肺がんとは
肺がんは、空気の通り道である気管や気管支、肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。
肺がんが進行すると、増殖したがん細胞が血液やリンパ液などの流れにのって、体の異なる臓器に転移することもあります。転移しやすい場所はリンパ節、肺のほかの部位、骨、脳、肝臓、副腎と言われています。
肺がんの種類
肺がんは、発生部位別に中心型と末梢型に分かれます。また、組織別に非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)に分けられます。
さらに、がんの増殖に直接関わる遺伝子を「ドライバー遺伝子」の変異にもEGFR、ALK、ROS1など種類があり、その変異に応じた薬物療法が行われています。
この記事では、ステージ3の非小細胞肺がん(NSCLC)の主な治療法を解説します。
ステージ3の肺がん(非小細胞肺がん)とは
肺がんはその大きさ(原発巣の大きさ)、近くのリンパ節(所属リンパ節)への転移の有無、がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移(遠隔転移)の有無によって、ステージ(病期)が分けられます。
この分け方はTNM分類と呼ばれ、以下の組み合わせによって決まります。
TNM臨床病期分類 | N0 | N1 | N2 | N3 | M1a | M1b | M1c | |
T1 | T1a(≦1cm) | IA 1 | II B | III A | III B | IV A | IV A | IV B |
T1b(1-2cm) | IA 2 | II B | III A | III B | IV A | IV A | IV B | |
T1c(2-3cm) | IA 3 | II B | III A | III B | IV A | IV A | IV B | |
T2 | T2a(3-4cm) | I B | II B | III A | III B | IV A | IV A | IV B |
T2b(4-5cm) | II A | II B | III A | III B | IV A | IV A | IV B | |
T3 | T3(5-7cm) | II B | III A | III B | III C | IV A | IV A | IV B |
T4 | T4(>7cm) | III A | III A | III B | III C | IV A | IV A | IV B |
T因子(原発腫瘍primary Tumorの状況)
最初に発生した肺がんがどの程度大きくなり、どこまで広がっているか
N因子(所属リンパ節regional lymph Nodesの状況))
リンパ節への転移とその広がりをみる
M因子(遠隔転移distant Metastasisの状況))
リンパ節以外のほかの臓器への転移とその広がりをみる
このように、ステージ3の非小細胞肺がんは、さまざまな状態・状況が内包されており、肺癌診療ガイドライン 2022年版では「呼吸器外科,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療チームで切除可能かどうか,放射線照射可能かどうかを検討したうえで治療方針を決定することが重要である」と述べられています。
ステージ3肺がんの治療法
ステージ3の非小細胞肺がんのうち、ステージ3Aの一部では手術が行われる場合があります。一方、ステージ3Bとステージ3Cでは、手術(外科治療)ではなく「化学放射線療法」が標準治療とされています。
化学放射線療法は、薬物療法のひとつである化学療法と放射線療法を同時に行う治療です。局所療法である放射線療法でがん組織をたたきつつ、全身療法である化学療法を用いて、全身に広がっている可能性のあるがん細胞を攻撃します。
ステージ3肺がんの化学放射線療法(同時化学放射線療法)
化学放射線療法における放射線療法
化学放射線療法を行うことになると治療計画用にCT撮影を行います。治療計画では、治療を始める前に最適な照射範囲や照射方向を決めます。昔はX線による二次元治療計画が行われていましたが、近年はCTを用いた三次元治療計画が一般的になっています。
ステージ3の非小細胞肺がんでは、がんの形や位置に合わせた「三次元原体照射(3D-CRT)」が行われています。また、近年では「強度変調放射線治療(IMRT)」も用いられています。IMRTは、照射したい部分の形に合わせ、複雑な形の線量分布を作ることができるという利点があります。
通常、1日1回2Gy(グレイ)を週5回、6週間連続で行い、合計で60Gyを照射します。なお、肺癌診療ガイドライン 2022年版では74Gyの高線量照射は行わないよう推奨されています。
