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光免疫療法 その1~第3相試験LUZERA-301が開始、期待される治療法、臨床応用への最終段階~

[公開日] 2018.12.19[最終更新日] 2018.12.19

オンコロの可知です。はじめて「光免疫療法」のことを書きたいと思います。ニュース枠ではなく、ブログ枠で書きますが、宜しければお付き合いください。 *続きを書きました。 光免疫療法、その2 ~第3相試験LUZERA-301の情報が公開、局所進行頭頸部扁平上皮がんが対象~

光免疫療法とは?

光免疫療法(近赤外光線免疫治療法:NIR-PIT)とは、「①がん細胞を標的とする分子標的薬にIR700という光吸収体を結合した複合体(コンジュゲート)をがん患者に投与した後に光(近赤外線)をあてること」により、「②光吸収体が がん細胞内で熱を発する物質に変化して物理的に破壊」し、「③急激な細胞破壊にて放出された腫瘍抗原により免疫が活性化」され、「④光が届かない部位の腫瘍にも有効性を示す」であろうということが期待されている治療法となります。また、副作用も少ないであろうといわれており、侵襲性の少ない治療としても優秀です。 米国国立がん研究所(NCI)に所属する日本人医師の小林 久隆先生が開発し、少なくとも非臨床試験であるマウスモデルで有効性が示されており、現在、楽天アスピリアン社主導にて、EGFR抗体セツキシマブと光吸収体複合体であるASP-1929(RM-1929)の臨床試験が実施されています。すでに第1/2相試験の結果が公開されており、2018年1月に米国食品医薬品局(FDA)から「ファストトラック」にも指定されていることからもポテンシャルが伺えます。 この治療が有効であれば、抗体をHER2抗体などに変更することでEGFR発現が少ないがんにも応用が可能であり、非臨床モデルではトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)との複合体が試みられている他、アベルマブ(商品名バベンチオ)といったPD-L1のような免疫チェックポイント阻害薬との複合体、制御性T細胞(Treg)のような免疫細胞のみをターゲットとする抗体との複合体などの免疫学的アプローチも試みられています。 その他、楽天の三木谷浩史氏が肝いりで主導されていることでも注目されている治療法となり、楽天アスピリアン社は2018年8月に1億5000万ドルを調達し、第3相試験の実施を計画していることを発表していました。 NCIが光免疫療法を説明する動画も公開されています。(英語がわからなくても、わかりやすいと思います) https://youtu.be/3yuVw90AEhs なお、以下の記事の方が私の記事よりもわかりやすいと思います。 【続報】「がん光免疫療法」の開発者・小林久隆医師に聞く――転移がんも再発もなくなる究極の治療の実用化を目指して(mugendai)

光免疫療法ASP-1929、第3相試験LUZERA-301試験が開始

12月17日に楽天アスピリアンが光免疫療法の頭頸部扁平上皮がん対象の第3相試験LUZERA-301試験を開始したと発表しました。 2種類の標準療法を受けた進行/再発頭頸部扁平上皮がん患者275名が「光免疫療法」と「医師が選択した治療方法」にて比較検討する非盲検無作為化比較試験となります。国際共同試験となり、米国、欧州、アジアにて実施する予定となっているようです。 Rakuten Aspyrian Enrolling Phase 3 Trial of ASP-1929 for Head and Neck Cancer(Rakuten Aspyrian, Inc.) このことについては、毎日新聞の永山悦子氏は「国内では全国の医療機関10カ所程度で、再発頭頸(けい)部がん患者を対象に実施される」と報じています。(後述しますが、永山氏は、長い間、光免疫療法を追われている方ですので、情報通なのでしょう) がん「光免疫療法」、国内10カ所で治験開始へ 米製薬ベンチャー(毎日新聞) ちなみに、Clinicaltrials.govにてLUZERA-301試験の情報であろうものは見つけましたが、以下のように情報が正式に公開されていませんでしたので、詳しい参加条件が不明となります。 いずれにせよ、2019年中には実施されることは間違いないと思いますし、第3相試験開始ということは期待ができるものなのだと思います。

オンコロで「光免疫療法」を取り上げなかった訳

さて、1年半前くらいから光免疫療法といった言葉を聞くようになり、オンコロが開催するセミナーで必ずといっていいほど光免疫療法について質問されるようになりました。 しかしながら、オンコロでは、今まで、光免疫療法について触れることはありませんでした。 理由はただ1つ、当時、臨床試験結果が公開されていなかった(あるいは公開されてはいたものの情報にたどり着かなかった)ことと、どの先生に聞いても「聞いたことがない」「わからない」という回答であり、それほど「謎のベールに包まれたもの」だったのです。 そんな中、私が、光免疫療法の実態を知ったのは、2018年1月24日、国立がん研究センター東病院の吉野 孝之先生への以下のインタビューの時です。 治験特集『国立がん研究センター東病院の治験実施体制』 VOL.2 ~東病院の見据える治験の未来~ このとき、東病院で光免疫療法の第1相試験が実施される情報は仕入れていたため、20分くらいは「そのこと」について質問していました。 吉野先生は「期待ができそうなこと」「光が届かないと意味がないこと」「抗体はEGFR抗体のセツキシマブ(商品名アービタックス)であること」「日本では治験をやってみないとわからないこと」「頭頸部がん以外に、食道がんでも実施予定のこと」と回答し、関係者に配っているという1冊の本をくださいました。 それが、上述した永山氏と光免疫療法開発者の小林先生の共著となる「がん光免疫療法の登場──手術や抗がん剤、放射線ではない画期的治療」です。 その本には、どのように光免疫療法を見出したか、第1相試験結果などが掲載されており、「そのストーリーが面白いこと」「少なくとも光が届く局所には有効でありそうなこと」という感想をもつ一方、「転移巣についてはパフォーマンスが不透明」とみてとれました。侵襲性の少ない放射線療法のようなもので、光療法として考えるのであれば局所治療には期待できるけれども、光免疫療法として考えるのであれば進行がんに対してはよくわからない治療法と見てとれたのです。 なお、上述の本は「光免疫療法推し」の仕上がりになっているため注意が必要です。

