動画タイトル:#大腸がん【2024年最新!手術×化学療法】 松本 俊彦 先生(一宮西病院 腫瘍内科)
講師:松本 俊彦 先生(一宮西病院 腫瘍内科)
ライブ配信:2024年3月8日/編集動画公開:2024年6月24日
※この記事はセミナー動画「#大腸がん【2024年最新!手術×化学療法】 松本 俊彦 先生(一宮西病院 腫瘍内科)」をもとに作成されています。治療法やその開発段階については、セミナー実施時点のものであることにご留意ください。
はじめに:大腸がんの現状と啓発活動の重要性
大腸がんは、日本国内において男女合わせると罹患数で第1位、男女別でもそれぞれ第2位と、非常に頻度の高いがんです。生涯のうちに大腸がんと診断されるのは、男性でおよそ11人に1人、女性でおよそ13人に1人に上ります。特に50代、60代といった比較的若い時期から罹患率が増加する傾向にあります。
大腸がんの治療は、2022年1月に発行された最新の「大腸癌治療ガイドライン」に基づいて進められており、患者さんも参考にすることが推奨されています。
大腸がんの進行度(ステージ)と診断
大腸がんのステージは、深さ(がんが腸壁にどのくらい深く入っているか)、リンパ節転移の有無、そして遠隔臓器への転移(肝臓や肺など)の3つの要素によって決定されます。
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早期がん:粘膜表面に留まっているもの
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進行がん:粘膜から固有筋層など深い層へ進行したもの
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ステージ1~2:その場に留まっているが、深さによってステージが変動する
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ステージ3:遠隔転移はないが、所属リンパ節への転移がある場合
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ステージ4:肝臓など遠隔臓器への転移がある場合
診断では、内視鏡による組織検査(生検)でがんの確定診断を行います。そのほかには、バリウムを用いた透視検査や注腸検査に加え、CTやMRI、場合によってはPET-CTを用いて、深達度や転移の有無を評価し、ステージを決定します。
大腸がんの標準治療と手術の進化
治療はステージによって異なります。浅い局所のがん(ステージ0)であれば内視鏡治療が適応されます。一般的にステージ1から3では手術治療が中心となりますが、特にステージ2、3では、手術と化学療法を組み合わせる補助化学療法が重要な役割を果たします。ステージ4でも、肝臓や肺への転移で切除可能な場合は手術が行われることがあります。
大腸がんの手術では、がんがある部位だけでなく、余裕を持って大腸を切除し(約10cm程度)、転移しやすい周囲のリンパ節も扇状に切除します。
手術方法も進化しています。
1. 開腹手術:従来の方法で大きな傷を伴いますが、手術時間が比較的短い傾向にあります。しかし、痛みや出血が多く、術後の後遺症(尿路・神経系)のリスクも高くなりがちです。
2. 腹腔鏡手術:傷が小さく、術後の痛みが軽減され、出血も少ないのが特徴です。手術時間は開腹手術よりも長くなる傾向がありますが、後遺症が軽くなる傾向があります。
3. ロボット支援下手術:腹腔鏡手術をベースとし、ロボットが手術を支援することで、より精密な操作が可能になります。出血が少なく、特に神経や尿路に関する術後の後遺症を軽減できる可能性が報告されており、患者さんにとって優しい手術となることが期待されています。ただし、導入されている施設はまだ限られています。
周術期化学療法:再発リスクを減らすための戦略
周術期化学療法とは、手術の前または後に行い、根治する可能性を高める治療です。特に大腸がんでは術後補助化学療法(手術後の化学療法)が主流であり、ハイリスクのステージ2およびステージ3の患者さんが対象となります。
この治療の目的は、手術で取り切れたように見えても体内に残っている可能性のある目に見えないがん細胞を抗がん剤で除去し、再発のリスクを下げることです。
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対象:ステージ3、またはハイリスクのステージ2の患者。
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期間:通常3ヶ月または6ヶ月限定で行われます。