化学放射線療法における使用薬剤と組み合わせ
ステージ3の非小細胞肺がんの化学放放射線療法では、主に以下の薬剤をそれぞれの組み合わせまたは単剤で使用します。
化学放射線療法後の地固め療法
地固め療法とは、化学放射線療法後に、薬物療法を追加で行うことで再発を抑える目的で行われる治療法です。
ステージ3の非小細胞肺がんの一部では、この地固め療法として免疫チェックポイント阻害薬のひとつであるデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)を最大1年間投与することがあります。
ステージ3肺がんの放射線単独療法
何らかの理由で化学療法(薬物療法)が困難な場合、放射線の単独療法が選択されます。商社の方法や回数、線量は化学放射線療法と同様で、通常、60Gy/30回(6週)で行われます。
ステージ3肺がんの手術(外科治療)と術前・術後化学療法
ステージ3Aとステージ3Bの非小細胞肺がんの一部では、手術(外科治療)が行われることがあります。手術の際には、以下の部位並びに大きさで患部を取り除きます。
- 肺葉以上の切除
- リンパ節郭清
- T3,T4臓器合併切除
また、手術の前後には、以下の化学療法(薬物療法)と放射線療法を行うこともあります。
ステージ3肺がんの術前化学療法と術前化学放射線療法
ステージ3Aの非小細胞肺がんでは、術前プラチナ製剤併用療法が選択されることがあります。ただし、後述する術後補助化学療法のエビデンスが確立されていること、術前化学放射線療法後の外科切除の選択肢があることを踏まえて、治療選択を検討する必要があるとされています。
また、最近になって手術の前にプラチナ製剤に加えて免疫チェックポイント阻害薬のひとつであるニボルマブ(製品名:オプジーボ)を併用することで、再発までの期間が延長することが示され、2023年3月に承認されました。
また、ステージ3Aのうち「N2(原発腫瘍と同側の縦隔、気管分枝下リンパ節への転移あり)」の非小細胞肺がんでは、術前化学放射線療法がおこなわれることもあります。
ステージ3肺がんの術後化学療法
ステージ3Aの非小細胞肺がんの術後化学療法(薬物療法)としては、以下のお薬と組み合わせが用いられます。
- テガフール・ウラシル配合剤療法
- シスプラチン併用化学療法(シスプラチン+ビノレルビン)
またPD-L1の発現量が50%以上の場合には、シスプラチン併用化学療法後にアテゾリズマブ単剤療法が追加されることがあります。
なお、現状のガイドライン(2022年版)では、EGFR遺伝子変異陽性の場合でも術後化学療法としてEGFR阻害薬を使用することは推奨されていませんが、2022年には、オシメルチニブが「EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌における術後補助療法」の適応を取得しており、今後ガイドラインが改訂される可能性があります。
ステージ3肺がんの術後放射線療法
肺癌診療ガイドライン 2022年版では、完全切除できたステージ3でN2の非小細胞肺がんでは、「術後放射線療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない」と述べられており、治療選択に入る可能性は低いと考えられます。
ステージ3肺がんの化学療法(薬物療法)
ステージ3の非小細胞肺がんで、何らかの理由で手術も放射線単独の治療も困難な場合、またステージ3であったものの、治療後に再発が認められた場合などには、基本的にはステージ4の治療法に準じた化学療法(薬物療法)が選択されます。
ステージ4の非小細胞肺がんでは、各種の遺伝子検査、PD-L1検査を行い、認められた遺伝子変異の有無やPD-L1の発現量に応じて薬剤を選択し、治療を行います。
主な薬剤とその組み合わせは以下の通りです。
ドライバー遺伝子変異/転座陽性の非小細胞肺がん
対象 | 一般名 | 製品名 |
EGFR遺伝子変異陽性 | ゲフィチニブ | イレッサ |
エルロチニブ | タルセバ | |
パゾパニブ | ヴォトリエント | |
アファチニブ | ジオトリフ | |
オシメルチニブ | タグリッソ | |
ダコミチニブ | ビジンプロ | |
ALK融合遺伝子陽性 | クリゾチニブ | ザーコリ |
アレクチニブ | アレセンサ | |
セリチニブ | ジカディア | |
ロルラチニブ | ローブレナ | |
ブリグチニブ | アルンブリグ | |
ROS1融合遺伝子陽性 | クリゾチニブ | ザーコリ |
エヌトレクチニブ | ロズリートレク | |
BRAF遺伝子V600E変異陽性 | ダブラフェニブ | タフィンラー |
トラメチニブ | メキニスト | |
MET遺伝子変異陽性 | テポチニブ | テプミトコ |
カプマチニブ | タブレクタ | |
