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「親友のようながん専門カウンセラー」 ナラティブハート代表 門倉紀子さん

7月11日から3日間、川上は仙台で開催された第32回乳癌学会学術総会に参加してきました。そこで、多くの乳腺専門医、乳がんサバイバーの方々、乳がんに関係する企業の方々とお会いしましたが、ぜひ、オンコロでご紹介したい方との出会いがありました。

がん化学療法看護認定看護師で、病院などの組織に所属せずフリーな立場で患者さんに寄り添い、サポートする活動を、群馬県を中心に行っている「ナラティブハート」代表の門倉紀子さんです。

病院のなかでできる支援は限られている

川上:なぜ「ナラティブハート」の活動を始められたのですか?

門倉:多くの患者さんには、病院では話せないこと、解決できないことがあると思います。2023年3月に福岡で開催された第20回日本臨床腫瘍学会で、緩和ケア医が「診察室の中で患者さんの悩みは5%しか解決しない」と話されました。それまで私は、主に乳がん、消化器がん患者さんの看護に携わってきましたが、病院のなかでできる支援は、患者さんにとって必要なサポートのごく一部でしかないことを実感していたこともあり、この言葉に強く共感しました。

患者さんを生活者として捉えて、必要な支援をアセスメントすることが、看護の大切な部分ですが、病院のなかでは、お一人お一人の患者さんにどのような背景があるのか、歩んでこられた人生、大切にしていること、などのお話を伺う時間がほとんどありません。どうしても患者対看護師、という構図の中で、限られた支援しかできないことに、もどかしさを感じていました。そんな時、この先生の言葉を聞き、患者さんが病院のなかでは話せないこと、解決できない悩みを、病院の外でサポートしたいと思うようになりました。

川上:病院のなかでは限られた支援しかできない、というもどかしさは、私も病棟勤務の看護師時代によく感じていました。とはいえ、起業するというアイディアはその頃にはありませんでした。起業には何かきっかけがあったのでしょうか。

門倉:私は起業前から院外での活動をSNSで発信していたのですが、徐々にフォロワーさんからDM(ダイレクトメール)でご相談を受けるようになりました。初めてご相談いただいたのは、大腸がん患者さんのご家族で、母の最期の療養場所をどこにしたら良いか?というものでした。積極的治療の効果がなくなったとき、病院では緩和ケア病棟や在宅療養への移行などの選択を求めますが、そこにはいつも選択に必要な情報が不十分だと感じていました。今まで治療を頑張ってきたのに、急に最期の療養場所の選択を迫られ、本人も家族もどうしたらよいのか途方にくれている場面を何度も目の当たりにしてきたので、ご相談を受けて、どこでも同じことが起きていると思いました。

この最初のご相談者さん(当時は起業前で無料サポート)とは、DMでのやりとりを50回以上させていただき、ご本人とご家族が望まれた自宅で最期を過ごすことができました。お顔もお名前もわからない方でしたが、少しはお力になれたと思っています。このようなご相談が何件か続いたことで、必要としてくださる方がいると確信し、2023年12月よりがん専門有料カウンセリングを開始しました。

サポートの事例


川上:サポートの料金はどのような設定ですか?

門倉:カウンセリング料金は、Zoom、電話、対面、LINE相談ごとに設定しています。カウンセリングに関するお問い合わせは、ウェブサイトの問い合わせフォームまたは、インスタグラムのDMからお願いしています。

川上:インスタグラムのほか、どのようにしてご活動のことを周知されていますか?

門倉:ウェブサイトも作成しています。また県内外のがん診療拠点病院や一般病院にリーフレットを置いていただけるようご挨拶しています。主に乳腺科や腫瘍内科の医師が、ナラティブハートの活動に理解を示して、外来や診察室に置いてくださることが多いです。ほかには調剤薬局、ウィッグ取扱店、クリニックなど、これまで100か所以上に訪問させていただきましたした。SNSを通して知っていただける方も多く、ピアリングの中でご紹介してくださった方がいて、そこからもご相談に繋がったケースがありました。

川上:起業されてから、どのくらいの相談に対応されてきましたか?