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重要性:術後化学療法を行うことで、再発患者を減らし、根治する可能性を高めます。
治療選択を左右する遺伝子検査の重要性
術後補助化学療法を開始する前には、手術で摘出した組織を用いて遺伝子検査を行うことが推奨されています。特に以下の3つの遺伝子変異を調べることが考慮されています。
1. マイクロサテライト不安定性(MSI):MSI-Highの場合、手術のみの成績が良好であり、フッ化ピリミジン単独療法(5-FU系)の術後化学療法では効果が乏しい、あるいは単独手術よりも成績が悪い可能性が示されています。高齢者などで軽い治療を検討する際も、MSI-Hであれば単独療法は推奨されません。
2. RAS遺伝子(K-RAS, N-RAS):RAS遺伝子に変異がある場合、再発リスクが高くなる可能性が示唆されており、特に肺転移の再発が多いことが知られています。
3. BRAF遺伝子:BRAF遺伝子に変異がある場合も、再発が多く予後が悪いことが知られています。変異がある場合、フッ化ピリミジン単独療法よりも、2種類の抗がん剤を組み合わせた治療(FOLFOXなど)の方が良い可能性が示唆されています。
これらの遺伝子検査の結果は、患者さんの再発リスクを想定し、薬剤選択に影響するため、術後の追加治療前に測定することが強く推奨されています。
術後化学療法の具体的なレジメンと期間
術後化学療法で推奨される治療は、主に以下の2種類です。
1. オキサリプラチン併用療法
o CAPEOX(カペシタビン+オキサリプラチン)
o FOLFOX(5-FU/LV+オキサリプラチン)
2. フッ化ピリミジン単独療法
o カペシタビンまたはS-1(飲み薬)
治療期間の選択(3ヶ月 vs 6ヶ月)
ステージ3の結腸がんに対しては、オキサリプラチン併用療法を原則6ヶ月間行うことが強く推奨されています。
しかし、大規模な国際共同研究の結果、再発リスクの低い群(T1-3 N1、深さが浅いまたはリンパ節転移が少ない)においては、CAPEOXであれば3ヶ月治療と6ヶ月治療で再発率に大きな差がない(非劣性)ことが示されました。
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低リスク群:3ヶ月間のCAPEOXも選択肢となる。
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高リスク群(T4:非常に深いがん、またはリンパ節転移が多い):標準通り6ヶ月が基本となる。
オキサリプラチンは、手足のしびれ(末梢神経障害)という副作用が強く、治療終了後にさらに悪化することがあるため、患者さんの生活の質(QOL)を考慮し、高度のしびれが出た場合は、オキサリプラチンを中止し、残りの期間を飲み薬(カペシタビンなど)で継続することが考慮されます。
ステージ2の治療判断
ステージ2の患者さんのすべてに術後化学療法を行う必要はなく、一般的には行わないことが弱く推奨されます。ただし、以下の高リスク因子を持つ場合は、再発リスクを下げるために化学療法を行うことが弱く推奨されます。
• T4(非常に深いがん)
• 切除したリンパ節の個数が少ない
• 低分化型
• 脈管・神経へのがんの侵入がある(脈管侵襲、神経侵襲)
• 穿孔や腸閉塞で発見された場合
ハイリスクステージ2の患者さんには、3ヶ月間のCAPEOX治療が考慮されることが多いです。
高齢者への配慮
70歳以上の高齢者に対しても、元気で臓器機能が良好、基礎疾患がない場合は術後化学療法を行うことが推奨されます。ただし、オキサリプラチンによる上乗せ効果は若年者ほどではないことが示唆されており、副作用のリスクとベネフィットを総合的に判断し、医師・看護師・薬剤師、家族を含めたチームで検討することが重要です。
大腸がん治療の未来:研究開発の最前線
現在、大腸がんの周術期治療に関して、以下の分野で研究が進んでいます。
1. 術前治療(ネオアジュバント)の開発
切除可能な結腸がんに対する術前化学療法は、現時点では推奨されていませんが、直腸がんにおいては、化学療法や化学放射線療法を手術前に行う研究が進んでいます。
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直腸がんにおけるTotal Neoadjuvant Therapy (TNT):術前全身化学療法と放射線治療を組み合わせることで、遠隔転移と局所再発の両方を制御し、一部の患者ではがんが完全に消失し、手術を避けられる(臓器温存)可能性が期待されています。