NTRK融合遺伝子陽性 | エヌトレクチニブ | ロズリートレク |
ラロトレクチニブ | ヴァイトラックビ | |
RET融合遺伝子陽性 | セルペルカチニブ | レットヴィモ |
KRAS遺伝子G12C変異陽性 | ソトラシブ | ルマケラス |
併用レジメン(EGFR遺伝子変異陽性例のみ) | エルロチニブ+ベバシズマブ | タルセバ+アバスチン |
エルロチニブ+ラムシルマブ | タルセバ+サイラムザ | |
細胞傷害性抗癌薬併用(ゲフィチニブ+カルボプラチン(CBDCA)+ペメトレキセド(PEM)) |
ドライバー遺伝子変異/転座陰性の非小細胞肺がん
併用療法 | 一般名(または製品名) | 略称 |
シスプラチンレジメン | シスプラチン+ペメトレキセド | CDDP+PEM |
シスプラチン+ドセタキセル | CDDP+DTX | |
シスプラチン+ゲムシタビン | CDDP+GEM | |
シスプラチン+ビノレルビン | CDDP+VNR | |
シスプラチン+イリノテカン | CDDP+CPT-11 | |
シスプラチン+ティーエスワン | CDDP+S-1 | |
カルボプラチンレジメン | カルボプラチン+パクリタキセル | CBDCA+PTX |
カルボプラチン+ゲムシタビン | CBDCA+GEM | |
カルボプラチン+ティーエスワン | CBDCA+S-1 | |
カルボプラチン+ナブパクリタキセル | CBDCA+nab-PTX | |
カルボプラチン+ペメトレキセド | CBDCA+PEM | |
ネダプラチンレジメン | ネダプラチン+ドセタキセル | NDP+DTX |
ペムブロリズマブレジメン | シスプラチン or カルボプラチン+ペメトレキセド+ペムブロリズマブ(非扁平上皮がんのみ) | CDDP or CBDCA+PEM+Pembro |
カルボプラチン+パクリタキセル or ナブパクリタキセル+ペムブロリズマブ(扁平上皮がんのみ) | CBDCA+PTX or nab-PTX+Pembro | |
アテゾリズマブレジメン(非扁平上皮がんのみ) | カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ+アテゾリズマブ | CBDCA+PTX+Bev(Bmab)+Atezo |
カルボプラチン+ナブパクリタキセル+アテゾリズマブ | CBDCA+nab-PTX+Atezo | |
ニボルマブ+イピリムマブレジメン | シスプラチン or カルボプラチン+ペメトレキセド+ニボルマブ+イピリムマブ(非扁平上皮がんのみ) | CDDP or CBDCA+PEM+Nivo+Ipi |
カルボプラチン+パクリタキセル+ニボルマブ+イピリムマブ(扁平上皮がんのみ) | CBDCA+PTX+Nivo+Ipi | |
ベバシズマブレジメン | カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ | CBDCA+PTX+Bev(Bmab) |
ラムシルマブレジメン | ドセタキセル+ラムシルマブ | DTX+RAM |
ネシツムマブレジメン | CDDP+GEM+ネシツムマブ | CDDP+GEM+Neci |
単剤療法 | 一般名 | 製品名(または略称) |
ペムブロリズマブ | キイトルーダ | |
ニボルマブ | オプジーボ | |
アテゾリズマブ | テセントリク | |
ドセタキセル | DTX | |
ペメトレキセド | PEM | |
テガフール ギメラシル オテラシルカリウム | ティーエスワン(S-1) | |
ゲムシタビン | GEM | |
ビノレルビン | VNR | |
ナブパクリタキセル | nab-PTX |
終わりに~治療を始める前に~
ここまでに紹介した多岐にわたる治療は、基本的には最新の診療ガイドラインに基づき、選択・提供されます。診療ガイドラインとは、医療の現場で適切な診断・治療を行うために、診療の根拠や手順を医学的根拠に基づいてまとめた文書のことです。
診療ガイドラインは医療関係者が読むことを前提に作られており、患者さんやご家族にとっては少々難解なものですが、肺癌学会ではガイドラインに準じた患者さん・家族向けのガイドブックを作成していますので、目を通してみてはいかがでしょうか。
ご自身がどのような治療方法の対象となるのか、またなぜその治療法が選択されたのか、納得して治療に当たるために、疑問や悩みがある場合は、主治医に確認してみるのがよいしょう。また、セカンドオピニオンやがん相談支援センターの活用も検討してみてもよいかもしれません。
また、がん情報サイト「オンコロ」では、会員向けのサービスとして「がんお悩み相談室」を開設しています。治療のことだけでなく、さまざまなお悩みについて相談できますので、お気軽にご連絡ください。