門倉:予約を開始して7か月たったところですが、これまで19名の方、のべ29件のご予約をいただきました。有料の設定をしてから、無償で対応していた時よりは減ってしまいましたが、徐々に知っていただき、ご相談にきていただけていると実感しています。

川上:見えない価値への対価は、利用してみないと理解できないことが多いですよね。ご活動をもっと多くの方に知っていただけるといいですね。オンコロもお役に立てれば嬉しいです。具体的な対応事例等があれば教えてください。

門倉:例えば、乳がんの術後補助療法について「抗がん剤をするかしないか」というご相談を受けたことがあります。まずはご本人が大切にしていることをお聴きし、選択のために必要な情報として、効果や副作用、費用、スケジュール、同じ治療を経験された方の事例などを情報提供し、治療をした場合に想定される困りごとについて一緒に考え、ご本人の納得のいく選択を支援することができました。また、主治医とのコミュニケーションに悩んでいる方には、診察室での質問の方法や会話のコツをお伝えしたことで、信頼関係が築けるようになったと、嬉しいご報告をいただきました。知人から勧められた民間療法に気持ちが傾いていたけれど、zoomカウンセリングを受けて標準治療の必要性を理解して下さった方もいました。

ある乳腺外科医には「この仕事は医師にも患者さんにも必ず必要とされる」と言っていただきました。がん治療にはさまざまな選択肢がありますが、医師は多忙で、説明しなければいけないことも多岐に渡るため、診察室での説明だけでは意思決定に必要な情報が十分得られないことが多く、その不安からネット検索の沼に陥ってしまう方もいます。その部分をサポートさせていただくことも多いように思います。

(この3年間に門倉さんが患者さんやご家族からいただいたお手紙)

フリーの看護師としての活動から見えてきたこと

川上:病院から離れて活動することで見えてきたことはありますか?

門倉:たくさんあります。例えば、乳がん術後の再建について、地方では都内に比べ、あまり行われていないと思います。それは、再建を受けたくても、十分な情報提供がなされていないことも理由のひとつだと思います。病院の中にいると、自分の勤務している病院内で行われていることが全てになってしまいますが、いったん外に出てみると、さまざまな治療方法や選択肢があります。

しかし、医療者自身が知ろうとしなければ、知る機会がありません。手術方法も病院ごとに格差がありますが、病院内で行われていない方法は、選択肢として提示されることも少ないです。フリーで活動することで、病院の枠を超えて、患者さんの望む選択を提案することができたり、セカンドオピニオンをコーディネートすることもできます。

川上:どんなに優秀な看護師でも、病院の中だけで活動していると、その疾患を取り巻く外部環境まではなかなか見えてこないですよね。私も、病院を退職してNPO活動(キャンサーネットジャパン)に専従となって、患者会やサバイバーの方々が、がん医療に及ぼしている影響を思い知りました。

門倉:患者会についてもその通りですね。病院勤務をしているだけでは、なかなかサバイバーさんたちの活動を知る機会がありません。病院という組織の中にいると、病院の枠を外れた活動を快く思わない方もいます。病院勤務時代に行っていたSNS発信に関して、看護師の友人から嫌悪感を持たれたこともありました。SNS自体に不信感を持っていたのかもしれません。2016年にがん化学療法看護認定看護師の教育課程では、社会心理学の先生が「医療や看護の世界は狭く、一般社会からみると異質だ」と話されていたことがあります。その言葉を今でもよく覚えています。

読者へのメッセージ


川上:病院は閉鎖的な環境ではありますよね。これを目にしてくださっている看護師さんがいらしたら、ぜひ、病院の外の患者さんや、支援にも関心を持っていただきたいですね。最後に、読者の方々にメッセージがあればお願いいたします。

門倉:私自身、SNSでの発信でこの活動を続けていますが、SNSでフォロワー数の多い人が、誤った医療情報を発信しているものを度々見かけます。多くの情報の中から、正しい情報を見極めることは簡単なことではありませんが、サバイバーさんをサポートしたいと心から願っている支援者は私だけはありませんので、ぜひそのような方と繋がっていただきたいと思います。ナラティブハートを必要として下されば、全力で伴走いたしますので、頼りにしていただけたら嬉しいです。

関連リンク
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ナラティブハート インスタグラム

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