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免疫チェックポイント阻害剤の活用:直腸がんのMSI-High(約5%)を対象とした国際試験では、免疫チェックポイント阻害剤(ドスタルリマブ[商品名:ジェンペルリ]など)を術前投与したところ、全症例で腫瘍がほぼ消失するという注目すべき結果が報告されました。日本でも同様の研究が進行中です。
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個別化治療:BRAF変異などの遺伝子変異がある患者に対し、手術前にその変異を標的とした抗がん剤治療を行うことで、より効果的に手術に臨める時代の到来も視野に入っています。
2. リキッドバイオプシー(ctDNA)による個別化
血液中に存在するがん細胞のDNA断片(ctDNA)を検出するリキッドバイオプシー技術の研究が進んでいます。
ctDNA検査は再発のモニタリングに利用され、将来的に、ctDNAの有無によって術後化学療法を行うか否かを決める時代が来る可能性があります。現在、日本でも、再発リスクが低いステージ3やハイリスクステージ2の患者において、ctDNAが陰性であれば化学療法を行わない戦略を検証する臨床試験が進められており、結果が待たれています。
治療の意思決定と標準治療の理解
治療を選択する上で、患者さんと医療者が情報を共有し、意思決定を共に行うシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)が非常に重要です。
標準治療とは「最良の治療」を意味し、現在最も一般的に患者さんに推奨されるべき治療法です。患者さんは、ご自身の病状や治療の目的を理解し、疑問点や希望を遠慮せずに医師に伝え、主体的に治療に参加することが、治療を成功させるための鍵となります。
【質疑応答・ディスカッション】患者さんの疑問と医療者の見解
※松本先生と、大腸がん患者代表の佐々木氏を交えたディスカッションより抜粋
Q1. ロボット支援下手術の現状と普及について
• 現状の制限:ロボット支援下手術は保険適用となっているが、現状では支援ロボットが導入されているある程度規模の大きい施設での実施に限られる。
• 普及への期待と特徴:今後普及が進むと期待されており、経験豊富な施設での実績は増加している。細やかな操作が可能で、術後の後遺症が少ないのが大きな特徴。
Q2. ガイドラインで「弱く推奨」される治療の意思決定について
• 患者の迷い:ガイドラインで「弱く推奨」とされている治療を受けるべきか、患者として迷いが生じる。
• →「弱く推奨」される治療(特に高齢者への化学療法など)の判断には、がんの進行度(リスク)だけでなく、患者自身の元気度(PS)、臓器機能、合併症の有無などを総合的に考慮する必要がある。また、オキサリプラチンによるしびれが長期的にQOLを低下させる可能性があるため、特に術後治療の選択は慎重に行うべきだと強調した。
• 意思決定の鍵:患者と医療者(チーム)が、病状、治療による利益、副作用による不利益をしっかり共有することが不可欠。
Q3. 患者として治療に臨む際の心構えと準備について
• SDMのための準備:診察時にSDM(共同意思決定)を効果的に行うためには、ガイドラインなどで医学情報を事前に学ぶこと、そして自分がどう生きたいかを問い直し医師に伝えることが非常に重要。
• ピアサポートの活用:同じ病気の仲間(ピア)の経験談も参考にしている。
Q4. 新薬(分子標的薬)の開発状況について
• 従来の分子標的薬の歴史:大腸がんにおいて、従来の血管新生阻害剤(アバスチンなど)や抗EGFR抗体薬などの分子標的薬は、手術前後の補助療法として良い結果が出ていない歴史がある。
• 現在の開発焦点:現時点での新薬開発の焦点は、MSI-Hの患者に対する免疫チェックポイント阻害剤である。
• 周術期治療への採用見通し:他の分子標的薬が周術期治療で採用されるには時間がかかると思われる。
終わりに
大腸がんの術後化学療法は、再発リスクを低減するための非常に重要な治療です。今後、直腸がんに対する放射線治療を交えた術前治療、MSI-H症例に対する免疫チェックポイント阻害剤、そして血液からのctDNA検出といった新しい技術や戦略により、治療法は大きく変化していくことが予想されます。
患者の皆様は、ご自身の病状をよく理解し、主治医の先生と十分に相談しながら、ご自身にとって最適な治療を選択してください。