治験担当医の感想 -ぽろぽろ落ちる感じ-

オンコロ上では光免疫療法を報じない一方、4月に行われたオンコロ・ミーツ・キャンサーエキスパートにて国立がん研究センター東病院の岡野 晋先生に少し触れていただきました。岡野先生は東病院の頭頸部内科に所属している先生です。ようするに治験担当医の一人になり、すでに始まっている治験の患者さんを間近で見ている日本で数少ない一人というわけです。 第28回OMCE 頭頸部がんレポート セミナー後に詳しく聞いている中で「ここまであからさまに効果がある治療は類を見ない。ぽろぽろと落ちる感じ」とお話しされていたのを今でも覚えています。

米国臨床腫瘍学会で発表された第2a相試験結果

そんな中、今年の6月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)にて第2a相試験結果が公表されました。 プラチナ製剤が使用できなくなった再発性頭頸部扁平上皮がん対象となる第2a相試験結果であり、治療が行われた30名の結果にて、完全奏効率14%(4/28名)、部分奏効率28%(8/28名)、無増悪生存期間中央値5.7か月(173日;28名のデータ)、全生存期間中央値9.1ヵ月(278日;30名のデータ)となりました。用量制限毒性、皮膚光線過敏症は観察されておらず、重篤な有害事象として治療部位の疼痛、腫瘍出血・腫脹などが認められたとのことです。 RM-1929 photo-immunotherapy in patients with recurrent head and neck cancer: Results of a multicenter phase 2a open-label clinical trial.(ASCO2018,Abstract No.6039) この結果をみて有望であろうと思う一方、前評判よりは奏効率が低めの印象がしました。ただ、治療法がない方が殆どである中、奏効率28%、無増悪生存期間中央値5.7ヵ月は期待できる数字です。

日本肺癌学会学術集会にて、小林先生が特別講演

11月29日から12月1日にて行われた第59回日本肺癌学会学術集会にて、小林先生が特別講演をされるということで聴講しました。 その講演はとても分かりやすく、「非臨床上では光免疫療法についての全体像が分かりかけていること」「マウス実験では光免疫療法を実施した場合、免疫記憶により再発も起こりづらいことを示すデータがあること」「腫瘍細胞を標的にする以外にTregなどをターゲットにする研究も行っていること」「その他に、どのような分子をターゲットにして戦略を立てているか」「破壊した腫瘍細胞が残存するため、臨床試験の標準な評価手法であるRECISTが不向きかも知れないこと」など、理解できました。 (もっと詳しく書きたいのですが、知識が追い付かず申し訳ないです) その他にも、「光を届ける技術の開発が必要であること」も話されており、光を届ける医療機器開発が重要であることを物語っています。

光を届けるために

12月4日に開催された「第2回メディカル・デバイス・イノベーション in 柏の葉―柏の葉をシリコンバレーに―」において、 国立がん研究センター東病院 NEXT医療機器開発センター 内視鏡機器開発室長である矢野 友規先生の発表の中に、共同研究企業として楽天アスピリアンの名前がありました。 よくよく考えれば、(プロジェクトXでも有名のように)胃カメラを開発したのは元東京大学の宇治 達郎先生とオリンパス社であり、内視鏡は日本のお家芸。光を届けるにはそのような技術が必要となります。 そして、NEXT医療機器開発センターは新規内視鏡開発にも力を入れているとのことで、面白い展開がみられるかもしれません。

期待される治療法、臨床応用への最終段階へ

さて、いつものようにまとまりがなくなりましたが、「ここ1年半の心境の変化」を私の周りの動きと共に書かせて頂きました。 よくわかっていないまま過度に期待させたくなかったため報じていませんでしたが、期待ができる治療法なのだと思っています。 一方、「免疫療法としての臨床効果」や「光を届けるというミッション」など課題があるのも確かです。 最後に、肺癌学会学術集会にて小林先生の講演を聞いた出席者が少なかったことに、日本の肺がん専門医の注目度の低さが伺え、このことは初期の免疫チェックポイント阻害薬に似ていると思いました。 こういった状況が覆る未来となる第3相試験の結果を待ち望みたいと思います。 *続きはコチラ 光免疫療法、その2 ~第3相試験LUZERA-301の情報が公開、局所進行頭頸部扁平上皮がんが対象~ (文:可知 健太)
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3Hメディソリューション株式会社 執行役員 可知 健太

オンコロジー領域の臨床開発に携わった後、2015年にがん情報サイト「オンコロ」を立ち上げ、2018年に希少疾患情報サイト「レアズ」を立ち上げる。一方で、治験のプロジェクトマネジメント業務、臨床試験支援システム、医療機器プログラム開発、リアルワールドデータネットワーク網の構築等のコンサルテーションに従事。理学修士。

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