(Globus AI)、アメリカで関連した死亡者が4万人以上と大問題になっているアヘン様化合物オピオイド中毒患者対策のプラットフォーム、Sober Grid(ソバー・グリッド)、患者の胸に貼るだけで多様なバイタルサインを直ぐ把握して、表示する製品などが目白押し。

今年はヘルスケアのスタートアップ企業への投資が、過去最高になるのではという予測も出ているほどで、ベンチャー出展が目立った。

日本の大手企業の参加者も多く、その内の某参加者は「Googleがプラットフォーマーとしてぐいぐい入ってきているのが印象的だった。また、既存の医療の枠組みの上でInnovationを起こそうとする人々と、その枠組みの外から新しい医療システムを構築しようとする視点も」新鮮と語っていた。


マシュー・ホルト氏

Health 2.0の共同設立者のマシュー・ホルト氏は昨年のイベントとの違いを「プラットフォームが断然整ってきたし、ビックデータとAIのヘルスケアへの利用は昨年に引き続きより優れたものに進んでいる」という。

 最終日18日で最後のラウンドテーブルにはGoogleクラウドのヘルスケア・グローバルヘッドのアシィマ・グプタ氏がマイクロソフトのサイモン・コー氏、UPMCことピッツバーグ・メディカルセンターのラッシュ・シュレスタ博士らと討論。グプタ氏はNIHアメリカ国立衛生研究所)が採用したグーグル・クラウドで増え続けるバイオ・データ等をクラウド経由の機械学習で病気の研究に貢献している。

アシィマ・グプタ氏

 前出のウォールマート上級取締役ホーク氏はAIなどIT製品のヘルスケア部門の設計では「技術がすべての解決策になるのではなく、機会を与えてくれるもの。だから、プログラマーの能力に惑わされることはない。健康が人生で、その人生は感情的だから」と米メディアに語った。

UPMCのラッシュ・シュレスタ博士は「多く分散している情報をスムーズに統合し、共有して患者の治療に役立てるのがこのイベントの意義」と結んだ。ちなみにHealth2.0の東京でのイベントは12月4日から5日まで開催される。

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